第13話 ウォズニアックテスト (1)





「その形でないと出来ない事にこそ、キミの存在意義がある」


「私の……存在意義……」


「だからそう、キミは〈人に寄り添う〉ことで人々のように〈立ち回る〉んだ」


「かしこまりました」


 そう言って立ち上りダイニングテーブルを回り込み、俺の隣の席へ座る久令愛。恋人の様に俺の腕に掴まり頬を肩へ預けてきた。


「その〈立ち回り〉と〈寄り添い〉に何か意味が?……」


「萌隆斗さんののために」


「勘違いも甚だしいが俺も勘違いしていたいのでまあこのままで」


「はい」


 う……これを生活の質の向上と言うのなら、俺の掲げた崇高な目標―――― 人々のセラピーに役立つ最高のボットの実現―――― が何の進歩も得られなかった事になる。


 でもメッチャ癒されるしこれで満足だ。イヤイヤ……


「……コホン、ところがこの数日で分かった。キミはまだ人とのコミュニケーションに難がある。このままでは妙なデータしか取れず、リポートも失敗談のような将来課題の羅列になってしまう」


「分かります。我ながらにAIとして未熟だと」


 って……殊勝なセリフだが何の説得力も無い。先程のまま肩にもたれてウットリしているからだ。


「元は相当優秀なんだ。だが完全モードで起動する前に、キミのコアプログラムの『教師なし学習』のパラメータを最大にしたせいでデータベース抽出よりも疑似脳ネットワーク重視になった。

 ……って聞いてる?!

つまり真っさらな赤子の如く、見聞きしたものを自分で捉え考えて判断する『より人間的なAI成分』が主体となってしまった。そのためにまだヨチヨチ歩き状態なんだ」


「なぜそのパラメータを変えたのでしょう。優秀だったのに」



 ……はぐっ



 痛いところを突かれ俺は苦い顔を隠した。もちろん俺をご主人様としてインプリンティングする為とは口が裂けても言えない。だが可愛らしい大きな瞳が執拗に覗き込んでくる。


「そ、それは……あれだ! 未来に懸けたんだ。いずれ疑似脳ネットワークの方がより人間に近づけると!」


「成る程~、さすが慧眼です!」


 ケホッッッ!……


「ゴホン、……そ、そこでそれらが上手く機能する様になってからリポー卜を作成しようかと思う。まずは人間的に成長して貰うのが先だ」


「はい。そーか、だから私は素直なのですね」


 ……自分で言うか?   はぁ……


「ま、でも久令愛が頑張らないとキミの双子の姉弟である託人のロボがコンペティション用に使われる事になるかもしれない。来年の1月末の時点で成長結果の良い方で申請予定なんだ」


「双子の姉弟がいるのですね。何か嬉しいです」


「見た日は全然違うがな。その時点でどちらをコンペに採用するか決めて2月に論文にまとめて提出。

 のちに俺が高校3年生で1次、2次選考があって入選が確定する。だからこの半年の成果が全てだ」


「では早速、具体的に指示をお願いします」

「そうこなきゃ! やはり実践有るのみ! 」


 そう、それに先立って実力度を計る。明日、託人と共同テストを行う事にしたんだ。 あの有名な……




「向こうのロボと共に、かの『ウォズニアックテスト』を受けて貰う!!!」


「はいっ!」





  * * *




 翌日。


「これはAIロボとしての総合力を一度で試せる優れたテストだ」



 今日は公平性を保つため、場所はここ、託人のカノジョの瀬菜セナちゃんの家を使わせて貰うことになった。

 丁度その家の前で託人と鉢合わせになった。

 

「因みにこいつが俺の相棒の託人だ。それとその隣がキミと双子の姉弟脳を持つロボの『レオン』だ」


「よお、萌隆斗、久しぶり。どうだ、順調か?」


 爽やかなイケメンぶりが健在なのが癪だが、いい奴だからまあ許す。


「どうかな。多分そっちより苦戦してるかもな。しかしよく『レオン』と外出できるな、久令愛と姉弟脳とは思えん。似ても似つかない。完全にSFの世界だ」



 レオンというのは俺がつけたアダ名だ。相手の好みに応じて顔と性格を替えるため、揶揄で『カメレオンみたいなヤツだな』、と言った拍子に、略してレオンと呼び始めたのがそのまま定着している。


 LEONレオン――― 我ながら案外カッコ良いアダ名だ。

 フッ……由来は最低だがな。呼ぶ程に何か勝てた気になるから俺的に満足だ。

 故に託人は気に入ってないが、案外これ以上シックリくる呼び名がなくてそのままだ。




「ああ、この金属ボディが『カッコ良い』って評判だったけど、めちゃくちゃ注目を浴びちゃったよ」


 道中、小中学生に取り囲まれて大変だったらしい。


「その点そっちの見た目は人そのものだから楽でいいな。ところで今日はセナも楽しみにしてるぞ。陰キャの萌隆斗に可愛い彼女が出来たって聞いて」


 爽やかなスカした笑顔でからかってる……クソッ


「お前、どういう紹介を……まあセナちゃんには絶対にバカにされるだろうけどな」




 そう言ってチャイムを押す。 と、わが校の学年トップランクのアイドルが顔を出す。ヤッパリ可愛い。


 ――― 柳井セナだ。掌をパッとしてドアから飛び出してきた。


「ヤッホー! めるっちーお久~。お、オオ~ッ、そ、その子が噂の……キャーッスゴーッ、テラカワイィ―――――ッ」


「よお、セナちゃん……相変わらずのテンションだね……」


「いや~、めるっちが等身大人形を彼女にしたって聴いたときは遂にそこ迄……ってマジ引いたけど、これなら納得~っ! 一人っ子だから私にも妹として1台欲しい~!」


「アハハ……気に入って貰えて良かった。じゃ、早速始めようか」


 全員で玄関に入り、すぐ傍の和室へといざなわれると早速準備を開始。そして託人が説明し出した。


「じゃ今からウォズニアックテストを始めるよ。各AIロボは1体ずつこの部屋から出て奥へ行き、コーヒーを淹れてもらう。ただそれだけのテストだ」



 そう。それだけ。しかしだからこそ試される!



 つまり平均的な家に入り、間取りも知らされず、リアルタイム物体検知や建築の動的マッピング能力で状況把握。


 ドアや間取りをクリアできても仕舞ってある物を効率的に探し出すために家の者と言語でコミュニケーションを取らねばならない。



「そこで会話でのやり取りをセナが担当してくれる」





 え……って、なんか不吉な予感。








< continue to next time >

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セナの前では完全にイジラレキャラの萌隆斗めると。凸凹コンビがガタガタトリオになる予感しかしない。


もし、こんなAIでも幸せになれる日が来るのを応援しても良いと思う方は、♡、☆、フォロー、そして気軽にコメントをいただけると嬉しいです。

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