第10話 偉いぞ久令愛! その調子だ!





「あの―、この辺の方々ですか? スクランブルなんかで怪しい動きをしてるのでユーチューバーがパフォーマンスで何かやってるのかな、なんて思って」


 ほら見ろ、この怪しさじゃあ……取り敢えず言い訳を!


「いえ、ちょっと遊んでたもので……(ったく久令愛は!)どうかされましたか?」


「ビル陰でGPSマップが使えなくて……このレストランに行ってみたくて。知ってますか?」


 スマホに表示されたレビューサイトのレストラン画像をその夫妻は見せてきた。すると横から久令愛が、


「ハイ、それならこの久令愛におまかせを。今、高速WEBサーチした所、喰えログのレビュアーさんがこの店は分かりづらいからと行き方を文章で書いてくれてますね。あの信号を右へ、最初の路地を左に行った地下1階だそうです」


「おお、いつの間に検索を! すごいですね。助かりました」


 ――― お、初めて高度AIが活躍したか! 嬉しいね~!


「はい。でもその店はどのレビューも酷評です。星の数も稀に見る2.0なのでお辞めになったほうが…んぐっ」


「いや、今のは動画パフォーマンスの台本です! 気にせず行って下さい! じゃ、ここで」


トンデモ娘の口を塞いだ手をそのままに、強引に久令愛を路地へと引っぱり込んで説教だ。


「チョット、空気読めよ! それで本当にAIなのかよ」


「えっ、空気を読め……? それ程の視認性の高いユニットは搭載されてません。ごめんなさい。

 でも私、本当に女子高生の高性能、AI なんです。萌隆斗さんがそう設定してくれたのです」


「別にダジャレ言えなんて……ハッ !! 」


 ―――このポンコツぶり、テスト段階迄はもっとマトモだったよな。まさか開発初期の俺の黒歴史妹風味が……でもあれはオフラインの時にしか表面化しないハズ……


 あっ、ってことは再起動前にインプリンティング効果を最大にするためににしたせいか?


う~ん……


 それはつまりオンライン上の優秀なAIを統合するブレンダーの長所よりも実体験優先の真っさらな純真無垢の少女からになってしまったとか……う~んそうとしか……。


 ハッ!……だとすると !! ……


 自分の血の気が失せていくのを思いっ切り感じる。何故ならこの久令愛は脳神経ニューラルネットワークも導入して併用し始めた時、赤子状態からの育成に異様に時間が掛かったからだ。


 今のこの子なら従来のパターン認識方式ディープラーニング(※1)と併用したらさぞかし良くなるかと期待したがパラメータ失敗で完全にパターン認識の方をおろそかにしてる……

 つまりしばらくは大人の判断力になるまでずっとこんな……か ?!

   (※1・厳密にはD.L.ディープラーニング脳神経ニューラルネットワークの一種ですが久令愛の脳神経は更に最新型)




 ……ああ、目眩が……

 これじゃ完全に託人に周回遅れだ……。



萌隆斗めるとさん、サーモカメラで額から血の気が引いて見えます。お具合悪そうですからどこかで休みましょう。丁度昼どきですし、どこかのお店に入ってエネルギー補給した方が良いですよ」



  * *



 そんなこんなで食事処ヘ。

 まあ、この子に悪気は無い。いずれ学習さえ進めばきっと……だって開発時はあんなに優秀だったんだ……。


「久令愛、キミは食事が出来ないから俺が食べ終わるまで大人しくして待っててくれ、悪いな」


「いえ、ごゆっくりどうぞ。嗅覚ユニットが優秀なので香りはここからでも楽しめますからそれで十分です。それに萌隆斗さんが美味しそうに食べるところを見てると癒されますし。にしても素敵な食べっぷりですね」


 ……イヤ、ヤケ喰いなんだが。それに……


「そう言うのは久令愛が作った時に嬉しがるものなんだが、ま、いいか、もうどうでも……ガツガツ」


「ア~ン、しましょうか?」


「いや、いいって (ホント天真爛漫と言うか……ん? 店員さんが怖い顔して来た ?! なんだなんだ?)」


「あの~、そちらのお客様、当店の規定で何か注文していただかないと困ります」


「あ……私は……そう、ちょっとニオイが気になったもので……これ、全部同じ古びた油で調理されてますよね。それと化学調味料の量もかなりです。それにタバコを吸った手で料理しましたね」


「し、失礼しましたっ、すぐ交換致しますっ」


「って、モンスタークレーマーになってどーする !! 海原遊山かっ! 普通に食べれないって言え!」


 ああ、神よ、我を憐れみたまえ……


 ……まあとりあえず腹も満たされた事だし、気を取り直して次だ! とは言え街中はまだ応対レベルが追いつかん。なら人がまだまばらな海へ行こう。



  * *



 そう、俺の夏と言えばコミケ。


 海など久しぶりだ。しかし何だ、この迷惑な程の明るい世界は……。目が開けられないぞ!


「一般人にとって夏は海だ。ロボットは塩害に弱いが久令愛は全身特殊シリコンで被われてその点有利。決して錆びたりしない。きっと役立てるぞ!」


「はい。先ずはこの炎天下、熱中症でキケンそうな人を探してみます! あ、サーモグラフィが真赤を振り切って真っ白です。何もかも高温で区別つきません」


「肝心な時に何だよそれ!」


「やむを得ずレーダーに切り替えます……あ、潮の向きがマズいですね。デシカメ百倍望遠モードに移ります! あの動き……あの子、沖へ流されて溺れかかってます。今すぐライフセーバーへ!!」


 ……おっ、ホントに役立ったし! 偉いぞ、久令愛! その調子だ!


「萌隆斗さん、あそこっ、レーダーに反応が! 駐車場のエンジン切った車の中に動く物体がありますっ」


 急いで駆け寄り中を覗いてみたが……こ、これは大変だ!




「子供がいる !!  直ぐに管理事務所へ!!!」










< continue to next time >

――――――――――――――――――――

何か高性能AIアンドロイドらしくない活躍の久令愛。


もし、こんなAIでも幸せになれる日が来るのを応援しても良いと思う方は、♡、☆、フォロー、そして気軽にコメントをいただけると嬉しいです。

―――――――――――――――――――






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る