第9話 オフラインは萌え妹風味



 レーダーまで搭載してるのか……確かにロボットだからな、まあ、センサーは多いほどいいか……


「更にwi―fiやSIMデータ通信、ブルートゥースも脳内で接続okです」


「それは俺が搭載した。久令愛にはケータイいらねーよな」


「はい! 普段はそのデータ通信でオープン型AIにアクセスして思考してますからね。それ以外にTVやラジオ受信も可能。これは託人氏によるものです」


「TV? そんなのネットでも見れるし。要るのか?」


「いえ、案外災害時ネットは回線がすぐパンクするのです。そんな時でも私は情報入手可能。役に立ちます」


「本当か~ ?! そもそもデータ通信が途絶えた時のキミはオープンAI使えんからマトモな思考もどうだか。さして役に立たんだろ」


「いえ、緊急用オフライン時には萌隆斗さんの長年丹精を凝らしたコアAI『ブレンダー』の単体動作に自動切り替えされますからそこそこ話せます。自作しておいて忘れましたか?」


「いや、あれは単体ではまだイマイチだから黒歴史になる前に記憶から消そうかと。自分でも分かってんだろ」


 まあ、敢えて口に出さんがポンコツ妹風になるだろーが。……まああっちの方が可愛いけど。


「今そのオフラインモードにしてみましたのれすゥ、お兄~ちゃんっ!」


「ちょ、止めろっ!」


 確かに緊急時には切り替わったのがすぐ分かるよう、開発当初の萌え妹風の口調のままにしたのは俺の罪だが……今思うと逆にハズイ!


「なあ、やっぱせめてその口調はやめにしよう。デフォルトに戻させてくれ」


「だってぇ~、とぉっくに自己改変プログラムが複雑に絡んでるんだよー。そんな事したら、くれあ、壊れて作り直しになっちゃうよー?」


「……って口調だけの事なのになんで複雑に絡むんだよ」


「う~うん、性格にも影響してるしー、もうムリだよー。でもくれあ、頑張るから良いよねっ、お兄~ちゃんっ!」


 ふにっと上体を傾けてキラキラな笑顔で覗き上げてこられたら……うんっ、良いとも!……あ、ちゃう。


「ぐぬぅ~~~……、とにかく今は元に戻ってくれ」


「ふふ。オンラインに戻しました。諦めて下さいね。では次、視カはとても良いです。望遠は光学最大10倍ズーム、デジタル拡大視50倍・ハイスピード連写、タイムラプス撮影も。マサイ族もビックリです」


「デジカメかよ」


「聴力もアップ出来ます。集音感度は感覚的に10倍です」

「ってスパイになれるし」


「嗅覚も高感度に切り替え可能。探知犬レベルで健康チェックにも」


「AIロボットになぜ! 要らんもんばっか」


「こんな感じです。いかがでしょう。因みに託人氏は遊び心でつけたと内蔵ドライバマニュアルに書いてあります」


「何やってんだか……ま、せいぜい役に立ってくれよ」

「はい、頑張りますっ」


「にしてもだな、それだけのデバイスや有能なAIが搭載されてても実際の環境で即座に対応出来るとは限らない。ディープラーニングのような机上の認知だけでなく実践の中からも久令愛くれあの有用性を掴んでいかなきゃ」


 コクコクと素直に頷くのはまあ良いが、ちゃんと分かってんのか?


「だから良く聞きなさい! つまり体験と共に成長する、すなわち、これは正に人生そのものなんだよ……」


……あ、俺、何かカッケー事、言っちゃった?……って、んなワケねーか。え? 何その尊敬の眼差し……


「はい! さすがです !! 是非その人生そのものを共有して最高の経験を積ませて下さいねっ!」



 ってその言い方、突っ込み入れろよ!


 全くこのAIは……調子狂うなぁ……





   * * *





 夏、真っ盛り。



 人は何故暑いと外へと行動したがるのか? 今一つヲタクには理解が出来ない。だが家でクーラーに当たってるだけでは久令愛の育成は一向に進まないから止むを得ず街へ。


 やっぱり暑い……。


「まず街歩きからだ。不審人物と思われると身元が無い分だけ厄介だ。極力目立たぬよう人として自然に行動を。俺の横をまるで恋人の様に淑やかに歩くんだぞ。

 ……おや、あそこ、おばあさんが車椅子で段差を越えられないようだ。久令愛!」



「はい、ではパワーアシストします。……ぬんっ」

「ヒイィィィッ!?!?」


「って車椅子ごと高々と持ち上げんな、おばあさん怯えてるっ!」


 ……パワーは最大5倍までだったか、作業系はまだ止めておこう。人身トラブルで訴えられたらかなわん。


「次は繁華街で実践トレーニングだ。ん? あの子、迷子じゃない ?!」


「はい任せて下さい!」


 ?……っていきなりミニスカートで四つん這いに!


「おいおいっ!」


「クンクン……はいっ、この嗅覚でお母さんを見つけました」


「警察犬かっ、う~ん……まあ、でも少しだけ褒めてもいいか……って子供が気味悪がってるし!」


「ママ~っ、あのおねーちゃん動きがキモイ~」


 可愛い分だけ奇行は注目浴びるなぁ。なんか目立って来た……仕方ない、場所を移そう。

 人けの少ないとこ……ん、あっちがいいな。




「ではこの公園でならどうだ…… ん、ホラ、猫が一杯いるよ。ハハ、コイツらなつこいな。久令愛、コレが猫だよ」


「かわイイですーっ! ホレッ、ホレッ! コッチですよ!」


フギャッ、フミャッ、フシューッ


「って目からのレーザーポインタで猫と遊んでどーする!」


 やっぱ対人的な行動に限定しないと成長が見込めん……まずは人に慣れるところからだ。なら逆にもっと人の多い場所へ行くか。ま、ここ東京ではその点じゃ苦労しない。




「次はここ、渋谷名物のスクランブル交差点だ。ここなら人が多過ぎで逆に目立たないから大丈夫だ。まずはぶつからない様に上手くすり抜けて行く練習だ」


「ハイッ、1/1000ハイスピードカメラで動きを見切ってアーミーモードで反復横跳び走行。ミリ波衝突防止レーダーで絶対当たりません!しゅたたたたたたた」


「コラッ! 皆ビビってるだろ!」



ああ、やっぱ目立ってるやんか~! そんなだから観光で来たっぽい中高年夫婦が近付いて来ちゃったじゃないか。



「あの~……」








< continue to next time >


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凸凹コンビ確定の二人。

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