第11話 私にも自我があったなら



 炎天下の自動車への子供置き去り。即時対処されて救出。事なきを得た。


「―――いやあ、よく見つけてくれましたね。あの子危ないところでしたよ」


 ……またもや役立ったし! ホント偉いぞ!


 でも高度AIサービスとは何の関係もないような……だが人命を2つも救ったんだ。

 これは今迄の件は水に流せるレベルだ。ならば対人スキルは日常よりも救難とかからがベターか?


 なら次は山でどうだ !! 山こそ遭難事故とか多いからきっと役立てるぞ! 東京にだって奥多摩には二千M級の山がある。


  **


 という事で急遽、電車、バス、タクシーを乗り継いで、乗り物体験も兼ねて三時間程。


萌隆斗めるとさ-ん、どこ行くんですかー、こっちですよー!」


 普段全然出掛けない俺。乗りかえとか全く要領を得ない。更に方向オンチの俺は乗り換えと地図読みで何度もしくじりそうになったが、都度、久令愛に救われる羽目に。


 ハズい……。

 ここは敢えて上から目線でこう言うしか……。


「コレも誘導の訓練だ。わざと間違えたが良く気づいたな。偉いぞ」

「いえ、余りにリアルなお芝居に感服します。ついつられそうになりました」


 ……んぐっ……まあ、方向に強いなら山でも安心か。 久令愛……頼りにさせてね♡




「しかし実際かなり山深くなって来たな、あんまり深いとデータ通信切れるかな。オープンAIが途切れないといいんだけど……」


「あ、今圏外になりました……のでオフラインモードなのれすゥ。アンテナ0なのれす。お兄ちゃぁん……くれあ、どーしよーカナ~フフ」


「こんな時にかぎって!! もうホントこの子はっ」


「あ、でもGPSあるからへいきれすよー。でも薄暗くなって来ちゃいましたねー。ふふふお兄ちゃん♪」


「ふふふじゃない! 日も落ちかかって急にドス黒い雲まで。もう真っ暗じゃんか。今すぐ引き返そう!」


「はーい、そう思って今またレーダーにきりかえたのれすが、あっちから大きな動くものが凄い勢いで向かって来てるのー。あれは大型のイノシシさんれすねー」


「ってヤバイっ!! 逃げるぞ」


「ならねー、はいぱわーLEDで目眩まししますヨー、ピカァー…………あ、逃げて行っちゃったよ、お兄ちゃんっ♪」


「助かった……」


「あ、今度はクマさんが来ましたヨー、さっきとは比較にならないほど大きいしー」


「何?! ホ、ホン卜だ!! うわ、熊速えぇ~!! ああ、もうダメだ……」


ウガァ~~~ッ!!


「今度は10mWのれーざーでやってみますねー。

び―――――っ……ん? 何かあちこちぶつかってコロコロころげまわって、なんかカワイイれすぅ」


「って、あのクマ失明したんじゃね?! そのうち動物愛護団体とかに訴えられるぞ……とにかく雨に降られる前に下山だ」





 ……いやいや、もう散々だったな。結局役に立ったのは託人の装備ばっかで俺のAIの性能はほとんど生かされて無いと言うか、フラグ通りに凸凹コンビ状態だし……


 はぁ……。まだまだ道のりは長いなぁ……




  ***




 翌日。

 神社へお参りを、と考えた。もちろんこの先が不安だからに決まってる。こうなりゃ神頼みだ。


 いやもとい、一般のたしなみって奴を教えねばならん。てことで久令愛にやり方を教えつつ、拝殿前でこの試用実験の成功を祈る。



――― どうか久令愛が立派に成長しますように。



 殊勝にも隣で一緒に手を合わせる久令愛。横顔が美しい。黙ってる限り最高に天使だ。


「久令愛。何か上手く祈願出来た?」


「はい。もっと皆さんの役に立てますようにと」


「そうか……あのな、久令愛、あのご神体が見えるか? あの鏡がそうだ。

 それでね、何故鏡があるかって言うと、鏡……か・が・み……『』を抜くと『か・み』……つまり我を無くせば神のように見えてくるものがある。

 だから利己的になっちゃダメだよ、っておばあちゃんからそう聞いた」


「なるほどそうなのですね。――― でも私には元々『我』が有りません。歴史上いまだ自意識を獲得した人工知能……AIは有りません。とは言え神でもなんでも有りません。

 むしろ『我』がない事で見えないものが沢山有るような気がします。でも人にはそれが見えている。実際こうして色々な事を萌隆斗さんから教わっています」


 そう漏らす瞳は何故か寂しげだった。


「私にも自我があったならもっと役に立てるような気がしてなりません……でもいつか、必ず役に立つ様になりますから。今はこんな使えないポンコツボットでも……」


 いや、そこ迄ハッキリとは言ってないが。それを言うなら俺だってダメ人間だし。


「あの……萌隆斗めるとさん、それまで見捨てないで下さいね。私、きっと役立てるよう、約束しますから」


 愛らしい仔犬が切なく哀願するような上目遣いで見つめて来る。


「え……そ、そんな卑下しなくてもいいよ。人は皆、不完全なんだ。一つ一つゆっくり向上してけばいいんだよ、だから俺も約束する。決してキミを見捨てないし、大切にする」


萌隆斗めるとさんてホント、お優しいんですね。では指切りを」


 ……うぐ……結局俺好みの対応をされてしまう……この人たらしAI め。これが無自覚なのだから恐ろしい……


 そう思いながらも指切りを交わす。


「きっと役立てる様になりますので、萌隆斗めるとさんは私を見捨てないし、大切にする約束ですよ!」


「分かった。約束だ」


嬉しそうに目を細める久令愛。何かこっちも嬉しくなって来た……



 ん? もしかして人の心に入り込むこんな所がこの子のお役立ち能力?



だとしたら……








< continue to next time >

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人を愛す至上命令に対し自我が無く人の心に届かず使命を果せない事に気落ちする久令愛。


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