第6話 真夏の夜の夢




 シ――――ン…………



 夏の夜の静寂。それも異様な程の……。

 不吉だ。




「こ、これは嵐の前の静けさってヤツか? いや、フラグを立てるのはよそう」


 託人も帰り、食事を済ませ心を落ち着かせる。


 ……長い間PC越しに対話して来たよく知ってる筈のこの子。なのにまるで初対面の緊張が漲っているし……


 だって普通に『体を持った人間』として共同生活してくなんて、どれだけ楽しみにしてたか。これは正に夢の実現だ!


 この所 <ベースモード> で基本的な調整を終えて、いよいよ一人の人間として始動させる。再起動後は例の刷り込み(インプリンティング)がある。もち、やり直しは効かない。



「う~、何か緊張するなあ」



 ドールの長い髪を掻き分け後頭部のファスナーを開き、起動ボタンON、すぐファスナーを閉じて髪を戻す。


「ツィ―――ン」


 という音がしてしばし待つと、ゆっくり顔と睫毛が持ち上がり、見つめ合う。瞳の奥で起動ランプが明滅するのが見えた。



「――――おはようございます」



 その慎ましい艶やかな桜色の小ぶりな唇から選り抜いたアニメ声優ばりのボカロの声が爽やかに部屋に響いた。


 そして何やらマジマジと見つめて来た。




[ ▼挿絵 ] 久令愛ポートレート

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16817330664556992149

(※因みにこれだけAIを題材にしながら、情けない事に挿し絵は全て手書きです……汗)




「標準モードで起動完了しました。―――認識―――インプリンティング、完了しました。あなたが私の親にしてご主人様ですね……決定。……認識。データベース読み込み完了。――――相楽萌隆斗様ですね。お名前は何と呼びましょう」


「え……あ、えっと……メルトでいいです」


 おっと、つい敬語が。ヲタクで陰キャは美少女を前にするとすぐこれだ。落ち着け、これは俺のメイドの様なものだ!


「メルト様ですね。はい。了解しました。敬称は『様』で宜しかったでしょうか?」


「いやいや、人前ではそれはちょっと……。くん、か、さんで」


「了解しました。では次に私の名前をお決め下さい」

「君の名は……」


 考えておいた名がある。だってロボットと言うより、もはや人の名だ。慎重にもなるよ。ベッドの中でずっと考えたんだ




―――――そう、昨晩……




『う~ん……取りあえずとんでもない創造物を作り上げてしまった……。見た所本っ当に可愛くて、ずっと眺めていたい位だ。俺にとってのこの創造物、の事クレアって言ったっけ……そこから連想出来る名にしよう』


 スマホで検索開始。


『ク、レ、アっと……何々、イタリア語で創造。クレアシオン(仏)、クリエーション(英)、光、明かり、透明な、聡明な、クレール、クララ……おお、光ちゃんとかあかりちゃん……イイネ~! クララとかはちょっと……う~ん迷うな』


 ……命名で字画数とか真剣に考えちゃう親の気持ち、何か分かった気がする……そう考えると俺の親、なんて名前にしてくれてんだよ!! 『メルト』とか。


 もう溶けちゃってんじゃねーか……


 まあでも託人とかはきっと託せる人になれ、なんてカンジなんだろな、アイツの人望の厚さ、正に命名通りだよ。


 ってコトは俺の萌・隆・斗、ってさしずめ何かが芽生えて、更に栄えさせる器、つまり素晴らしいものを作って発展させる人になって欲しかった、そう言う事なんだろうな……


 それに思い出した、母親が昔、心を溶かすくらい魅了する人になって欲しいとも言ってた。

 う~ん、ならこの子にはどんな子になって欲しいんだぁ俺は? やっぱりAIって言ったら人の役に立つのは当然として、この子独自の誇れる点……


……そう、『絶対律』がある。


 人を絶対に裏切らずに愛し続ける。

 それがこの子のアイデンティティ。


 AIの未来って必ず人の思考を凌駕してしまうのは目に見えてるから既に反乱を怖がられてる。でもその裏切りが絶対に無いこの子は新世代AIとして正にそこにこそ価値がある!


 字を当てるなら「永遠・恒久的」 「絶対・命令」 「愛する」

……とかか。う~ん……ひかりちゃんとかには字が当てられないなあ……この創造物クレアには……。



「ん? クレア……久、令、愛……久令愛 !! この裏切らないAIの名に相応しい!」


 等と焦点の定まらぬ回想顔でいる俺を不思議そうに覗き込む愛らしいアンドロイド。


「―――ご主人様?……いえ、萌隆斗メルトさん? 私の名は……?」


「うん、君の名はクレア。『』 ……ずっと、『』 ……言いつけられた、『』 ……愛し続ける使命の子。だから久令愛くれあ。それが君の名だよ!」


萌隆斗メルトさんが考えたのですか?」


「う……うん……そう。どう……かな……」


「はい。素敵な名前、ありがとうございますっ!」


 ニッコリ、と美しい笑みを湛え少し首を傾げる。そのままつぶらな瞳で見つめてくる。ク、レ、ア……としみじみと復唱している。何故か嬉しそうに。


 ……にしても、自意識がある訳でもないのにまるで人と話してる様だ……


 でも陰キャの俺がこんな可愛い子と普通に話せてるのも何か逆に不自然だな……


 ならもうちょっと、普段俺に出来ない事でも言ってみようか……チョットイケボ風にな。


 コホン、



「キミ、本当にカワイイね……」


 キョトンとした顔でまるで人形のように固まっている久令愛くれあ







< continue to next time >

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◆ いよいよAIドールとの生活が始まるが、早速妙な振る舞いで様子見の萌隆斗めると


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