第5話 天才を懸けた勝負の開始




 嫌なら共同制作を降りる―――――


 そう悪態を突く俺に諦めの流し目の託人。一瞬場が凍る。


「……」


 だが直ぐに気持ちを切り替え、逆に余裕の笑みを見せて来た。


「相変わらず清々しいほどのクズだな、お前らしい。ま、断れるハズも無いけどな」




 よっしゃぁぁぁ―――――っ! !

『超絶美少女アンドロイド計画! 始動だぁ!!』




 あの美貴ちゃんそっくりなリアルドール、今なら買えるからアレで作るっ!




 そうとなればコンペ提出用の最終形態をどっちにするかは来春までに決めれば良いとして、むしろそこでの性能、機能審査にパスするのが当面の目標。


 論文レベルのリポー卜のためのあらゆるデータを取らねばならない。


 しかもこの2年生での成果が全てとなる。3年になれば、1次、2次選考の結果発表を受けるのみだ。



 ――― 今からが正に正念場だ!





  * *




 そしていよいよ夏休みとなった。




 現在俺は親元を離れ一人暮し。祖母から相続税対策で生前譲り受けた土地と家が学校に近い為、そこから通っている。

 まあ、他にも実家を離れた。たまに帰省するが普段はここで羽を伸ばしたい放題だ。


 祖母は2年前に他界、ほぼシングル引き篭もりに近い案件だ。だからこそこんな事が出来る。でなきゃこんなドール抱えて帰って来たら親に何言われるか分かったもんじゃない。



  * * *



 一人暮らしの我が家に託人を招き、俺のスキンの御披露目となった。今日は託人制作の俺用ロボットにこの美少女スキンを被せる手伝いに呼んたのだが。


「どうよ、このドールの可愛さ!」


 数ヶ月かかって調達したリアルドールを見せた。それは製造会社に何度か通い、趣旨を話して特注費用も払って作って貰ったもので、中にメカが入るように型を3Dプリンターで作って渡しておいた。注文通り中空になっていた。


 そのドール。リアルなのはもちろんだがその造形。


 身長148cmの少女。自分の妄想設定では16才で俺の恋人。まあそれは置いといて、白い肌にアッシュグレージュの長い髪。それも美しいバレイヤージュ(放射状まだらのメッシュ)にハイライト。



「う……悔しいが、確かに可愛い……」



 その顔はアイドル級の美少女で、明るい琥珀色の瞳はハチミツを光に透かしたようだ。適度に張り出した胸と引き締まったウエストとヒップ。

 肌触りはスベスベの特殊シリコン製でモチッと柔らかく心地良い。


 ロボに被せるため、衣服を脱がす。俺達は目のやり場を牽制し合ってニガ笑い。思わず託人は照れながら、


「うっ……やっぱお前の脳ミソってメルトしてんなあ……こんなのを俺のロボットに被せるのかよ……こんな姿、絶対に彼女に見せられん……」


 スキンを被せる作業はリアル全裸の、しかも細部まで本ものそっくりのアレコレを出来るだけ見ない様にしながら頬と耳を真っ赤に染めつつ、妄想と何かを膨らませながら何とかして作り上げた。



 一方、先日託人の作ってた専用ロボットはASIMOを極限までカッコ良くしたカンジのデザインだった。そちらは託人がスキンも内部も自分で完成していたので、俺の作ったAI電脳PCを頭部に詰め込む時だけ手伝った。




 ―――これで『双子のブレンダー』の換装が完了した。




 実は託人のロボ、画期的なのはその空洞の顔面部だ。『ホログラフィ・ディスプレー』になっていた。


 そこに相手の好みのキャラを表示し表情を作りながら語りかけてくるというものだ。

 故にそちらの『複製脳』の方は初期化して調整。複数の成り切りキャラを瞬時に切り替えられる様に『ラーニング速度重視型』に特化した。つまり託人のロボは複数の性格を持つ『役者』なのだ。

それに対し俺のロボットは性格は一つ。


「託人、このリアルドールがまんま人間みたいに動くんだぜ。羨ましがんなよ」


「良いから早く起動しろよ」


「それにお前のは性格を可変型にしたろ。それが運命を大きく分ける事になるだろうな。この子はきっと俺に忠実な…」

「いーから早くっ!」


 わーったよ、と、スイッチを入れベースモードで起動させると……

このリアルドールを纏ったロボット。それは怖くなるほど人の動きそのものだった。


 ―――その理由。


 特殊AIが喜怒哀楽を会話の文脈から読み取り、WEB上のあらゆる動画情報を参照しリアクションを決める。その上で自分で細かな表情も作れるロボ。

 更に鏡を見させてその都度動画とのギャップを自己修正させた。


 結果……


「託人さぁ……俺、自分で脳ミソ作っといて何だがこれ……マジ、人じゃね?」


萌隆斗めるとくんよ……俺達、ヤベーもん作っちゃった? 俺もやっぱリアルドールをスキンにしよっかな」


「お前はあの未来風のロボらしい金属スキンがいいんだろ! 今更マネすんな !! それに彼女に殺されるぞ!」

「かもな。うん、止めとこ」


 ま、カノジョ持ちはそれが賢明だな。だがしかし託人君よ、 フッフッフッ……それだけじゃない。このAIはそっちの電脳とは明らかに仕様が違うのだ!

 そう、日本語では『刷り込み』、英語だと『インプリンティング』、いわゆる初めて見たものを親と思い込む鳥などに見られる習性、それを自己改変されぬよう『絶体律』に仕込んどいたのだのだよ!

ククク……いずれまた羨む事に成るだろう!


 無事に本体のセッティングを終えて、渡したペットボトルで乾杯し、ゴクリ。充実の夏休みの始まりだ。




「じゃ萌隆斗、明日からは暫く別行動だな。それぞれのタイプで実際の対人でのやり取りのデータをとってブラッシュアップだな」


 同じ電脳なのに性質がかなり異なる。成長結果の違いが実に興味深い。そして当然こうなる。


「ああ。で、どっちがより総合的に有用なAIロボに育成できるか競争だ!! だからお互い正々堂々と調律を頑張ってこう」



 お互い一目を置く者同士。切磋琢磨には寧ろこうなれて良かったという興奮の眼差しが交錯し、火花を散らした。


「だな。ただ託人は奨学金狙免除狙い。それだけは絶対取らせてやる! 枠は最大2組までだから、他のライバルにもってかれない様にお互い問題点やバグなどは逐次メッセで報告し合おう」


「OK。では1月末、そこで良い方をコンペに採用する。俺はこう言う事は手加減しない主義だ、何せ天才萌隆斗メルトが相手だしな。絶対負けん!」




「ああ、受けて立とう!」







< continue to next time >

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