第46話 ボスとして
千尋side
「はじめます。
Q.現在組織叛意について、ファクトリー壊滅援助の真意」
「ファクトリー側の組織は通称『
ダスクはデカすぎて既に飽和状態、幹部も殆どトンズラして崩壊が始まってる。ボスの病がバレてるしどうにもならん。
蒼、ファクトリーのやり方じゃこいつらがわかんねぇだろ。普通にやれ」
「そう?怒らない?」
「怒らねぇよ」
ほっ…正直いうと焦った。蒼が昨日纏めていたメモを横から見ると、単語しかない。文章じゃないんだ。
軍隊みたいなやり方なんだな…。
「ダスクは内部崩壊が始まってるの?そっちのボスは今どういう状況?」
「そうさな、金が回ってねえんだ。ボスがぶっ倒れて寝たきりだ。ファクトリーに昨晩移送されて来た。組織の中はもう下っ端共と警察が送ってきた潜入捜査官しかいねぇ。俺がいるから反乱は起きてねぇが」
「潜入者の存在はバレてるんだね」
「俺は知ってるが他は知らん。六人くらいいるだろ?田宮」
総監が目を白黒させてる。数年前から確かに捜査官を送り込んでいるらしいが、内部情報を吸い上げられていないんだ。俺の方が情報を持ってたくらいだからな。
「は、はい…ただ掴んだ情報はほとんどありません」
「だろーな、ボンクラしかいねぇ。だが、それに気付かないほどダスクが弱体化してるって訳だ。
俺も金がなくて困ってんだよ。転職先探してんだ。生き残ったら雇ってくれよ、なぁボス」
「…検討する」
昴が苦い顔してる。うちに来るのか、まさか。
「それはさておき、ダスクのボスは脳内データの転送待ちって事?」
「いや、そこの研究者ツートップが抜けてから研究自体頓挫してる。わざとかもしれんが。こっちでは転送可能になったのか?」
「いえ、まだ人間での実験はしていません」
蒼のご両親のうち、男性が口を開く。まだ顔が青い。宗介さんがよっぽど怖いのか…。
「はぁん…なるほどな。うちの組織連中が怒り狂って子供も残り30、新しい試験管は動いてねぇ。」
「じゃあすげ替え後の結果は不明だね。
ダスクとファクトリー壊滅については組織で話してから警察に共有するからここまでにします。
ここから先は薬についてとファクトリーの子供達について話をしたいの。」
「まさか…
「そうだよ、先生。私はファクトリーの子を助けたい。
子供の寿命はなぜ30までなの?寿命と同じ30までならスクラップ対象にチップをつける意味があるの?」
蒼が初めて両親をチラッと見た。その瞳にはあまり感情が乗っていない。白衣のままの二人は俯いたまま口を開く。蒼もすぐに目を逸らした。
「寿命については設定が必ず30というわけではないです。DNA操作の結果により上限が30、最低値は3です」
「スクラップについてはチップを取り付けると同時に…人体実験を耐えうる細胞増殖の異常進化…怪我が早く治るよう操作しています。
30上限なのは試験管で決まっていたギリギリまで実験ができるように、また…その体を使い切った後、無差別テロを起こして世間の人間を間引くため、との目的です」
「うーん、人間爆弾という事ですか。子供達に延命薬を施すことは可能?チップはつけてすぐなら取り外せますか?」
「おそらく、そういう意味かと。延命薬は接種可能です。ファクトリーの子供には全て有効。チップは施術してから一年以内なら神経が回りきらず取り外せるかもしれません」
「未確定要素、と言うことですね。それなら子供達のために研究を続行してほしいですが。総監、二人はどういう扱いになりますか?」
「え、ええと…展開が早いな…二人は研究を中止している。そもそもDNAをいじること自体が日本では倫理観を問われる物で、延命薬についてはオーバーテクノロジー。今後も研究は難しいでしょう」
「では…うちの組織でお二人を引き取ってラボを作り、秘密裏に研究続行したいです」
総監が目を見開く。メモにないことばかり喋ってる…下手に口出ししないほうが良さそうだ。
「私達はあくまで、あなた達に協力をしている身です。配下ではありませんのでそこはきちんと把握してください。
薬はファクトリーの子供達のためだけに使います。オーバーテクノロジーは外に流出させません。それに、警察がそうしないとも限らない。裏と繋がっているのは私達も警察も同じですよね」
蒼が言い切った後にチラリ、と宗介さんに目線を送る。目線を送られた宗介さんがニヤリと嗤った。
「そりゃそうだな。警察ってのは俺も信用してねぇ。裏取引でヤクを作らせ、相手方を牛耳ることも可能だろう。政治家の延命とか儲かりそうだな。今日引き取った方がいいんじゃねぇのか?」
蒼が静かに頷くと宗介さんが立ち上がり、二人をこっちに連れてくる。警察三人は驚いたまま固まっている。
「はい、では次」
「ま、待ってください。流石にそれは…」
慌てる総監に冷たい目を向ける蒼。
「田宮さん。あなたたちは私たち組織の下に私断で何度か罪人を寄越しています。それの記録証拠も残っていますよ。今後もそうしたいなら二人のことは諦めてください。
罪に問うと言うなら何の罪でしょう。
ファクトリーの壊滅は極秘のはずですよね。罪を立証するならばその情報を表に出さなければなりませんが、できますか?
もし、押し通すなら私達側から先にマズい情報をリークします。プレスリリースされた警察の連携企業としてですから、内部告発になりますね。」
「………」
田宮が完全に沈黙した。
蒼はどんどんボスらしくなっていくな。
裏との繋がりをこっちから話して相手に言わせない…宗介さんのタイミングも完璧だった。
情報をすでに共有している警察と今決裂するのはまずい。
そして、牽制しながら研究者二人を手に入れて相手側の黒い思惑を濁したまま防止した。
この話の展開には唸るしかない。
昴は指名してもらえず拗ねてるな。口がとんがってる。
会話をリードしてるのが二人だから仕方ないだろ。ヤキモチ妬くのはわかるがな。
「警察で話せるのはここまでかな。田宮さん、勘違いしないで欲しいんですが私たちは敵でも味方でもある。
お互い信頼しあって協力する場面もあればそうしない時もある。
私たちを立件しようと思えばあなたたちはいつでもできるし、警視総監が変われば私たちの立場は危うくなる。
お互い力をつけてたまに協力するくらいにしたほうがいいし、弁えたほうがいいです」
田宮が小さく唸り、そして頷く。
「確かにそうだな。そう致します。ただ、研究の件に関しては…その後も報告していただけますか」
「もちろんです。研究が終わるか、子供達が全員亡くなったら…全てのデータを無に帰すのが一番いいですから。世の中のためにも、ね」
「わかりました。薬については以上ですかな?」
「そうですね、あとは追々かな。」
蒼がぺらり、と紙を机に置く。
「あの…あまりにも淡々としているのでかなり聞きづらいのですが。蒼さんはご自身のチップの件についてどう思っているのですか?」
田宮が汗を拭きながら、蒼に聞いてくる。一応心配はしてるんだろう。
「どうとは?」
「そうだよ、俺はそれを聞きに来た。お前死ぬんだぞ?わかってんのか?」
「わかってるよ、先生。だからこうしてサクサク動いてるんでしょ。」
「悲しいとかそういうのは…ねぇのか?」
「難しい質問だね…私はもともと延命薬についてそこまで期待してなかった。
自分がやれることをやるしかないし、早く終わらせたいの。結婚式して赤ちゃんをあと二人産まなきゃだし」
うん…そうだな…。
昨日の蒼を見てそう思った。
蒼は走り続けている。悲しいとか寂しい気持ちを夫婦全員で持ってはいるがそれを表に出してまで、前だけを見て走る蒼を止めたくない。
今の幸せを蒼は大切にしてくれている。
そして、ゴールまで走り抜けると言っていた通りに…死を迎えるその時までそうし続けるだろう。
俺たちに残された時間は恐ろしいほど短いんだ。蒼と共にいるために俺も覚悟を決めた。昴も、慧もそうだ。
「ていうか蒼妊娠してるのか!?」
「麻衣ちゃん…もう。多分ね。これからお医者さんに行くけど検査薬は使ってるよ」
「ち、ちなみに誰の!?」
「内緒。大変センシティブなのでこれは教えません。察してね」
「そうだな…すまない…」
会話を聞いてきた宗介さんが重いため息をつく。
「何となく、わかった。お前は最終的な延命はしねぇんだな」
ため息をついた蒼が呆れた顔になる。
「私が人を犠牲にして、そんな事したいと思うわけないでしょ?ねえ?」
俺たちに目線をくれるので頷く。
蒼はそういう人じゃない。
「ほー。なるほどな…旦那たちも同じ意思か。落ち込んでるだけじゃねぇし、いい目をしてるな。おもしれぇ。やっぱそっちで雇ってくれ」
「もう。その話も後で。私は先生のキャラ微妙に掴めてないんだけど…私のこと嫌いだったんじゃないの?」
宗介氏がきょとんとする。
まぁな、あれだけ普通に体に触れてくるんだから。昴が聞いた通り好きなんだろう。
「なぜそう思う?」
「私が満点なのにご飯抜かれて、他の子はもらってた事あるもん」
「はぁ?お前自分で怪我するからだろ。エネミー庇ってケガした奴になんか飯はやらん」
「そういう……こと?」
「そうだよ。あぁ……正しい意味がわかるようになったのか。俺だって血も涙もある人間だぞ?お前のことが好きだったんだからな」
「な、何言ってるの?私がファクトリーにいたのは17まででしょ。先生その頃三十歳超えてたし」
「あ?関係ねーだろ。俺は色んな意味でまだ現役だ。妊婦じゃなきゃ夫枠に入れて欲しかったが」
「イヤです。私のお、夫はもうこれ以上いりません」
「チッ」
蒼が夫って言った!
思わず手を握る。
照れた顔で蒼が握り返してくれる。
「あーあー。なんだよ。お前が一人寂しく死ぬ前に口説いてやるつもりだったのに」
「残念でした。…恥ずかしいからもう行くよ。先生もウチの組織で潜入の作戦立てないと。ボス、このまま連れて行っていい?」
「あぁ。もう幹部には連絡してある」
「よし、じゃあ行こ。車2台で来てよかったね」
「蒼の助手席どうするんだ?」
「俺によこせっ」
「公平に行こう、公平に」
「ほらほら、喧嘩しないの。あっ、警察の皆さんにはまた後でご連絡します。ごめんなさい、意地悪なこと言って…」
さっさと出ていく昴達の後で蒼が振り返り、ぺこりと頭を下げる。
しょんぼりした顔の警察三人がほのかに笑顔になった。
「蒼、私
「ふふっ、そうだといいなと思ってるよ、麻衣ちゃん。じゃまたねー」
手をふりふり、蒼が部屋を後にする。
最後に残った俺の傍に相楽がやってくる。……一応、フォローしておくか。
「昇龍…おめでとう」
「ありがとうございます。ファクトリー壊滅までは俺たちは正しく協力者だ。
蒼は気を張ってはいるが寂しく思ってもいる。全部はコトが済んでからになるけど…警察の皆さんも、俺たちの式にご招待できる事を祈っています」
三人がしょんぼりしたまま頷く。こんなもんかな。
会議室のドアを閉めて、エレベーターを待つみんなと合流する。
「おい。医院に行くのが先だからな。組織に行くのは後だぞ。忘れてないだろうな?変な付属品が増えてるし」
キキがジト目で見てくる。分かってるよ。
「付属品とか言うなよ…蒼のご両親に夫三人、師匠付きだ。ちょうどいいだろ?」
「あ、そうか。そりゃ失敬。結果は決まってるようなもんだが…」
エレベーター前で昴が蒼を死守してる。
不満そうだけど蒼のほっぺを突いて、ニヤついてる宗介氏は警戒を解いているようだ。
「なんかすごい事になってきたな…」
「本当にな」
キキと呟き、苦笑いになった。
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