第36話 仲間入り


蒼side


「今日は平和だね」

「…そうだと良いけどね」


 運転席の慧は微妙な顔をしてるけど、お説教がないのははじめてじゃない?平和だよね?

 今日は組織の幹部みたいな人たちが集まって、集会を開くとのことで車に乗って移動中。警察の相良さんと千木良さんが後で合流予定。

 組織の人たちと顔合わせして、ファクトリーの概要も伝えるみたい。私もこれで組織の一員かな?と勝手に思っている。


 


 私のカバンの中には銃と、千尋が作ってきたクッキー。今日は抹茶とホワイトチョコのクッキーなの。

 緑色と白のポコポコしたまんまるのクッキー…美味しそう…。千尋がちまちました作業が苦手、って言うの絶対嘘だと思う。

 

 今日は慧の運転で慧の車。後ろの席に居る二人がブライダル雑誌と妊活雑誌を読んでる。

 緊張感、持てない色だと思うの、それ。

 二人があの本を買う姿を思い浮かべると、何とも言えない気持ちになってくる。




「婚姻届は必要だがどうやって…やはり戦争か」

「お腹を冷やしてはいけません…サプリメントは男女とも葉酸が必要なんだな。タバコは危険?なるほど禁煙だな」


 二人とも高級スーツを着て真面目な顔で…カラフルな雑誌を齧り付いて見ているからチグハグな雰囲気で違和感だらけ。

 キキとの話を慧から聴いたらしくて、朝からずっとこう。

二人とも、子供が欲しいって思ってくれてるのがわかる。

雑誌にポストイットがたくさんついていて、それを見て私はニヤけてしまう。


 運転してる慧はパーティーの時に着ていたパーカーとキャップで身軽な感じ。慧はこう言うのもかっこいいなぁ。

 ちなみに私はいつものワンピース。ヒールじゃなくてブーツだから足がちょっと重たい。

いつもそうだけど、私の衣服が知らないうちに増えていくのがコワイ。




「組織内の集会なのに、トップ二人はこの感じで大丈夫なの?」


「蒼の言うとおりだけどさ、二人はスイッチがあるから。ずっと組織にしかいない俺と違って、長い間ダブルフェイスしてたから問題ないんじゃない?」

「はー、なるほどね…私もトリガーはあるけどそこまでは無理な気がする」


 後部座席の二人は私たちの会話なんか聞こえないくらい集中してるみたい。




「トリガー、か。銃火器はタバコの煙?」


「うん。射撃は問題ないけど、他はまだわからないからいざという時に必要かも。千尋が禁煙したらどうやって煙を調達しようかな」

「蒼に副流煙吸わせたくないな。昨日ので子供できてたら、タバコの煙はよくないし…」


 ぶつぶつ言う慧は真剣そのもの。気が早いと思うんだけど。

でも、嬉しそうな顔してる。ふふ。




「おい。まだ出来たかわからんだろ」

「そうだ。決めつけるのはやめてくれ」


 二人して怖い顔して慧を睨んでる。雑誌読みながら話を聞いてたの…?慧は苦笑いしてる。

 うーん。私自身は動けるうちは三人と一緒にこうして働きたい。

犯罪からは少し手を引くみたいだけど、危ないお仕事も無くなったわけじゃない。

 

 改革するとしても、ファクトリーを潰してからの事だから仕方ないと言えばない。



 

「今日の会議が終わったら体を動かす訓練したいんだけど、組織にそう言う場所あるかな?」

「体を動かすって?例えばどんな感じの?」

 

「高い場所から飛び降りたり、走り回ったり、障害物を飛び越えたり…銃を撃ちながらやる感じ。戦闘訓練って言えばわかる?」


「…必要、かな?」




 しょんぼりした慧に問いかけられて疑問が湧いてくる。

なんでそんな聞き方するの?


「どう考えても必要でしょう?そういう体の動かし方をしていないから鈍っていると思う。昨日思い出したことを、やってみないとわからないし。

 あ…まさかファクトリーの潜入とか壊滅から私を外す気じゃないよね?」



 ぎくり、と固まる三人。

 もう!外す気満々じゃない。ダメでしょ。私がいた方がいいに決まってる。

ファクトリー内部を知り尽くしてるのは私なんですが。




「ふーん、そうやって私のこと仲間はずれにするんだ。パーティーの時みたいに証明しないとダメかな」


「「「…………」」」

 

 目を逸らす三人を順番に眺めながらスマートフォンをタプタプと押す。


  

「うわ、出るの早…もしもし、相良さん?聞きたいことがあって。機動訓練って警察で出来るところありますか?」


「あ、蒼!?」

「慧、そこ右折だよ。そうです。いえ、shooting on the moveではなく、戦闘訓練です。野戦想定ですかねぇ。」




 苦い顔をしながら運転してる慧を放っておいて、青い顔をしてスマホを取ろうとして来る後ろの二人の手を避ける。

ふふ、いい訓練だなぁ。


「あ、なるほどサバゲー、はーはー…かしこまりました。では後ほど!」


 ぽち、と終話を押してにっこり微笑む。



 

「今日の会議が終わったら相良さんとデートして来るね」


「「「どうしてそうなった」」」

 

 声をそろえる三人を半目で見る。

 誰のせいだと思ってるの。

 

「私はお姫様じゃなくてナイトだって何回言えばわかるの?潜入も壊滅も絶対に行くから。

 体を鍛えればたくさんエッチなことしても大丈夫だし、赤ちゃんを産むのにも役立つし、いいことづくめでしょう?」


「「「……」」」




 今度は真っ赤になっちゃった。

赤くなったり青くなったりみんな忙しいなぁ。


「到着しました…」


 しょんぼりした顔の三人が降りて、昴が助手席のドアを開ける。皆私がエスコートされないと拗ねるから、ドアに触れなくなってしまった。




「お手をどうぞ…」

「うふふ。どうしてしょんぼりしてるの?」

「蒼が危ないことしようとしてるから」

 

 ふむ。


 昴の大きな手のひらを見つめる。

 私は何度この手を握ることになるだろう。

 まだこの先の事はわからない。

 いつか失うかもしれない。私がいなくなって、この手を握れなくなるかもしれない。


 それでも私にとっては大切な手だ。

 守りたいって、思う。

私だって、やれるってことを何度でも証明してみせる。


 


 しょんぼりした慧と千尋が背後でじっと待ってる。可愛い、私の恋人さんたち。

 なんだか面白くなってきちゃった。

昴の手をひっくり返して手の甲に唇で触れた。

 

「な、なん…」

「ご案内いただけますか?プリンセス


 三人に笑顔を振りまいて、昴の手をぎゅっと握った。




━━━━━━




「全員に冊子は行き渡ってるか?ファクトリー壊滅に関わるメンバーと、概略が書いてあるから撮影は禁止でよろしく」



 

 昴はちょっと偉そうに椅子に腰掛けて、千尋が立って説明してる。

ここは、先日警察との協議をしたホテルの会議室。

 大きな窓に囲まれた穏やかな日差しの降り注ぐお部屋で、明らかにガラの悪い人たちが着席していた。みんな思い思いの服を着てる。


 誰も彼もが私に注目して自分の体がちょっとだけ緊張で硬くなる。


会議室ってロの字型に席を作るのが普通なの?映画で見たことがある光景だ。

 私から見て向かい側に警察メンバーがいるけど、慧を挟んだ横並びには知らない人がいる。ドキドキして来ちゃった。




 手元には『組織と警察・ファクトリーの詳細について』と記載された冊子。


 ページをめくるとメンバーの名前が書いてある。みんなコードネームなんだね。警察の三人は苗字だけ。

 

 印字された文字をなぞる。メモのような筆跡はついていないけど、インクの乗った僅かな突起がある。三人の名前を、メモに書いてもらおうかな。

 

 指先でそれに触れたい。形として欲しいな。こう言う緊張した時に触ると、落ち着くんだよね。




「蒼、大丈夫?」

 

 慧が肩をくっつけてくる。


「うん、ちょっと緊張してるかも」

「皆いるから大丈夫だよ」

「うん…」


 ふと顔を上げると昴と千尋、警察のみんなが私にやさしい眼差しをくれる。

思わずホッとした。





 全員の正面に昴、千尋が座って脇に私と慧、向かいに相良さん、千木良さん。

 こないと思ってたのに…警視総監の田宮さんもニコニコして座ってる。会議に来て大丈夫なのかな。総監って暇なの?


 

「そろそろいいか。写真は載せられないから自己紹介でもしよう」

「では、私から行こう。相良さがらだ。警察庁特殊部隊SATの長を務めている。君たちと主に動くのは私になる。よろしく頼むよ」


 相良さんが長い黒髪を後頭部で一つにまとめて、黒いパンツスーツで佇んでいる。

 ここにいる人たちは殆どスーツだけれど、みんなジャケットのボタンが開いてる。

 

 銃を装備しているのがわかる。みんなの靴底は片方がすり減って傾いてるの。

働き者の人たちしかここにはいない。警察も、組織の人も。




「同じく特殊部隊所属の千木良ちぎらです。連絡役として関わることになります。よろしくお願いします!」

 

 相良さんと同じく黒いスーツの千木良さんは人の良さそうな笑顔で立ち上がり、ぺこりと頭を下げる。



「警視総監の、田宮たみやです。迎え入れていただき感謝している。

 今後は私たち警察とともにパートナーとして戦いましょう。よろしく」

 

 田宮さんはネイビーのスーツ。

三人が折り目正しく礼をして、音もなく座る。

 田宮さん、今日は結構体の動きがいいかも。ちゃんと警戒してる感じなのかな?





「俺たちが警察とヨロシクしなきゃならん理由がわからんな」

 

 一番奥に座った黒いロングコートの男性が声を上げた。

タバコかお酒で焼けた、低い声。先生の声に似てるけどそれよりは若い。


 

 細身の彼はロングヘアの白髪、碧眼。

 秋になってきたとはいえ…暑くないの?目ぶかに被った大きな帽子も真っ黒だし…悪い組織やってます!と言いそうな風貌。

 

 長い前髪から鋭い眼光の瞳が見える。

顔つきはコーカソイドに近いけど…目が細くて悪そうな顔してる。日本出身の人ではなさそう。




「仲良しこよししなくてもいいが、仕事はして貰うぞ。事前に承諾してただろ?シルバー」


 千尋にシルバーと呼ばれた彼がポケットに手を入れたまま「けっ」と呟いて足を組む。艶々の革靴は重たそうだから鉄板入りかな。間違いなくお仕事用の服装だとわかるけど、センスがいいからオシャレに見える。

 

 足がながーい!すらっとした姿はモデルさんみたい。



 

「食っていくには仕方ないが、善行しろってんなら抜けるぞ」

「好きにしろ。別に強制するつもりはない。この話を聞いたからには無事では抜けれないがな」

 

「チッ」


 千尋も負けず劣らず鋭い目線。

…かっこいいな、って思ったらダメかな。思わずドキドキしてしまう。





「組織の奴らは俺が名前を呼ぶから反応してくれ。サードの横にいるのがピンキー。担当は情報屋、密偵」


 慧の横ですっくと立ち上がった小さな男の子。…女の子??私と同じくらいの背丈で、中性的な見た目。金髪の癖っ毛が毛先だけピンク色に染まってる。

垂れ目で幼なげな顔がちょっと可愛い。その子がぺこりと頭を下げた。


「時計周りに…スネーク・スナイパー。スノーホワイト・諜報とハッカー。シルバー・掃除屋と外交の補助。コープシング・東条とうじょうは医師・後始末担当。わざわざ紹介するのはこのくらいだ。後は…」




 みんなが同じようにぺこりと頭を下げてくれた。思ったより和やか。

次は私の番ですね。千尋の視線を受けて立ち上がる。


「はじめまして、あおい…あっ。ブルーです!私の担当は…何でも屋です!よろしくお願いします」


 ぺこ、と頭を下げる。

 打ち合わせした結果、何ができるかまだわからないからこうなりました。


 キキと東条さんが手を振ってる。

シルバー以外は微かに微笑んでくれているけど、千尋はどうやってこの人たちに根回ししたんだろう?

 突然振って湧いた私に対して友好的とか、凄いと思うの。





「アンタ情婦なんだろ。トップスリーを手玉に取って何でも屋?舐めてんのか」


 シルバーの言葉に私の周りにいる人が顔色を変える。とんとん、と机を叩く。

だめだめ、落ち着いて。




「情婦というのとは違いますよ?みんなまだ独身ですから」


「…屁理屈かよ。賢しい女は好きじゃねぇな」

「賢しいと言うのは『気が利いてる、才知に溢れて判断力のある様』ですね。褒めて下さって恐縮です」


「……」

「何でも屋はまだ記憶を取り戻していませんから仕方ないんです。大体なんでもできる人だと思ってください」


「人を殺した事はあるのか」

「多分ありますよ」




 昴たちがギョッとしてる。あ、話してなかった。私自身も申し訳ないけど自覚はない。


  

「私はファクトリー産出の人間ですので実地訓練はありました。記憶喪失なのであやふやですが、多分複数名殺しているかと思います」


「多分かよ。獲物は?」

「今のところ銃です。他にも扱えるはずですが、ブランクがあるので使えるかどうかは不明ですね」




 ふーん、と唸るシルバー。

 思ったよりよく喋る人だなぁ。

ケチをつけたいだけかと思ったけど…なんか目つきが可愛い。新しいおもちゃを見つけた、みたいな目をしてる。


「銃が使えるならいい。後で撃ってみせろ」

「はぁい」


 にこ、と微笑みを返すと、プイッとそっぽを向かれる。

ん……?あれ?ほんとにかわいい。なんだろう。ほっぺが赤くなった。




「チッ…」

 

 はぇ?隣にいる慧が不機嫌そうな顔で舌打ち。キキも嫌な顔してる。


 着席すると、慧が腰を掴んで引き寄せられた。はてなマークが浮かんでくる。……どしたの?




「はぁ、とりあえず次行くぞ。

 今後の計画について。資料に添付したのはブルーが書いた、攻略対象の内部地図と概要だ。まずはここに潜入調査、その後計画立案、警察と共闘でファクトリーを潰す」


 ぺらりとめくった資料を見て全員が固まる。




「ね、ねぇ、これ本当に手書きで書いたの?」


 ピンキーがびっくりした顔で聞いてきた。キュルンとした黒い瞳の中に私が映ってる。


「はい、そうですよ。ファクトリーの内部は入り組んだ作りなので、このままのはずです。軽々しくいじれないので。

 他にも研究者たちの宿泊施設や医療施設がありますが、そこは別棟で武器類、情報はありません。位置把握のために全貌を記載しています」


 

「こんな詳しい地図を覚えているんですの?一体いつからこんな仔細に…」


 スノーホワイトがお嬢様みたいなお喋りしてる。

 腰までの巻き髪が豊かにくるくるして、まつ毛もバサバサながい。髪の色は私より濃いめの栗毛で、この人も目が真っ黒。…お嬢様みたいなグラマラスさんで、すごく美人さん。

 

 私の中に胡麻がつくアメリカドラマの、黄色い鳥さんが思い浮かぶ。まつ毛の長さが似てるの。

 

「内部構造は覚えないと怒られますから、3歳までに覚えます」

「3歳…」




「アンタたちブルーの頭を侮らないほうがいいよ。散々弄られてるとはいえ地頭がいいんだ。アンタたちのことも今の紹介で全部覚えてる。この前の密会パーティーだって参加者全員覚えてたんだから」


 キキが頬杖をつきながら喋ってる。

今日は白衣姿だ。相変わらず裾を引きずって、目の下のクマがすごい色してる。

 前髪切ったのかな。ぱっつん前髪が眉毛の上に鎮座していてよく似合ってる。




「…確かに賢しいようだな」


 おっ、シルバーさんが笑った。うん、なんか可愛いのは確かだと思う。

じっと見つめていると、一瞬視線があってまた逸らされた。照れてるのかな?


「「「「「チッ」」」」」

 

 舌打ちが増えた…な、なぜなの。

 相良さんやキキまでしてるし。





「ちなみにファクトリーを潰すことのメリットはなぁに?僕たちにもウマミある?」

 

「警察との連携はここを潰すのが交換条件だ。仕事量の維持、ファクトリー組織を潰して吸収できる、給料が増える、逮捕の危険がなくなる、そんな所だな」


 

「ふぅん。ファクトリーの中の人は殺すの?」

「調査潜入をしてから決める。相手方のと『先生』と言われる人間は殺さなきゃならんだろう。先生ってのはブルーの師匠だ」


「先生か。ブルーちゃんの仕事を見ないとなんとも言えないなぁ。僕も銃撃つとこ見たいんだけど」

「地下で見せればいいか。ボス、どうする?」


「ん…」




 ずっと喋りっぱなしの千尋が水を飲んでる。昴は思案顔。

 

「ボス、提案があります」


 相良さんが立ち上がる。

いい笑顔だなぁ…すごく嫌な予感がするんだけど。




「ブルーと会議後サバゲー屋に行きますが、皆さんでチーム野戦をしませんか」


「モデルガンでと言うことか?」

「そうです。流石に実銃の話は私たちが耳を塞がなければならない物なので、できましたら本日は避けていただきたい。

 野戦なら様々な彼女の実力も見れますし、我々も組織のメンバーの実力がわかりますし、逆もまたしかりでしょう」


「…なるほど。全員、予定は?」


 組織のみんなが静かに頷く。


「体調…大丈夫?」


 慧が気遣わしげに尋ねてくるけど、これはノーと言えない流れで…仕方なく頷く。

 体調じゃなくて気分は悪いです。

 練習してないのに!体が動くのかが心配だ。しばらくそんな動き方をしていないから。凝り固まってたらどうしよう。





「では30分後に各位現地集合、装備はこちらで用意します」

「頼む。では一時解散。資料は持ち出し禁止だ。そこへ置いてってくれ」



 ゾロゾロ連れ立って去っていく組織の人たち。キキと東条さんが私たちの元へやってくる。



 

「蒼、キスマークの消し方教わったのか?首元にない筈ないもんな」

「あぁ、うん、はい…」


 もう、私の首周辺は見るも無惨だったから…朝ホットタオルで鬱血を散らして、慧に謝られながらコンシーラーで隠してます。


 

 東条さんが苦笑いしながらぽん、と私の肩を叩く。


「大変ですね、三人もいると」

「キスマークに関しては、はいと言わざるを得ません」


「他にもだろ。動けんの?」

「大丈夫。私結構頑丈みたいだよ」


「ん、何かおかしかったらいいな。アタシらもついてくから」


 ひらひらと手を振りつつ、二人も消えていく。





「蒼~。やっと電話をくれたと思ったら用事だけなんてつれないじゃないか」

 

 背後からぷにゅ、と柔らかい感触がして相良さんが抱きついてくる。


「メッセージ送ってるじゃないですか」

「ほらーそれ。タメ語にしてって言ったのに」

「えぇ…」


 ベタベタくっついてるのを見て、千尋と昴がチラチラ見てる。田宮さんとお話ししてるのに…もう。

 二人は相良さんがバイセクシャルだって知ってるから心配してるっぽい。

あーあ、慧に怒られちゃってる。




 私の肩に乗せられた筋肉質な両腕を掴んで、首だけ振り向いて相良さんの瞳を見つめる。


麻衣まいちゃん、メッセージで我慢して欲しいな。いい子だから」

「ひゃ、ひゃい…名前呼んでくれた…」

「お仕事ちゃんとしてね?」

「…うん」




 これでよし。

顔が赤くなった相良さん…麻衣ちゃんが田宮さんの後ろに戻る。

 慧まで嫌そうな顔になってしまった。


 私も苦笑いしながら、同じ顔をした三人の元に足を踏み出した。

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