第16話
この季節は雨が少ないそうだ。
毎晩、手が届きそうなほどの距離で大小様々な星が大きな空を覆っている。
その手が握れるようになるまで、3日もかかってしまった。
しかし、アッシュが言うに異常に早い治りだそうだ。
今こうして2人夜の川辺で焚火を囲んでいる。
この3日間は午前中に身の運び方の練習、それと腹筋を鍛える(おそらくそういうことだろう)謎の特訓を受ける。
その謎の特訓というのは木に吊るされ下っ腹にアッシュのパンチを受けるという訓練だ。丹田という場所も鍛えると言っていた。
(ありゃ 完全にアッシュの趣味というか遊びだろ ・・・)
そして午後からは地獄の丸太運びだ。
手が使えなかったので体にロープを巻き、アッシュが伐採した木をテントまで運ぶというものだ。
森に入って10分ほどの距離からの運搬でさえ最初は1、2時間掛かっていたと思われる。
不安定な地面が丸太の行く手を阻んでいた。それに対処するやり方が中々に難しかったのを思い出す。
しかし、最終的に体がそれらに対処しだしてきた。
「おら もっと早く引けえ」
アッシュが丸太にまたがり自分を馬か何かのように扱う。
今では歩くスピードとほぼ同じ程度の早さにまで速度を上げることに成功していった。
「「むしゃむしゃ」」
「俺もうその肉見るのも嫌なんだが ・・・」
アッシュはどこから取り出したのか、あんぱんを無音で食べている。
「そうですか? すっごくおいしいです」
パインの手から包帯が外れ、イボアの肉をしっかりと持って口に運んでいる。
むっちりしていた上半身は腹が引っ込み筋肉が付き始めていた。
「大食いの番組とかですら苦手なのに 目の前の男がそれしてるとなるとなんかゆううつなんだけど」
「あ え? すいません」 「「ごぎゅっ」」
悪口にも聞こえるアッシュのそれに反応するかのように喉を鳴らしてしまう。
「おえっ」
思わぬ反撃にダメージを受けるアッシュ。
「すいません」
肉に夢中なパインにとってそんなことは大して気になることではないようだ。
「いや 食べれるなら食べたほうがいいよ まだ 多量に ・・・・」
「え?」
パインもアッシュが見ている方向を見る。
うそだろ、と言わんばかりの表情のアッシュ。
まだあるはずと思っていた肉は干し竿にはかかっておらず、パインのパーカーがゆらゆらと風に揺られているのみの姿であった。
「無くなったら普通いうよね? つかあれ 60、70キロはあったよな ・・・・・・ お前化物かよ」
アッシュは本気でそう思っていた。
「す すいません」
さして気にしてない様子であるが、パインも少しだけ自分自身の異常さに気が付く。
「明日また奥まで入るぞ ハンマー握れそうか?」
アッシュがそう口にし、パインは手に丸石を取りそれを強く握りしめる。
(痛くないな)
「いけます」
パインの握った丸石は小さく何個かに砕けていた。
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