第13話

「おい ボサっとしてんな こいつのイボ取るぞ リュック持ってこい」


「はい」と言いアッシュの横につく、彼はリュックからバールのようなものを取り出しイボの根本にそれを当てる。


「そいつでこれを打て」


一瞬何を言っているのかわからなかったが、彼の目線がハンマーを見ていたのでそれと気が付く。


「「がぎぃーーーーん」」


何度かアッシュの持つバールにハンマーを降ろし、イボの根本の骨をかち割り、分断することに成功する。


「これくらいもできなかったらどうしようかと思ったぞ」


イボアに睨まれた緊張がまだ抜けていなかったが、どうにか仕事をこなすことができた。


「また 助けられちゃいました」


ぼそっとそう口にした。


「気にするな まだやることあるからな 反省はあとでしろ」


そうアッシュが言うと今度はイボアの後ろ脚の切断の作業に移った。


彼は手際よく毛皮を剝いで、露わになった肉にナイフをすべらせる。


骨を断つときだけ自分の持つハンマーの出番である。


緊張が和らぎ脂汗こそ引いたものの、今度は普通の汗が全身からしたたり落ちる。


自分の手は、イボアの血や脂がまとい、衣服も同様にぐちゃぐちゃになってしまった。


後ろ脚があとわずかな筋のようなものを切れば、分断できそうになる。


自分が後ろ脚を思いっきり後ろへと引っ張り、それによって張られた筋をアッシュが切る。


「「どさっ」」


そして自身の尻餅で、後ろ脚の収穫作業が一段落する。


尻餅をついた自分の姿を見てアッシュが少し笑みをこぼしていた。


こうした自分の姿とは真逆にアッシュは泥どころか、一切の汚れも身にまとっていなかった。


最初に自分の部屋で見たときと同じ姿である。


(どうゆうことだ?)


やるせない気持ちが胸の奥から湧き上がる。



このイボアのイボ骨はおそらく10キロから20キロほどであろう、中々に重い。


それの汚れを払ったのちにリュックにしまう。


後ろ脚は落ちている丈夫な木を拾いそれにロープで縛りつけた。


最初はアッシュに1人で持ってみろと言われ、やってみた。


何とか持ち上げることができたが、ぬかるんだ地面に足を取られそうになった。


それを彼は見て、木を用いて2人で担ぐことにする、という判断を下した。


測りがないのでどれほどの重さかわからないが、大人1人よりも重いことは確かだと思った。


(これを1人でやらせようとしていたのかな ・・・)


そう考えると冷や汗がでてくる。


しかし、この帰り道はなんだか気分がよかった。


時おりアッシュが担いだ木を上にやり自分に負荷がかかるようにする。非常に重いが、アッシュの背中を見ていると心が落ち着く。


「あごを引く」


「はい」



森から出た頃は日が沈みかけていた。


森のシンとした空気が川の磯臭いにおいへと変わり少しむせてしまう。


また気温が上がったのか、ただでさえ滝のようにかいていた汗が輪をかけて流れ落ちる。


バイクまで来ると、担いでいた肉と背負っていたリュックを降ろし、崩れるようにして川の丸石の敷き詰められた大地に身を投げだした。


横を見るとアッシュもそうしている。ようやく終わったと思った。


「まだあるぞ?」


束の間の休息であった。もうすでに身を起こしたアッシュに横腹を泥のついたブーツで蹴られる。


「うぐっ」


その後はテントの設営、その他の設備の増設のための木の切りだし(また森に向かった)、後ろ脚の解体や調理である。


「おら 塩 あそこにあるから取ってこい」


切りそろえられた肉に多めの塩を塗りたくる、そして木で組んだ干し竿に引っかける。それに鳥よけのネットを被せる。


その後も何か作業があったが、疲れすぎてよく覚えていない。


「何疲れてんだよ おまえ 特に何もしてないだろ?」


そうアッシュに言われる頃にはすでに日は落ち、目の前の焚き木の前に座っている。


目に見えるのは食べ終わったイボアの肉の皿、そして風になびく新品であったはずのパーカーである。


「ええ ほんと 足引っ張ってばかりで ・・・」


「そうだな ・・・」


嬉しいのか悲しいのかよくわからない微妙な表情をするアッシュの姿と。


そして反省する気力すら残ってない自身の姿が火に照らされている。

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