第8話

見慣れない道をバイクの後部席から眺める。


走らせる事10分程度か、あるいはもっとかもしれない、見知らぬ商店街の道路わきでバイクは止まった。


「おい 羽根出せ」


このセリフがもし「羽根」でなく「金」であれば完全に危ない人のそれである。


アッシュは右手を自分に向け、催促する。


「はい」


バイクの荷台からしまっておいた羽根を取り出し渡そうとするが渡しきる前に「さっ」と羽根を手に取るアッシュ。


どういう理由かここに着いた途端不機嫌になっている。


「お前はそこで待ってろ 少し長くなるかもしれん ・・・・」


その後むにゃむにゃと何か言っていたが聞き取れなかった。


「わかりました」とだけいい、バイクの横に立つ。


アッシュはバイクを止めたすぐそこの奇妙な店に入っていった。


看板が上がっておらず、またミラーガラスで覆われドアの取っ手が無ければ壁と同化してしまいそうである。


その店のドアが自分の姿と反対側の商店街の人々でにぎわった景色を映す。


その鏡がにぎわいと非対称の無様な自分の姿を映し出す。それを目に焼き付ける。


(・・・・・・・・・・・・)


目までかかるほどの長い金髪、頭を十字に巻いた白い包帯、ぼろぼろのTシャツ。


まだ20になったばかりなのに、ぽこっとでたお腹。


目。それだけが、これら自分の姿を意図的に脳に焼き付けようと必死になっている。


左耳の包帯から血が滲み赤くなっていることを今初めて知った。



<<店内>>


ここ、今アッシュが嫌そうな顔で入った店の名は「超黒屋」という。


店の外はミラーガラスが貼られ、明らかに異質の空間である。


ドアノブに垂れ下がっている小さな札に質屋であることと店名が記され、興味を持つ者でさえそれを見ない限りこの店が何を扱っているのかすらわからない。


この店が人を寄せたいのかあるいは避けたいのかそこに関しては店主の頭の中のみぞ知るといった感じだ。


かろうじてオレンジ色のビニールの屋根がかかっているため、太陽光を反射しないで済んでいる。


一応それくらいの配慮はしているようだ。それが店ができた後なのか、苦情がきた後なのかは別として。



アッシュは、ガラスケースに入った様々な品物、おそらく高級品には目もくれずに、真っすぐに進みカーテンがかかったカウンターに手をついた。


「おい 俺だ いるか?」


「えーと お客様 今は準備中で ・・・・」


カーテンの奥からめんどくさそうに喋る店主の声がする。


「おれだよ」


カーテンが開くと小柄で頭髪が薄く、ちょこんとちょびひげをはやした男が出てくる。


白いシャツに蝶ネクタイをし、緑色のエプロン姿である。その恰好は彼の真ん丸としたお腹によく似合っている。


この男はアッシュと馴染みのようだが、「勘弁してくれ」とでも言いたげな様子だ。


「う あ アッシュ様 お久しぶりでございます」


「おっと 失礼しまして 丁度スパイシーな食事を摂った後でございますので 少し お気に障るかもしれません」


店主は口を押さえながら、自身の悪態を上手くかわそうとしている。


「どうでもいい これを見てくれ」


そうアッシュが言うと、あの羽根をカウンターに置く。


彼としてはとっとと要件を済ませたい。


「こ これは ・・・ アッシュ様の指毛ですか?」


店主が目をくりくりとさせ、そう口にする。


「あぁっ!? どうしたらこれが俺の毛に見えんだよ」


「いやいや 失礼しました あんまりにも立派な物をお出しになるので アッシュ様ご自身の物かと ・・・」


昼食の後で鈍っていた店主の頭の回転が通常のそれに戻ったようだ。


「冗談はお前の顔だけにしてくれ」


このまま店主のペースに持っていかれる気分でないアッシュは嫌そうな顔をしてそう言う。


「はひっ まんまるプリティだと自負しておるんですがね」


「いいから ・・・ もう とりあえずそれ預かっといてくれ」


「かしこまりました しかし 私でも初めて見るもんです 立派な羽根ですよこれは どこでこれを?」


店主の顔がアッシュに寄る。


「仕事で ・・・ 森の中に入ったとだけ言っておこう 他言はするなよ?」


「もちろんですとも あいかわらず景気が良さそうですなぁ」


アッシュは店主の話に飲まれ、案の定、しばらくそれに付き合ってしまう。

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