第6話
ここは役所。基本的なそれの役割はこの町に住む人々の仕事やお金の窓口である。
ほぼすべての人がここで仕事をもらう。この町では基本自由に仕事を選ぶことができる。
個人が選んだ仕事を気に入らなかったり、合わなかったりと様々な理由でここ役所で現在の仕事を別の仕事に変えることができる。
しかし、信頼度というお金以外の数値も存在し、それが下がると仕事を選べる幅が小さくなってしまう。
逆に上がると大きな仕事を選ぶことができ、報酬のアップが見込めるなど様々な特典がある。
人々は常にその数値を大事にし、そしてそこに大きな価値を見出して生きている。
その信頼度を誰がどのようにして決めているのか。
人々はもはやその事に疑問すら持たずに日々を過ごしている。
毎年2回ほど勝手にそれらが更新していく。
そして、五体満足で仕事をしないという選択肢はない。
そのような社会で一番自由な職業、自由きままに依頼をこなしそれの対価を得る仕事。
それが冒険者である。
((誰がこのような仕事を作ったのか、社会からあぶれてしまう人々の最後の門としての役割をそれが担う))
冒険者の信頼度はもちろん平均してほぼ底に位置している。
という彼、パインも、つい先日冒険者にここで転職したばかりだ。
「えっとすいません あの お名前を聞いても?」
「私は ぱ」
「知ってる パインだろ? 俺は アッシュだ」
(ん? 名前言った覚え ないんだけどな)
「よろしくお願いします」
そう言うと、アッシュの片手の2本の指に自分のIDカードが挟まっているのが目に止まる。
(ああ 家まで運んでくれたんだから知らないわけないか)
1辺100メートルほどの大きさの立方体、その上の角にその半分ほどの大きさの立方体を乗っけたような巨大な建物。
これが役所である。
その建物の周囲には人の背丈ほどの木の植え込みが備えられている。
入り口がいくつもあり、その1つの北西口の自動ドアを2人が通る。
1階の今入った入り口のすぐそこに冒険者用のフロアがある。
おそらく1番役所に世話になるであろう、冒険者のためにそのような構造になっていると思われる。
受付に2人で向かう。
が、アッシュは自分の後ろにつき、「行け」といった様子で圧をかけている。
(今日は人が少ないんだな)
今日は運良く待ちの時間がなくそのまま受付に直行することができた。
というのも先日は1時間ほど待たされてしまったのだ。
しかし、無機質なこの建物の居心地は非常に良い。
そのため長い時間待たされていてもそこまで苦には感じない。
ソファが非常に心地良かったのを思い出す。
((おそらく待つ人々の苦情を考慮しての構造であろう))
ちらとそのソファを見ると寝ている冒険者がいる。
つい先日は自分がそうであったのを思い出し少し恥ずかしくなった。
「いらっしゃ~い ご用件は何でしょうかぁ?」
眠そうな、でも愛嬌のある挨拶で受付のお姉さんが自分たちを対応する。
「えっと先日の依頼の件で ・・・ 」
そう言いだそうとすると後ろからアッシュが自分の脇腹を軽くどついてくる。
『新しい依頼を受けろ』
「ん?」と不思議そうにお姉さんがこちらに目を向ける。
「えっと すいません 新しい依頼を受けに来ました」
「あら では IDをご提示下さい」
はっと後ろを振り返りアッシュを見るとすでに自分のIDカードを受付カウンターの上に置いているところだった。
アッシュの無表情な顔が自分を不安にさせた。
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