人生の転機

第一話 チャンス

あれからどれくらい経ったのだろうか、テレビのニュースで隕石が地球に落ちると騒ぎだしてから。

だいたい2年くらいか。ニュースでは、今から約1年後に隕石が落ちてくるらしい。

地球の半分ほどの大きさの隕石で、まぁ間違いなく地球は終わりだろう。

ニュースで報道されてからというもの、世間は大混乱だった。隕石で地球滅亡というより、人々の混乱による暴動や破壊行為、そんなもので滅びそうだなと思うくらい、目の前の景色は平和から一転した。

でも、俺は、何も変わらない。怖いなと思う気持ちもあるんだが、なぜか冷静だった。

だが、ニュースが報道され1年程過ぎたあたりから、世間はほぼいつもの日常を取り戻していた。

テレビでもずっと隕石のニュースばかりやっていたのに、今は芸能人のゴシップやらのニュースに紛れるほどだ。集団現実逃避とでもいうか。それはとても奇妙なことに思えて仕方がなかった。想像したくない程の絶望的な未来から目を背け、人々は日常を取り戻していく。それともただ、忘れているだけなのか。


退屈で平和で、きっと幸せな俺の人生。両親や妹とも普通に仲は良いし、恋人だっているんだ。

俺はこのままで良かった。でも変わった、全てが変わったんだ。隕石のせいではない。

子供の頃に感じていたきらきらしたもの全て、大人になってから見ると酷く汚れていた。

しかし気が付いてしまったんだ、汚れているのは世界ではなく、俺の目だ。汚れている目のフィルター越しに世界を見ている。綺麗にしようとしても、汚れは消えない。隕石のニュースで冷静なのはきっと、終わってもいいと思っているからなのかもしれない。でも腐っていたって仕方がない。俺は別に、絶望している訳ではない。普通に生きていけるんだ。隕石が落ちようと落ちまいと、俺は最後まで生きていく。

この汚れたフィルターをいつか絶対に綺麗にしてやる。


俺は近所のコンビニにタバコとビールを買いに行った。後1年で地球滅亡だというのに、呑気に仕事なんてやっていられるか。今の俺の楽しみはこのタバコとビールだけ。これから楽しみを見つけていくんだ。


「ぷはぁーーー!!くぅっっっ!これこれ!今なら死んでもいい!」


隕石が落ちてくる日、ここらへんで一番高くて見晴らしのいい場所で、今手に持っているセットを持って、隕石が体にぶつかる瞬間までタバコを吸おうと、密かに最後の楽しみ方を考えていた。

まぁ実際には、隕石が地面につくまでに凄まじい熱で人間の体なんて吹き飛ぶか溶けるかしちまうだろうが。

そんなことを考えていると突然、目の前が暗くなって意識を失った。

気が付くと、目の前に広がっていたのは真っ白な空間。上も下もなく、何もないところに浮かんでいた。

なんてことだ、俺は何もできていないまま、家族も恋人も置いて一人で死んでしまったのだ。

最後の時は、ちゃんといつものセットに、タバコを吸いながらであったが、こんなのは望んでいない。

しかもなんだ、死んだあとも世界があったのか、死後の世界なのか。訳が分からない。

混乱していると、目の前に一人の人間が現れた。


???「はじめまして、私は女神メイサーです。足立信さんですね?」



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