第4話
4話目
千婆に諭され大丈夫だと知り一先ず見る事にする。しかし、何とも奇妙な事に、その巻物には端から端までびっっしりと文字が書かれており、今から小説でも読み始めるのではないのかと思ってしまう。
すると、森夜は手で印を作り忍術を使った。
「墨字 快癒ノ術」
巻物から文字が飛び出し、森夜の体に張り付いて行く。
忍術を使った結果こうなったという事は分かるが、竈太はこのような忍術を見た事が無いから驚く事しかできない。
「ちゃんと見てんなさい。これが忍術さね」
「うん」
忍術はあまり教えて貰えてないから、森夜の術に注目する。それにしても字が動きだすってどういう忍術なんだろう。
疑問に思いながらもじっと見ていると、字を構成している墨が体にくっつき、動かなくなった。この状態だけ見れば体中に墨で文字を書いた変態だろう。
しかしここでは終わらなかった。パタっと動かなくなった文字が突然光りだしたのだ!
「なに!」
「よく見てんなさいよ!!」
「わ、分かってるけど!」
光で直視できないから見るも何も出来ない。それでも千婆が見て居ろと念を押してくるから、出来るだけみようとはする。
瞼をすぼめ、何とか見ようとしていると、光量がおさまってきた。
スッと効けていく光の中から出てきた森夜さんは、先ほどの文字が沢山体についている状態では無くなっていた。体についていた文字は墨となり、体から落ちて居るのだ。
「うわ、黒い!」
そのせいで一番最初の感想が「黒い」という何とも不格好な事になってしまった。
とは言え、墨は水分を含んでいないみたいで、墨汁をまきちらしたような事にはなっておらず汚くはなっていなかった。ただ、黒い粉のような物が落ちている状態で後で拭き掃除をしないと行けなさそうだ。
「確かに黒いねぇ。でも、ほら森夜の脇腹を見てみなさい」
「ん? あ! 傷が無くなってる!」
強化された怪魔に攻撃されたはずの右腹は綺麗に治っていた。もしかして、さっきの忍術って怪我を治すために忍術だったのかな?
森夜さんの傍に行き、直に触らせてもらう。するとやはりちゃんと治っていた。
「すご……こんなすごい忍術使えるのになんで、怪魔倒せなかったの?」
「俺は治療師なんだよ。回復させることは出来るが、攻撃するのは専門外だ」
「へー……」
でもこれだけ凄い忍術を使えるなら、チャクラだけでどうとでも出来る様な気がするけど……そうもいかないのかな?
「森夜はチャクラ操作出来ないのよ」
「え! でも忍術使っていたけど」
「チャクラ操作しなくても出来る忍術を使っているのさ。さっき体中に文字が引っ付いたのは見たでしょ、その文字がチャクラ操作の代わりをしてくれているのさ」
「すご! 都会ではそんな術があるのか! 便利だ」
今までチャクラ操作しか教えてもらえなかったから、こんな忍術がある事は知らなかった。
唯一教えてもらった、刃渡りの術はあくまでもチャクラ操作を起点としており、森夜の術のようにチャクラの操作をまったくしなくても使えるような術ではないのだ。
「そんな忍術があるなら教えてくれてもよかったのに……」
「ほほ、効率的にするだけじゃ、強くはなれないさ。忍術の基本であるチャクラ操作をおこたっていると、いつしか痛い目を見るからね、森夜のように」
実例を出されると、チャクラ操作を教えてもらっている事に対しての不満は無くなって来る。森夜のようにはなりたくないからだ。しかし、忍術を教えてくれない理由にはならなくない?
そう思っていると分かっているのか、千婆は頭をポンポンと撫でてくれる。
「チャクラ操作を行なわないのは今の流行りなだけ。一昔前はチャクラ操作を完璧にしなきゃ、外に出る事すら危ぶまれていたからね」
千婆が竈太に見えないように森夜へ視線を送る。
「そうだぞ。先生になった今だからこそ分かるが、チャクラ操作が出来ねぇ奴はドンドン死んでいく。いま俺が生き残っているのは、運が良かっただけなんだ」
「おや? それなのに今の忍術をやめさせないのかね?」
「さっき自分で言ってた……現在はチャクラ操作を行なわなくても忍術が使えるため、チャクラ操作への理解度が薄れております。とある生徒の話ですが、チャクラ操作は無駄だと言っていたりしまして、今さら必要だということは出来ない状態なのです」
「そうかい。チャクラ操作の延長上に忍術があるのにね」
竈太への口調のまま千婆へ話してしまったせいで、途中から口調が変わって変になっている。クスリと笑いそうになりながらも、話を聞くと、今の忍術への愚痴がたらたらと語られていた。
チャクラ操作を行なわずに、忍術が使えるならそれほど良い事は無いと思ってしまうが駄目なのだろうか?
森夜のような人が出てきてしまうのかも知れないが、そもそも森夜は回復しか忍術が使えないのであって、攻撃できる忍術を覚えれば解決する問題じゃないのかな?
「おや、チャクラ操作の重要性を分かっていないね?」
千婆は顔色を伺うのがうますぎる。チャクラ操作に疑問を持っているということが目を合わせただけで知られてしまった。
「だって忍術はチャクラ操作の先にあるんでしょ?だったら忍術が使えたらチャクラ操作は必要ないんじゃない?」
「ほほ、それじゃ駄目なのさ。どうすれば分かるかの……そうだ、あ奴が要るじゃない」
「あ奴?」
「竹爺さね。竹爺はチャクラ操作の達人さ」
「え、でもチャクラ操作を使っているところは見た事無いよ?」
竹爺は毎日のように、鍛冶を行なっておりチャクラを使っているところは見たことが無い。
「本当かい?」
「うん。偶に火を纏っていることはあるけどあれは忍術だもんね」
「いや、それはチャクラ操作の結果さね」
「え?! 全身に火を纏っていたんだよ? 忍術じゃなきゃ燃えちゃうよ?」
「燃えているのさ。鉄の温度を下げたくないからと、服が燃えるほどの暑さで打ってるのさ。それが出来るのはチャクラを使っているからさ。もし忍術であれば消費するチャクラ量が多すぎて、鉄を打つ前に倒れちまう」
「あれってそう言う事だったんだ……」
全く知らなかった。てっきり、趣味なのかと思ってた。
「チャクラ操作に出来る事は忍術によって出来るかも知れないけどね、チャクラ操作の方が圧倒的に消費量が少ないんだから、覚えておくに越した事は無いのさ」
「うん、分かった!」
千婆がこれほど言うのだからチャクラ操作は必要なんだと再認識する。納得した竈太を見て森夜は安心したようでほっとしていた。
「あ! そう言えば千婆はなんで森夜に会いに来たの?」
理由を聞くのを忘れていた。さっき謝罪とか何とか言っていた気がするが、もう一度聞いておきたい。
「おお、そうだったね忘れないうちに言っておかなきゃいけないさ」
「ん?」
千婆が竈太の顔をじっと見る。どうしたんだろうと思い見返すが、何をやっているんだろう?そう思っていたら、目線を森夜に向けた。
「あんた竈太に忍術を教えなさい、それが謝罪でいいさ」
「え……はい」
「どう言う事千婆!」
森夜は肯定しているため納得したのだろうが、竈太にとっては良く分からない。今までまったく教えてくれなかった忍術を教えてくれるのは凄く嬉しいが、なんで森夜なのだろうか?
「そのまんまさね。森夜に教師をしてもらうんだよ」
「でも、チャクラ操作は出来ないでしょ! なら意味ないんじゃないの?」
「確かに森夜はチャクラ操作は出来ないさ。でも忍術の事は誰よりも知っているさ。それに、忍術をしりたかったんだろう? 丁度いいじゃないか」
「そうだけどさ」
確かに森夜は学校で先生をやっているみたいだから、教えることは出来るだろうけど……怪魔に負ける様な人に教わるのかぁ。
友人関係であれば何とも思わないが、先生として接するともなれば少し不満が生まれてくる。
そんなとき森夜が口を開いた。
「竈太に教えるのはいいのですが、学校で先生をやっていますので時間があまりないのですがよろしいのでしょうか?」
東京からここまで、半日くらいかかる。そうすると教えるのも制限がかかってしまうだろう。だが、千婆は思わぬ解決法を考えていた。
「ほほ、そんなの竈太が東京に行けば解決するさね」
「え!」
「あぁ、そう言う事ですか。それであれば教えることが出来ます」
「いいアイデアでさね?」
「いやいや! 僕東京に行くの?!」
全然そんな話知らないんだけど!
「もう7歳になるんだから丁度いいじゃないか。村の皆には言っているから安心しなさい
な。この家も、ちゃんと管理しておくから」
「そう言うなら……」
「え、竈太7歳なのか?! 小さいとは思っていたけどその年齢で……」
「今は6歳だよ?」
「あ、そうさね! せっかくだし学校にも入れさせようかね。枠はまだ空いているかい?」
枠とは忍者学校の入学できる人数の事だろう。千婆の口調的に無理やり入れさせようとしている。しかし、今は2月だ。流石にムリではないのだろうか?
「だ、大丈夫です! なんでか入れて見せます!」
「そうかい。なら良かったよ。竈太の教育も頑張ってねぇ」
そう言うと千婆は帰ってしまった。
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