第3話


 

3話目

 

「チャクラ纏い」


 足にチャクラを纏わせ転がっている小石を蹴っ飛ばす。すると、飛んでいった小石は目の前にいた、怪魔を貫いた。

 雲散していく怪魔を横目にみながら足は止めず進んでいく。


「よし、早く帰ろう!」

「……なぁ、なんか多くないか?」

「怪魔のこと? それだったらいつも通りだよ。2歩1匹怪魔って言わない?」

「知らねぇ。つか、そんなに出てくんのか。本当に死んでたな」

「でしょ? 朝は怪魔がたくさん出るんだから倒れてたら死んじゃうんだよ」


 そうやって談笑している最中でも、小石を2つ蹴っている。


「つか、物理は駄目なんだよな? なんで石で倒せているんだ?」

「え、見えてない?」

「何がだ?」

「蹴るときにチャクラを纏わせてるんだよ。チャクラで攻撃しなきゃ、この怪魔は倒せないからね」

「あの一瞬でチャクラを纏わせているのか?!」

「そうだけど」


 何やら驚いているようだが、イノシシが腐ってしまうため悠長に話すことはできない。また目の前に出てきた化け物を同じように石を蹴って対処し走る。


「やばいな」

 

 それを見てまた森夜さんが驚いている。


「ちょっと、止まって見せてくれ!」

「駄目! 腐る!」

「それでも!」


 森夜さんが何回も懇願してくるが、それを無視して、反対に走る速度を上げる。森夜さんを持っているせいで想定よりも遅くなっていたのだ。


「チャクラ纏い!」


 足にチャクラを纏い脚力を上昇させた。しかし、無理やり脚力を上昇させたせいで足が若干軋む。

 竈太はその痛みに耐え家へ向かうこと数分。


「ついた!」

「うぇ、気も悪い」


 家へ帰ることができた。腕や足な痛みは、少し休んでいれば良くなる程度で、思っていたよりも痛みはない。

 森夜は持ち方が悪かったみたいで、吐きそうになっている。速度を上げなければこうはならなかったが、まあイノシシに比べたら吐き気なんてどうでもいいよね。


「ただいまー」

「お邪魔します」


 イノシシは玄関前に置き、森夜のみを持ちながら入っていく。家の中に入れば怪魔を警戒しなくても大丈夫なので森夜を降ろした。床は畳であり寝転がってもいたくない。

 家の中からは物音がせず、まるで誰もいないようだ。


「なあ、両親はいないのか?」

「いないよ」


 家族で住むのであれば丁度いい家だが、一人にしては広すぎる。中に入っていくと、居間に仏壇が置かれていた。そこには2つの写真が立てられている。

 片方は男性、もう片方は女性。どちらとも若い写真が使われており、決して年を取っているようには見えない。


「僕が生まれてすぐに死んじゃったらしいんだ」

「……そうか」


 しおらしい声で語った真実は、部屋の中へ溶け込んでいく。森夜は墓穴を掘ったと思い気分が落ち込んでいく。とは言え、あからさまに落ち込むわけにもいかず、何とか話を変えようとした時、ピーンポーンというチャイムが聞こえた。


「はーい!」


 竈太は逃げるようにして玄関まで走って行った。怪魔を倒せるほどの力があるとはいえ、まだ子供なのだ。親の死を意識させるのは酷だろう。

 森夜はいまだ動かない体に感謝しながら、休もうとするのだった。


 休むことは許されないのだがな。


「千婆、どうしたの? こんな時間に外に出たらあぶないよ!」

「わたしゃまだ現役さ。あの程度の怪魔はちょちょいのチョイよ」

「そっか! それでどうしたの?なんか予定とかあったっけ」

「いやいや、竈太にはないんだけどねぇ。奥にいる馬鹿垂れに、ちょっと用事が合るんさい」

「森夜のこと?」


 千婆と会話しながら、廊下を歩いていると居間の方からドタバタとした音が聞こえてきた。か弱い森夜の事だから何かあったのではないかと、走って確認しに行く。


「大丈夫?! って、へ?」


 焦りながら居間に行くと土下座をしている、森夜がいた。


「な、何してるの!」

「おやおや、土下座するくらいなら頭使いなさいな」

「申し訳ございませんでした!!」


 歩いて後を付けてきた千婆が森夜の事を見ると、禍々しい笑顔をしている。それが森夜も分かったのか、迫真の土下座で出迎えた。若干額が赤くなってない?

「お前の学校から謝罪をしたいと言われ待っていたのに、何だいこのざまは。竈太に助けてもらわなきゃいけない程落ちぶれたかい?」

「誠に申し訳ございませんでした!! 入試準備により戦闘を行える教員がで払っていたため、私が単独で来てしまいました!!」

「わたしゃ言いたいのはそうじゃないよ!!」


 森夜が言い訳をしていると、千婆の表情が曇ってきており、言い切った瞬間堪忍袋の緒が切れたのか怒鳴り声を上げた。


「夜明けに来るのであれば、怪魔の特徴を調べるのは当たり前でしょう!! それすら出来ず、怪魔を増強させたのは誰だ!! わたしゃ見ていたんだからね!!」

「申し訳ございません、千里様!!」


 横にいるだけで体がぶるぶると震える。

 千婆の説教は体の芯に響くね。昔、怪魔を燃やして遊んでいたら、千婆に見つかって怒られたのを思いだすよ。

 それにしても……


「千里様?」

「あら、竈太は知らなかったかい? わたしゃ【千里眼のくの一】なのよ。皆からは千里眼をもをじって千里と読んでもらっているさ」

「へー、僕も千里婆って呼んだ方が良いの?」

「今まで通り千婆でいいさね」

「分かった!」


 千婆と言えば、忍術によって遠くまで見ることが出来るんだ。時と場合によるみたいだけど北海道までだったら楽々と見れるみたい。だから、千里って呼ばれているのかな? 

 あれ、なら千婆の本名って何だろう? 聞いた事無いかも。


「ほれ、そこで寝っ転がっているくらいなら、瞑想でもしてチャクラを回復しなさい」

「は、はい!」


 すると森夜はすぐに足を崩し瞑想の態勢に入る。瞑想はチャクラを練る為に必要な体力と精神力のうち、精神力を回復してくれる。

 体力は休んでいれば回復してくれるが、精神力は待っていても回復してくれないため、瞑想などを行なうしかない。チャクラを使い始めて最初のころは、ちゃんと瞑想が出来なくて精神力が回復しないときもあった。


 しかし学校の先生と言う事もあって、流石に瞑想をすることは出来るようだ。少しずつ精神力が回復できており、チャクラが増えてきている。


「遅いね」


 しかし千婆からしたら精神力の回復が遅いみたいだ。見ている限り、竈太からしても相当早いので、厳しさがひしひしと伝わる。チャクラを教えてくれる人が千婆じゃなくて良かったと心から安心するのも仕方が無いだろう。


「竈太や、こいつにチャクラを分けてやりなさい」

「え、受け渡しはまだ練習中だけどいいの?」

「いいさ。私を待たせる方が問題さ」

「そっか。ならやってみるよ」


 そう言えば、さっき森夜に「謝罪がしたいと言われ待っていた」って言っていたけど、千婆は東京とかかわりがあるのかな? 

 千婆がこの村を離れているところなんて見た事無いから、あんまり知らないんだよね。


 そう思いながらも、森夜の背中に手をおく。

 ビクっと体を震わせられるが、千婆の目が有るからかそれ以上は動かない。


「チャクラ渡し」


 手からチャクラを放出し、森夜に浸透させる。

 怪魔にやったように纏わせるのではなく、体の中にチャクラを無理やり入れているため慎重に行なわなければならない。もし、少しでも気を乱したら、森夜の体は水風船のように爆発するだろう。


 とは言え、今の今まで練習はしてきているから相当誤った事をしなければ大丈夫なはずだ。

 チャクラを渡してから、森夜さんの口から泡が出ているような気がするが……大丈夫だとおもう。おもう。


「うん、そのくらいで大丈夫さ。大丈夫だね森夜」

「は、い……」

「本当に大丈夫なのかな。もしかして失敗した?」

「失敗なんてしてないさ。むしろ成功だと思うよ、ただチャクラを渡された側は睾丸を握り潰された時のような痛みをともなうらしいからね。泡拭いてんのはそのせいじゃないかい? まあ睾丸握り潰された時の痛みなんて知らないけどね!」

「そんなに痛いんだ……」


 痛みを想像すると睾丸がひゅんと上へあがる。そして、実際にその痛みを喰らったであろう森夜が泡を拭いているのを再確認すると、もう一度痛みに怯える。

 

「まあ、大丈夫さ。これでも一応忍者なんだからね。痛みには強いはずだよ!」


 そう言いながら千婆は、森夜の顔面を小突く。


「ほれ、さっさと起きな! 早く脇腹治さないと、そのまま死んじまうよ!」

「へ……は! はい!」


 小突いた衝撃で起きたみたいだ。すると、スーツの中かから巻物を取り出し、思いっきり開きだした。何をやろうとしているのかわからないので、ビビってしまうのも仕方が無いはずだ。


「何してんの?!」

「静かに見てんなさい」


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