第2話 草臥れた技術
2話目
おじさんは口を丸く開け焦点が定まっていないかのように竈太を見ていた。自分より、倍近く年が低い子どもに助けられたのだ。今までの常識では当てはめられないことがおきて理解が追いついていないのだろう。
「おじさん、大丈夫?」
「あ、あぁ」
少年はおじさんの手を取り、立たせようとする。こんなところで倒れていては泥だらけになってしまう。まあ、既に泥だけなんだけどね。
「よっととと?」
しかしおじさんは立つことができず、よろめきまた倒れてしまった。体に力が入らずに、そのまま崩れ落ちたのだ。
「どうしたの?!」
「いや、少しチャクラがなくなってしまっただけだ。心配してくれてありがとう」
「あ、そういうことかー」
チャクラがなくなってしまうと、体から力が抜けてしまう。困憊疲労の状態だと言えばわかりやすいだろう。少年も同じ状態になったことがあるのでホッとする。チャクラはなくなってしまっても時間が経てば回復してくれるからだ。
「ちょっとまっていてくれないか? 直ぐに立てる程度には回復するから」
「うん、いいよ!! ……あっ! イノシシ置きっぱなしだった」
「イノシシ?」
「さっき捕ったんだ! 早く冷やさないと腐っちゃう」
「あー、そういうことなら、帰っていいぞ。こんな場所だと食料は大切だろうからな」
確かに田舎だと、交通の便がなくて日々の食事が限定されてしまう。しかし、野菜はたくさん育てているし、肉だって教みたいに取れる時がある。便利ではないが、不便でもない。
「でも、おじさんこのままだとまた襲われちゃうよね?」
「まあ……そうだな。でもなんとかなるさ!」
「んー」
おじさんは無理をしているように見える。さっきだって襲われたとき何もできてなかった。そのうえ、今はチャクラも枯渇している。こんな状態でもう一度襲われたとき撃退できるとは思えない。
できればチャクラが回復するまでここにいてあげたいんだけど、どうしたらいいかな?
「そうだ! 一緒に帰ればいいんだ!」
「え、は? ちょっとなんで持ち上げるんだよ!」
「家に連れて行くためだよ!」
少年はおじさんを持ち帰ることにした。これならそばにいれるし、もし化け物が襲ってきても対処できる。そのうえ、イノシシも持ち帰れるのだ。一石二鳥だ。
「いや、そんなことしなくても大丈夫だから!」
「遠慮しなくて大丈夫! さっきだって死にかけてたんだからこのまま倒れているわけには行かないでしょ!」
「だがな、子どもに持ち上げられるのは、絵面が悪いんだよ」
「じゃあ自分で歩く?」
「……」
おじさんは諦めそのまま持たれることにしたようだ。まあ、体を動かせない時点で、抵抗できるはずがないのだが。
「なあ、坊主の名前はなんだ?」
「竈太だよ。錦 竈太(にしき そうた)」
「竈太か。俺は言葉 森夜(ことのは しんや)だ。東京の忍者学校で先生をやらせてもらっている。今日は派遣されてきたんだ」
「東京かぁー。そんな都会からわざわざこんな場所まで来たなんてすごいね。来るの難しかったでしょ?」
「クッソ大変だったぞ。バスは一日に3本しかない癖に一本目は6時だなんて、難しい一言でで表していいレベルじゃねえ」
「ハハハ! 確かに、夜明けは怪魔の時間だもんね」
朝焼け、夜明けと言われる時間は怪魔が目を覚ます時間だ。そのため本来であれば外には出ない方が良い。
「本当だよ。死ぬかと思った」
「次は気を付けないとねー。そういえば派遣って言ってたけど、なんかの任務なの? こんな田舎だと忍者らしい事は何も無いけど?」
「ある人に会うためだ。まあ、下っ端の仕事だな」
竈太はいままで、この村から出たことが数えるほどしかない。そのため、東京のことはあまり知らないのだ。しかし、近所の林爺や、林檎姉は行ったことがあるみたいで、たまに東京の凄さを教えてくれる。
とはいえ、竈太はこの村で不自由なく住めているので東京に対する憧れはあまり持ち合わせていないのだが。
「下っ端かー、だからそんなに弱かったんだね。次来るときはもっと強い人が来たほうがいいよ!」
「いや、俺は下っ端じゃねぇぞ! 下っ端の仕事なだけで、誰がやってもいいんだよ!」
「え、でも弱い」
「俺は戦闘向きじゃねぇんだ! 出来る事をやる忍者だよ!」
「……」
「なんだよその目は」
だって、おじさんさっき先生って言ったんだよ? 先生なら最低限あの怪奇を倒せるの能力はなくちゃだめじゃない?
東京のことはあまり知らないけど、戦う力がなくとも先生として活躍できるのだろうか?
「まあ、人は多いし大丈夫なのかな?」
「そうだよ、俺は俺がやれることしかやらないんだ」
「襲われていたのは?」
「……想定外だ」
本当にこの人が先生をやっているのか疑問に覚えてくるが、悪い人ではなさそうだ。
そうやって森夜さんを連れて歩いていると、イノシシのところまでついた。幸いなことに、まだ腐ってはいないようだ。もし真っ昼間なら虫がたかっていること間違いなしだ。
「おいおい、これか?!」
「ん? さっきいったじゃないですか、イノシシですよ」
「いや、こんなにでかいとは聞いてねぇよ!」
眼の前に落ちているイノシシは尻尾から鼻先まで3mあり、普通ではない大きさだ。だが、竈太からしたらいつも通りの大きさであり、気にしたことはなかった。
「こんなの……どうやって倒したんだ、って聞くようなことじゃなかったな」
「この枝でドスンと、脳天を叩きました」
「だよなー」
イノシシの額の凹みは、少年が手に持っている枝と同じ幅であり、何をしたのかはひと目見ただけでわかってしまう。
「なぁ、その枝って国宝か何かか?」
「国宝? なわけないよ! 山の中で拾ったただの木の枝だよ」
「だよなー」
額が凹むほどの威力で叩ける上に、それほどの威力で叩いたのに折れていないのは普通ならありえないだろう。だから、木の枝ではないのだと疑ったのだろう。
竈太は枝を捨て、片手には森夜さん、もう片手にはイノシシを持とうとする。
「ふん! ……重い」
「いや、流石に片手で持つのは無理があるだろ」
「さっきは持ててたの!ただ、森夜さんを持っているせいでうまく力がないらないだけ」
「それは、すまんな。それなら俺のことおいて言っていいぞ。そろそろチャクラが回復してくるだろうから」
「こんな所まで来て見捨てるわけないでしょ。それに、そろそろ化け物たちが活発になる時間帯だからこんなところにいたら死んじゃうよ!」
朝焼けが終わり、日が登ってからすぐの時間は怪奇達が活発になる時間だ。もし外にいれば怪魔に出会うのは必須。そんな場所に、か弱い人をおいていけるわけがない。
「チャクラ纏い」
腕にチャクラをまとわせ、腕の身体能力をあげる。するとイノシシをらくらくと持ち上げることができた。多少腕に負担がかかるが、家に帰るまでなら、気にするほどではない。
「おぉ、すごいな」
「何がです?」
「このチャクラだよ。綺麗にまとわっている」
「練習したからね!今ではチャクラコントロールは楽勝だよ!」
竈太は腕にまとわせていたチャクラを操作し波打たせたり、幾何学を作ってみたりと、多彩に操作した。それを見て森夜は驚きのあまり、声すら出ていなかった。
「すごいでしょー。爺さんたちにも褒めてもらったんだよね!」
「す、すごいな。そんなことできる人は今まで出会ったことないぞ」
「でしょ!」
チャクラをスラスラと動かし、今度は輪っかを作ったり、今手に持っているイノシシを作ったり……しようとしたとき! チャクラ纏いを解除してしまい、イノシシを落としそうになった。
「うを!! あぶない!」
「ちょ! 何してんだよ!」
体が斜めになり、イノシシだけでなく森夜も落としそうになった。しかし間一髪でチャクラ纏いを使えた。
「セーフ」
「ギリアウトだろ」
「落としてないならセーフでしょ?」
「油断して落としかけたらアウトだよ」
「厳しいね東京の学校って」
「忍者としての一般的な意見だよ。まあ、学校でも同じくらい厳しいけどな」
「世知辛いね」
「忍者だからな」
元々東京に憧れはなかったが、ここまで厳しいとない憧れが更になくなる。0からマイナスになるよ。
「まあいいや。行くからね」
「早くそうしろ」
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