辺境の地で生まれた僕は草臥れた技術を使い世界を穿つ
人形さん
第1話 少年はでかいイノシシを背負っていた
人も来ないような秘境と言っても差支えない田舎。そこには1人の少年がいた。手には道端で拾ったであろう、枝をもっている。
「今日は牡丹鍋ー。くっさいにおいが待ち遠しい!」
音程が滅茶苦茶な歌を歌っており、まさに子供だろう。
しかしそこらの子供とは大きく違う点が一つある。
背中に巨大なイノシシを背負っているところだ。
イノシシの頭は、何か細い物に殴られたように凹凸になっており、罠にかかったような傷跡は見えない。
「あ、千婆だ! 今日は朝早いね!」
「おや? 竈太(そうた)じゃないか。凄いイノシシ持てるねぇ」
「いいでしょー。さっき山に芝刈りに行ったら出てきたんだよ! そうだ!千婆も一緒に牡丹鍋食べる?」
「いいのかい?」
「いいよ! じゃあ夕食時に来てよ。林爺とか村の皆呼ぶからね!」
「そうかい。集まるのは久しぶりで楽しみだねぇ」
「じゃあまた後でね!」
千婆が来てくれることが嬉しいのか、ニコニコしながら軽快な歩行で手を振っていた。
「千婆が来てくれるなんて嬉しいな! 最近は部屋に籠ってばっかだったから会えなかったしね」
嬉しくて軽快に進んでいると、朝日が昇って来てオレンジ色に明るくなって来た。そろそろ6時過ぎた頃だろう。村人たちが動き始める時間だ。
そんななか、少年はさっきまでの元気良かった笑顔をなくし、無表情になっていた。
「また出たよ」
またとは、目の前にいる真っ黒な生物の事を言っている。形は牛のような、イノシシのような、もしくは犬のような、四足歩行の生物全てに似ている形をしていた。
名は怪魔。世界の悪意が形になった化け物。
「ギャウンワンギュン」
「もっと早く帰ればよかった」
そんな怪魔を前にしても少年は慣れているようで普通に歩いて近付いて行く。手に持っている枝は離さずに。
そのせいで、少年は怪魔に見つかってしまった。
怪魔は涎のような物を口から垂れ流し、少年へ走って近付いてきた。初速にしてすでに自転車を超えており、勢いに乗ったら車程の速度になる。だが、少年は冷静だった。
詰めてくる怪魔を前に態度を変えず、枝をゆっくり振り上げる。
「チャクラ纏い」
もし少年を見ている人がいれば、枝を振り下げる速度はゆっくりに見えただろう。しかしそれは実際にゆっくりだったわけではない。振り下げる動作に無駄が無かっただけなのだ。
枝は怪魔の体を真っ二つにし、少年の左右に分かれ飛んでいく。勢いのあまり、地面が抉れてしまうほどの速度でだ。
「……」
少年は切った怪魔の残骸を立ち止まって見る。すると、怪魔の体は煙のように雲散してしまった。
「帰ろうかな!」
面倒ごとは終わったと、踵を返し帰路につくのだった。少年としては出来るだけ早くこのイノシシの肉を冷蔵したいのだ。まだ寒いとはいえ、肉が傷むのは速いのだから。
そんなときであった。
「何なんだよこれ!!」
近場から聞いたことが無いおじさんの声が聞こえてきた。
何事かと思い少年は、声の方向をむく。するとそこには、少年にも襲ってきた怪魔が3匹もおり、スーツ姿の男性に襲い掛かっていた。
こんな田舎では助け合いが大切。少年は手にもっていたイノシシを地面へ捨てるように落とし、おじさんを助けるために走った。
「大丈夫ですか! 直ぐに助けます!!」
「子供?! 近づくな! 食われるぞ!」
「出来るだけ逃げてください!」
おじさんは少年が近付いてこようとしているのを、止めさせようと声を上げる。しかし少年は止まらない、あの程度倒せることは知っているからだ。
「クソ!! 少年逃げろ!」
「貴方こそ逃げてください!」
少年がおじさんの所につくまで後3秒ほど。
「こうなったら……やってる!!」
おじさんは上着の中から、クナイをとりだす。構え方からして、戦闘は慣れていないようだ。うまく持てていない。しかし、それでもやる気はあるみたいで、力いっぱい怪魔へ切りつける。
倒せた! と声を上げるほど綺麗に突き刺さる。後2匹だとクナイを構え治そうとしたとき、違和感に気付いた。
「ダメ! 攻撃しちゃだめです!!」
クナイで攻撃した瞬間、怪魔は二回りほど大きく成り、おじさんよりも巨大になった。それと同時に、動きも俊敏になりおじさんには対応できない程の速さで横っ腹をぶん殴られる。
「グハ!!」
おじさんは攻撃された衝撃で、数メートル飛ばされてしまった。少年としては攻撃されたとはいえ、距離が取れたからそのまま逃げてほしいのだが、藻掻くばかりで立つことができていない。
怪魔は好機と見て狼のように襲い掛かる。このままではおじさんは死んでしまうだろう。
「ギリギリセーフ!!」
しかし、間に合った。
おじさんの前に立ち、枝を怪魔へ突きつけている少年の姿だ。
「チャクラ纏い」
枝にはチャクラが纏われており、怪魔の攻撃では折れない強度をもっている。
少年は間に合った事に安心し一息つく。そして今の状態を確認する。
目の前には、物理攻撃によって強化されてしまった怪魔が1匹。その後方に走ってきている化け物が2匹。
このまま2匹に合流されたらおじさんを守るのに手一杯になってしまう。そうなったらイノシシの肉が腐る事は確定だ。それはダメだ。
少年はすぐにやるべきことを決め、一歩前に足を出す。
「チャクラ流し!!」
枝を伝って、チャクラが怪魔へと纏わっていく。怪魔はすぐに離れようとするが、それで駄目だ。離れても枝から地面を伝って、まとわりつくのだから。
そして、チャクラが化け物の全身に回った時、少年は術を使った。
「刃渡りの術」
手で3つの印を作り術を発動した。すると、化け物は細切れとなり雲散していく。強化されていた怪魔だったため、忍術を使わなければ対処できなかった。
だが後は2匹だけ。強化されていないのであれば何匹いたってどうとでもなる!残りの2匹は木の棒で軽々と切り捨て地面に転がした。
おじさんは呆然と見ている事しか出来ていなかったようだ。
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