第14話 見知らぬ欲望②*

「ちょっ…!止め…っ」


ジーンズの上から硬くなったものを確認すると、尊は飛び上がりそうになった。後ろから両腕で抱えこまれたままの体勢から何とかしようともがくが、久我の腕の力が強く逃げられない。


「馬鹿!何考えて――」

「多分、これは俺が気を送ったせいだろ? それなら、最後まで責任を持つべきなんじゃないか」

「変な責任感、出すなっ」


下着の中に手を入れると、息を呑む音が聞こえた。


「……は、っ」


冗談だろと言う微かな呟きを無視して、それを握り込んだ。

熱い――張り詰めた尊自身も、自分の掌も。

お互いの熱を敏感な部分で感じ合うと、溶け合うような感覚も強くなった。

タガが外れる、とはこういうことなのかと知った。

全てを暴きたい欲望が全身を駆けめぐる。


「……お前は何者なんだ?」

「何者…って、ん、うっ」


下から上へ、ゆっくりと擦ると、尊の腰が揺れた。

久我が与える愛撫に逆らえず、理性を失って行く。


「あっ……無理っ、嫌…だ……!」


握り込んだ掌の親指で先端の割れ目を嬲ると、尊の息遣いがいっそう激しくなった。

自分を制御出来ないのか、抵抗らしい抵抗はほとんど無い。

それでも精一杯の意思表示なのか嫌だと言いたげに首を振ると、長い前髪が乱れる。それがかえって久我の嗜虐心を誘った。


「こんなの…っ…ああっ!」


久我の手を止めようとして尊も手を重ねてくるが、逆に強く握ってやると一緒に自慰行為をしているような状態になる。


「い、やだ…っ」

「……そうは見えないがな」


尊の熱が自分の方に流れてくる。不思議な高揚感だった。

触れているだけで心地良いとさえ思う。

最後までやるのはさすがにまずいと頭の片隅では分かっているが――久我自身も強く昂ってしまい、抑えられそうにない。


(お前の中に入り込むヤツは、皆、コレを味わう訳か?)


まるで麻薬のようだ、と思う。

頭の芯を痺れさせる愉悦。

もっと、欲しい。

もっともっと――貪りたい。


「尊」

「……んっ」


首を傾けさせて、その唇を塞いだ。

乱暴に舌を絡めても尊は逃れようとしなかった。

待っていたかのように、それに応え、お互いを激しく求めあう。

敏感そうな舌先をくすぐってやると、耐えられないようにビクビクと身体を震わせた。


「あっ、いいっ…」


言葉だけの虚しい抵抗を尊はとうとう放棄した。

久我の手の中のものが、さらに熱く硬くなった。

堪えきれない先走りがとろりと溢れ出して、限界が近いことを告げる。それを塗り込めるように、全体をじっくりと両手で愛撫した。

息遣いがさらに激しくなる。

久我は追い上げられていく相手の顔を覗き込みながら、ふと意地悪くその手を止めた。


「…やめるなよ……」


強請るような声とともに尊の手が重なる。

背中をのけ反らせて久我に身体全体を預ける格好になった。

尊が自分に全てを委ねている姿が、久我に思いがけない情欲を抱かせる。

今すぐ押し倒して自分の欲望のままにどうにかしてしまいたい気分になった。

この身体の奥に入り込んだら――どんな秘密が潜んでいるのだろうか。

肌に触れただけでは分からないのかもしれない。

身体は「器」だ。

魂に触れなければ、人間の本質、隠された能力には辿りつけない――

この男の全てを、暴いて味わい尽くしてみたいと。

そんな衝動に突き動かされるのは、まるで俺自身が――…


「……お前の中に入りたい」


久我の言葉が、荒い吐息と共に尊の耳朶に注ぎ込まれる。

白く滑らかな首筋を舌でなぞって、甘く噛みついた。


「あ、ああっ…!」


悲鳴のような吐息が零れ落ちる。

尊はとうとう耐えきれなくなって、久我の掌の中に欲望を吐き出した。


「尊」と。


自分の名を初めて呼んだその声が、幻聴のようにいつまでも尊の耳に残った。

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