第2話 非日常の日常②
(うわ、久々にスゴいのが視える……!)
母親の肩口から子供を覗きこむ『もう一人』の姿が、そこにあった。
うっ、と小さく声を漏らし、ごくりと唾を飲み込んだ。
全体的に黒い影として視えているが、髪を下ろした着物姿の女性らしい。隣にいる母親には視えていないらしく気にする素振りが全くない。
(アレが原因な訳か…そりゃ泣くよな、あんなのが傍にいたら)
勿論、生きた人間ではない。
垂れた髪が、子供の顔にかかりそうなくらい長い。顔は良く見えないがまだ若い女性のように感じた。
幼い子供には視えていないかもしれないが、恐ろしい気配だけは充分伝わるのかもしれない。
背筋に悪寒が奔り、どうしたものかと頭を抱える。店の中でこんなにはっきり視えるのは初めてだ。
店内の他の客は全く平静で、誰にも何も変化はない。
(感じてるのはオレと赤ちゃんだけか…。本当に何で、オレには視えちゃうんだろう。何とかして欲しいってこと? 悪いけどオレは除霊とかそういうの全くできないんだよ)
尊は自分の霊感体質を呪い、深い溜息を吐いた。
幼い頃からこうだった。
元々神経質で、色々なことに過敏な子供だったと思う。
見た目も少しだけ変わっていて全体的に色素が薄く、髪も瞳も、一般的な日本人のそれよりも一段色が薄い。家族の中でそんな容姿は尊だけだ。
その生まれつきの体の特徴のせいなのか何なのか、他人には視えないモノが物心ついた時にはすでに視えていた。
電信柱の影にずっと立っている人。
駅の人混みの中で一人だけ違う方向を見て佇む人。
道路の真ん中を平気で歩いている人。
それは一見、普通の人と何ら変わらないような見た目で、けれど自分以外誰も彼らに注意を払うことは無く、子供心におかしいなと思っていた存在。
または今回のように、何だかよく分からない黒い影が人に憑いているのが視えたりもした。
成長すると共に、あれ、これって皆には視えていないのかと気付き始め、家族に話してみたものの、変なこと言わないでよと真剣な顔で諭され――そうか、視えないのかと腑に落ちると同時に、これは自分の肚の中だけに収めておくべき事なんだなと、小学生の時に悟った。
以来、この特殊能力(?)をどう扱ったら良いのか悩んだまま、二十二歳の今に至っている。
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