第4話 プロローグ4 別離、そして再会

「さて始めようか。夕、お前の…葬儀を」


「コロス」


起き上がった夕、目を真っ赤にさせ、何の感情も感じさせない表情をした夕。


ああ…ああ…こいつはもう、人ではなくなってしまったのだ。


ならば、せめて人として葬ってやって、次のせかいに…送ってやろう。


「シュウエンノホノウ」


そう夕が呟くと、彼女の目の前に黒い炎が出現、それが膨張しこちらに迫る。


それに対し俺は腕を構え、唱える。


「世界放ち」


俺は世界そのものを放つ技を発動する。


黒い炎は一瞬で散らされ世界そのものの質量が夕に衝突する。


「グガ」


臓物をまき散らしながら吹き飛ばされ、地にたたきつけられる夕。


しかし、その傷はすぐに再生していき…。


ああ、もういい…これ以上、彼女の尊厳を汚したくはない。


「終わりにしよう、夕」


「ゲボ…コロス、コロス」


…剣よ。


そして俺の手のひらに剣の柄が現れる。


その剣は一見青銅製の剣、しかし本質は不死の化け物のための「墓標」


世界纏で強化された身体能力を使い一瞬で肉薄、剣を、墓標を彼女の胸に突き立てる。


剣は彼女の胸を穿ち、そして。








「ここは?」


気が付いたら俺は広い空間にいた。


そこには色々なものが、金色の剣から果ては飛行船まで様々なものが乱雑に置かれている。


「なんで、こうなるんだろうね」


「…夕」


目の前にいつの間にか夕がいた。


夕はこちらに振り返って笑うと、俺の華奢な女の体に抱き着いてくる。


「ありがとね、光君…私を人として葬ってくれて」


「…ああ」


「…私はこれからどうなるの」


「お前の魂は異世界に転生する」


「異世界か~、じゃあさ~私は勇者ね、それで魔王を倒しに行くの」


それは、彼女が昔読んでいたWEB小説になかで王道と呼ばれたもの。


「それで…世界を救って、それでね?」


夕の、彼女の気配がどんどん希薄になっていく。


「それで…光君、私、君が好きだった、世界の誰よりも」


「そうか…そうだったか」


「返答は…聞かない、光君、さようなら」


そして彼女の気配が…完全に…消えた。


「…あばよ、夕」










それから数か月後


結局あの後、終焉の魔女「小鳥夕」を最後に、世界で魔女化現象はパタリと止まった。


世界に数年ぶりに平穏が訪れた。


終焉の魔女に俺が関わったことは様々な協議の結果、機密とされることとなった、無論、俺の能力も。


せっかく魔女化現象が収束したのだ。これに余計な水を差したくないのだろう。


そんなわけで俺は前と同じように気楽な高校生に…なれるはずがない。


自分のことを好いてくれた大切な友人をこの手で、葬ったのだ。


普通でいられるはずがない。


周りもそんな俺の様子に何かを察したのか、そっとされている。


ああ、今はそれでいい、それで。


…机に突っ伏し、考える。


あいつは…夕は今、異世界で何をしているのだろうか?時間の流れが異なるだろう異世界では今もクソもないか。


きっと、あいつは勇者になって、きっと…。


…なぜ、なんで、俺は彼女の、夕の気持ちに気がついて上げられなかったのだろうか、いや…これは自惚れか。


…はぁ。


俺は立ち上げり教室を出る。


今日は気分があまりよろしくない。早退しよう。


靴箱を開けると一枚の手紙が落ちてきた。


内容は…放課後体育館裏に…。


すぐに破り捨ててやった。さらに気分が悪い。このままだとここで「世界穿ち」をぶっ放しそうになる。


気を何とか静め帰路に就く。


ああ、このまま俺はずっとこうやって生きていくのだろうか?


そう、思っていた時。




足元から別世界の魔力反応が突如放たれる




「っ!?」


足元を見る、何かの魔法陣、これは別世界への入り口…だと!


何かアクションを起こす前に俺の体は浮遊感に包まれ…










「ここは?」


気が付いたらどこかの町にいた。時刻は夜。


「…意味が分からんぞ」


典型的なライトノベルに出てくるような中世ヨーロッパ風の街並み。


なんたっていきなり推定別世界に転移なんぞ。


そう思っていた時。


建物陰から何者かが飛び出してきて俺と衝突する。


「うわ」


「きゃあっ!」


まずい、考え事に熱中しすぎていた。


慌ててぶつかってきた人物の方を見る。


…銀髪の少女…いや…は?


その少女を見た瞬間、俺の思考は一瞬凍り付く。


明らかに初対面であるはずの少女、ここは恐らく別の世界なので当たり前だ。


しかし、俺はその少女を知っている。


なんたって、俺が…俺が葬った魂。


他の世界に送り出した魂。


[世界葬]の能力により人の魂を視認できるようになった俺、だから、見間違いのはずがない。


「…夕…?」


その少女は…容姿は全く違う…だが、「小鳥夕」の、俺の最初の友人「小鳥夕」の…魂そのものを宿していた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る