第三十二怪 鵺の親子① Manticore father and son

 モッケ爺の号令の下、ゴブリンの氷雪魔術師達が一斉に杖を傾け呪文を唱えると、破城槌を載せたソリから門まで一直線に氷の道が瞬時に完成する。

 どこからともなく鳴り響く鐘の音を無視して、ソリを引くゴブリン達は走り出す。門番の若いマンティコアは異常事態に気付くと、ソリを阻止するでもなく、あろうことか夜の森へと逃げ出してしまった。

 監視室内では慌てふためくマンティコア達の気配がする。こちらは事前の策通りに支援部隊が弓矢やら魔術やらを撃ち込み牽制。結果、破城槌は邪魔されることも無く最大の加速を以って門にぶち込まれた。


 破城槌は、静かな夜の闇に眠る獣達を全て叩き起こす勢いで衝撃音を響かせ、金属製の門をへし曲げながら吹っ飛ばした。


「ゴリゴブッーーー」


 トロツキの総長が先頭に立ち、剣を振って叫ぶと、ゴブリン軍は間髪を入れずマンティコアの巣穴に突入する。


「スズカよ、わしらも行くぞい」

「スズカさん、おいらが付いているから安心して下さいっす」

 二人とも頼もしい限りだ。

「よし、行こう。モッケ爺。シックル。・・・キエン君もワルガーも足止めだけでも良いからね。無理しないでね」

 後半の台詞だけゲッシー語で投げかけながら、俺も巣穴に突貫した。


♦ ♢ ♦ ♢ ♦


―――大役を任されるのは、危険であろうとむしろ誇り高いことだ。しかし、なぜあの怪しげなる妖精はエルガーの同行を許してしまったのか。


 既に戦場に立っているというのに、ワルガーはスズカの背中を見ながら、そんなことを思ってしまう。これで何百回目か分からないくらいだが。


「親父、俺たちも行くぞ!」

 ややもすると、ぼうっとしていたワルガーの脇をすり抜け、エルガーが敵陣の巣穴へと突貫する。

「ま、待て。エルガー、俺様の側を離れるんじゃない」

 慌ててワルガーはエルガーを追いかける形で、自身も突入した。

「親父は、自分の仕事に集中しろよ。俺は適当に逃げ回っとくからな!」

「本当に逃げる気あるのか!? どう見てもヤル気満々にしか見えんぞ」

 息子の気迫漲る様子に、敵が現れた途端いの一番に飛び掛かっていくんじゃないかと思えて、ワルガーは胆が冷える。

「心配すんなよな。俺が弱いのは自分で分かってる」

「ワルガー、心配イラナイ。ムラサメ、ツイテル」

 片言のハヌ語が聞こえて、ワルガーは、エルガーが背負っている剣に眼をやる。トロツキの洞窟から出陣する前に主の妖精からエルガーの安全確保のためにと、エルガーに貸し与えられた薄気味の悪いインテリジェンスウェポンだ。


―――全く以って理解できない。もしエルガーを同道させなければ、かの妖精はこの強力な自動律の魔剣を己の装備として使うことが出来たのだ。なのになぜ?


 ワルガーにはスズカの行動があまりにも謎だった。

 もとより、初めてテオテカ砦の地下牢で会った時から今日に至るまで、ワルガーにとってスズカは謎の塊である。何を考えているのかさっぱり分からない。天下の大計に手を出しているにしては、あまりに浮薄にして、あまりに大慈。かと言ってあのストラスに操られているだけのただの傀儡とも見えない。


「親父、どいつが親父の標的なんだ?」

 エルガーの声に、ワルガーは現実に引き戻される。

 見れば、玄関通路は既に駆け抜け、親子二人は今や広場に至っていた。周囲では激しい戦闘があちこちで繰り広げられ、喚き立つ騒音と鬨の声で充満している。


「俺様が相手するのは、確かキカザールとかいう近衛だ。悪趣味な兜と緋色のマントって話だが・・・」

 こうも混乱状態では、目標を見つけられそうにない、と続けようとしてワルガーは黙った。


「効かん! 効かん! 効かん! 効かんわーい! ふははは。我が名はキカザール! キゾティー族いちの剛力無双、三近衛が一人、獣呼んで剛体のキカザールとは我のことよ! 特とその小さな脳裏に覚えてから死ぬと良いぞ。ゴブリンども」

 広場の中央奥に巨体のマンティコアが大音声を張り上げている。背中にはこれ見よがしに緋色のマントを靡かせ、ゴテゴテした金細工たっぷりの装飾が付いた兜は成金趣味のようで見てくれが悪い。

 余裕をかましてムキムキポーズを作るそのマンティコアにゴブリン達が槍やら剣やらで攻撃したり、あるいは火球、風刃と魔法を放ったりするが、まるで効果が無い。表面の毛が焼けたり、傷跡が増えていったりはしているので、攻撃が無効化されているわけではなさそうだが、ダメージが通っているようには見えなかった。


「ふははは。筋肉こそが全てを解決するのだぁ!」

 そして、キカザールがその丸太のように太い腕を薙げば、取り囲んでいたゴブリンンたちがあっという間に吹き飛ばされてしまう。

 しかし、ゴブリン達は慣れているのか、前回りをしたり、空中で風の魔法をクッションに使ったりと、致命傷は避けているようだ。


「むっはっは。貴様ら・・・その受け身のうまさ、トロツキだな?」

 キカザールは愉快そうに笑うが、かと思うと、

「いかん! いかん! いかん! 漢たるもの、正面から殴り合ってこそ、受け身だの何だの小賢しい技を使いおって、つまらんぞ。さっさと、ぺしゃんこになれ!」 

 と、今度は急に怒り出す。情緒の安定しない奴だ。


「親父。あいつか。・・・なんか、強そうだけど、勝てるのか?」

 エルガーの疑問はもっともだ。生半可な攻撃は無意味だろう。

「まあ、必ずしも勝たねばならんわけでは・・・」

 ワルガーの仕事は、妖精の主殿がキゾティー族のボスを捕獲するまで、キカザールを足止めすることだ。

 しかし、

「勝て!」

 さっき不安そうに尋ねたはずのエルガーが、ワルガーの言葉を遮って、叫ぶ。

「親父、勝ってくれ!!」

 きっと睨みつけるようなエルガーの鋭い眼差しを、ワルガーは正面から見据える。正直言ってワルガーには、キカザールに勝てる自信はあまりなかった。負けない戦いならやりようはあるが・・・。

 だが、

「ああ、分かった。勝ってくる」

 ワルガーは決心した。勝とう。エルガーのために。息子の信頼を取り戻す為に。きっとこれが最後のチャンスだ。


「ガァアアアーァアアーーー」


 己自身を奮起させるため、ワルガーはあらん限りの唸り声をあげて駆け出す。


「ゴブッ!?」

「ぬっ?・・・ふっはっはっは。これは良き獲物が来る」

 キカザールと戦っていたゴブリン達は、ワルガーの気迫に気付き、すぐさまその場を離れて道を開ける。キカザールもワルガーの唸り声に気付いて敵影を探し、ワルガーの姿を目にとめると豪快に笑った。


「さあ、どこの部族のマンティコアか知らんが、貴様の力を示して見せよ。卑小なる小鬼に飼いならされた井の中の猿めが」

 宙に躍り上がって、飛び掛かるワルガーに対して、キカザールは余裕の笑みを浮かべて、ムキムキポーズを作る。

「【大力雷爪】」

 ワルガーの右手の爪にバチバチと雷光が爆ぜる。

「さあ、来い!」

「舐め腐りおって。この一撃で息の根を断ってやるわ」

 静止したままのキカザールに対して、ワルガーは腹を立てながら雷光を伴う右手を振りぬき、キカザールの頭部を兜ごと殴りつける。衝撃で、キカザールの兜が凹み、頭から外れてどこかへ吹っ飛んでいった。

 が、

「ふっはっはっは。効かんぞ!」

 ワルガーに思い切り頭を殴られたはずのキカザールは平然としていて微動だにしなかった。

「馬鹿な・・・」

 自分のパワーが全く通用しなかったことに愕然とするワルガー。

「さあ、おかえしだ。これでも喰らえ!」

 大振りの攻撃後に隙が出来ていたワルガーのがら空きの胴体に、キカザールの拳が炸裂する。

「ぐほっ」

 ワルガーは先ほどのキカザールの兜のように吹っ飛ばされた。

「ふはっはっは。見よ。これぞ、筋肉の勝利。鍛えぬいた鋼の体こそが勝利の秘訣と知るが良い。貴様の貧弱な筋肉など・・・待て。俺様の兜、兜はどこへ行ったぁああああああ!?」

 兜がないことに気付いたキカザールは慌てて周囲を見回す。

 ワルガーはその様子を見ながら、ヨロヨロと立ち上がった。


―――おかしい。


 ワルガーは右手の肩をグルグルと回す。確かに彼の全力の攻撃はキカザールの肉体に一切効かなかったように見える。


―――だが、それにしては軽い・・・


 吹っ飛ばされておいて、受けた攻撃を軽い等と言うのは、負け犬の遠吠えのようなものに聞こえるかもしれない。だが、ワルガーの中には確かに違和感があった。


「もう一度、試してみるか?」

 ワルガーは再び駆け出す。

「ぬっ? 懲りぬ奴め。まあ良い。兜は貴様をボロ雑巾にした後で探すとしよう。そして、貴様の毛皮で以って我が兜を磨いてやる! さあ、来い! 何度やっても同じことだがな。ふははは」

 再びキカザールは筋肉ムキムキポーズを取る。

「ほざけ! 【大力岩爪】」

 今度はワルガーの左手を硬い岩石が覆い、元の何倍もの大きさと重量の前足を形作った。そして、ワルガーはその巨大な岩石の手で、無防備に晒されているキカザールの脇腹に殴りこむ。

「うぉらぁああぁああー」

 だが、ワルガーが雄叫びをあげながら全力で振りぬいた岩石の左手は、キカザールの脇腹と衝突した後、木っ端微塵に砕けた。またもやキカザールにはダメージが通っている様子は無かった。

 しかも、

「くっ」

 キカザールを攻撃したワルガーの体は一瞬痙攣により硬直した。その時初めてワルガーは、キカザールの体の表面が麻痺系雷魔法を流して帯電していたことを知った。むろん、後の祭りである。

「お返し、2発目ぇぇー」

 スタンしてしまったワルガーのみぞおちに容赦なくキカザールの拳がめり込む。さらに体勢を崩してふらつくワルガーに、追い打ちでその頭部へと拳が撃ち込まれた。


 ワルガーは頭から吹っ飛ばされ、地面を転がる。

 キカザールはそれを満足そうに眺めた。

「ふはっはっは。貴様の貧弱な筋肉では、我が筋肉の守りを突破することなど出来ぬのだ。しかーし、逆に我が拳は貴様を打ち砕く。状況は理解できたかね? 井の中の猿よ! 貴様には絶望しかないのだということが。さあ、潔く絶望するが良い」


 ワルガーはヨロヨロと起き上がると、

「く、くくく、くはっはっは」

 と笑いだす。

「あ? なんだ? なんだ? 頭を殴っちまったせいで、おかしくなったか?」

 キカザールは不審げに首を傾げる。

 ワルガーの笑いは止まらない。

「く、くくく、詐欺師というのは、よくじゃべるものだ・・・というのを学んでおけたのは不幸中の幸いであったな」


―――思えば、ノクスも俺様と謀議をしている時は信じられないほど饒舌だった。


「・・・詐欺師だと?」

「ああ、そうだ。何が筋肉だ。馬鹿馬鹿しい。・・・なあ、キカザールよ。なぜ俺様は未だ意識があるんだろうな? 完璧なタイミングで頭部を貴様の拳で撃ち抜かれたにも関わらず」

「ふんっ、それは我が手加減してやったからだ」

「確かにその可能性はあるな。貴様の性格から言ってもありそうな話だ。それとも、だからこその演出か? そういう性格であると思わせようと振る舞っているのか?」

「何の話だ?」

 いらつくキカザールに対し、

「貴様のちんけな詐欺についてさ」

 ワルガーは吐き捨てるようにして言った。


―――もしも、先ほどの頭部への一撃を放っていたのがハクタだったら、俺は意識を刈り取られていただろう。実際、俺がハクタとやった時、そうして負けたのだ。だが、そのハクタでさえも俺の拳をぶち当てて無傷ノーダメージということは無かったのだ。つまり、このキカザールというやつは攻撃と防御の力が合っていない。等しく筋肉のなせる業なら、両者のバランスがこうも著しく乖離することなど有り得ん話ではないか? であるならば・・・


「貴様の防御能力は筋肉によるものではない。そういう能力を持っているからだ。だが、その能力を発動するには、あの変なポーズを取る必要がある・・・あるいは動かず静止する必要があるのではないか? 相手を挑発するような妙なポーズをワザワザ取るのも、尊大な振る舞いをしてみせるのも、全てはその下らん詐欺を相手に悟らせずに成立させるためであろう」

 ワルガーの指摘にキカザールは渋面を作る。

「ふんっ。なるほど。貴様は見た目ほど馬鹿ではなかったということか。・・・だが! しかしそれが分かった所で何になるというのか? 貴様の攻撃は我には通らん。我が拳は貴様に通る。この事実は覆しようのない事実!」

 そして、キカザールは再びムキムキポーズを取る。

 確かにキカザールの言う通りだ。ワルガーにはとてもこのキカザールのムキムキポーズ防御の上からダメージを通せそうになかった。しかも、拳を当てれば、体表に走る電撃で麻痺させられる。そこにカウンターが撃ち込まれるわけだ。


―――正攻法では無理か・・・


「ほう、そうかね? しかし、それなら俺様の勝利ということになるな」

 ワルガーは敢えて弛緩し余裕の笑みを浮かべる。

「あ? やはり、頭を打って馬鹿になったか、貴様。何をどうしたらこの状況で貴様が勝利できるというのだ」

「何をせずとも俺様の勝利だとも。むしろ何もしないことで勝利できる。教えてやろう、俺様が与えられた任務は、うちのボスがお前たちのボスを撃破するまで貴様を足止めすることだ。さあ、永遠に俺様の目の前でそのポーズを取っているが良い!」

 そう言い放ってから、ワルガーはカラカラと愉快そうに笑ってみせた。

「くっ、卑怯千万な」

 キカザールはムキムキポーズのまま眉尻だけをキリリと引き上げて怒る。しかし、ワルガーから言わせれば、ムキムキポーズを止めようとしないキカザールの方が余程卑怯な奴だった。


 ワルガーはさらに大あくびをかますと、キカザールの目の前でだらんと寝そべる。

「さあ、全部終わるまで、こうしてのんびりして居ようじゃないか。そしてキゾティー族のボスの首が運び出されるのを、共に何もせず見物しよう」

 キカザールは牙をがちがちと噛み鳴らすが、しかし冷静だった。

「ふんっ。馬鹿めっ。そんな見え透いた手に引っかかるものか。俺が焦って貴様を攻撃しようとポーズを解除すれば、その隙をついて攻撃する魂胆であろう」

 と、ワルガーの真意を見抜き、勝ち誇るキカザールだが、

「ああ、その通りだが? そんなに偉そうに見破ったと喜ぶほどのことか?」

 ワルガーはあっさりと首肯し、悔しがるでもなく、飄々としている。

「貴様ぁああーーー」

 キカザールが怒声をあげた。しかし、鉄壁のムキムキポーズを崩そうとはしない。


―――さて、ここからどうしたものか


 ワルガーは迷う。

 任務の点で考えれば、ここに寝そべり口論を繰り広げて時間稼ぎをすることは理に適っている。しかし、ワルガーにはエルガーとの約束があった。故に、どうにかしてこの鉄壁の守備力を持つキカザールに、誰の目にも明らかな形で勝利を収めたい。

 しかし、キカザールは豪放磊落な振る舞いとは正反対に、その実は慎重な性格らしくワルガーが散々挑発して、敢えて作ってみせた隙にも踏み込んでこない。


 いくつか計略は考えられたが、いまいち自信が持てないワルガーである。


 と、ワルガーの視界に、金色のひしゃげた物体が飛び込んできた。寝転がって視線が極限まで低くなったおかげだろう。せわしなく行き交うゴブリン達の雑踏の中に、キカザールご愛用の兜が転がっていた。


―――イチかバチか、試してみるか?


 ワルガーはすいっと立ち上がると、唸り声をあげてゴブリンどもを左右に散らせて道を作り、キカザールの兜を拾うと、すぐさまキカザールの元へと帰って来る。


「ぬっ、貴様。それは我が兜ではないか」

「ふんっ」

 ワルガーはキカザールの目の前で、兜をぺしっと叩く。

「な、何をする。貴様、それは幾らなんでも礼儀知らずな行いだぞ」

「知るものか」

 今度は拳で思いっきり殴りつけ、地面に叩き落とす。ひしゃげた兜はキカザールの足元に転がった。

「貴様ぁああ、他獣の大事にしている持ち物をよくも・・・そのような人間にも劣る行いをしてまで、我を挑発したいか!」

「・・・・・・」

 流石にワルガーも「人間にも劣る」などと言われて気分を害したが、計略も大詰めであるため、一呼吸置いて冷静さを取り戻す。

「ふんっ、戦場で敵の防具を破壊するのは、別段礼儀知らずな話ではなかろうが。というわけで、今から貴様の兜を破壊してやろう・・・【大力岩爪】」

 ワルガーの左手を岩塊が覆い始める。

「もっとも、俺様の爪が貴様の兜を破壊するより前に、その兜を拾い上げれば良いだけではないか?」

「・・・小癪な」

 それでも、キカザールは動こうとしない。


「・・・では、黙って突っ立居ればよい」

 ワルガーは堂々キカザールの正面で屈みこむと右手でキカザールの兜を抑え、岩爪の左手を振り上げる。ワルガーは、ふぅと一呼吸置く。緊張で汗が垂れる。


「おらぁあ」

 ワルガーは全力で左手を振り降ろした。その勢いは左手が地中に埋もれるほどで、地面に衝撃が走り、土ぼこりが盛大に舞う。

 しかし、その瞬間、

「ふははは。我が兜の仇ぃいー」

 キカザールがポーズを解いて、地面に屈んでいるワルガーの頭へと拳を打ち下ろしてきた。全力で技を放った直後のワルガーには避けようがない。防御も回避も不可能である。


 しかし、避けられないなら、避けなければ良いだけだ。

 ワルガーの右手がキカザールの腹部へと突き込まれる。

 が、

「【雷神の仁王立ち】ポーズパターン2!・・・ふははは。馬鹿め。そう来ると思っておったわ!」

 ワルガーの攻撃が入るより前に、それを予期していたキカザールは攻撃をやめ、別のポーズで鉄壁の魔法を発動させる。

 これで、ワルガーは麻痺したはず・・・と思ったキカザールだったが、

「な、何!?」

 ワルガーの右手は素手では無かった。土ぼこりの中よく見えていなかったが、その拳の先端にはキカザールの兜が嵌まっていた。

「初撃の時はなぜ麻痺しなかったのかと考えてな」

「ふんっ、なるほど。しかし、また膠着状態か。つまらん」


「いや、俺様の勝ちだ」

 ワルガーはそう言うと、地面に突き刺さっていた左手を雄たけびを上げながらカチ上げた。巨大な岩爪がキカザールの右足付近の土をザックリと掘り返す。

「ぬぅっ!?」

 深い溝が出来たせいで、キカザールの右足の下の地面がキカザールの巨体の体重を支え切れず、ボロボロと崩れ落ちていき自然の結果として、キカザールはバランスを崩した。


 よろけるキカザール。【雷神の仁王立ち】ポーズは崩された。

 その腹部へと下から上へ突き上げるようにして、ワルガーの魔法が炸裂する。

「【金剛大力爪】!」

「ぐほおぉ」

 ワルガーの両手の拳がキカザールの腹部を抉るようにして、キカザールを軽々と宙に舞い上げる。そして、そのまま落下してきたキカザールは地響きをさせながら地面に衝突した。

 ワルガーは、泡を吹いて気絶しているキカザールを見下ろす。


「貴様は筋肉の前に頭を鍛えるべきだったな」

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