老人の予知夢

グカルチ

第1話

ある老人ホームの職員Aさんの話。


老人Bさんは、普段はとてもいい人だし、人気だが、気の合わない人間をひどく毛嫌いする傾向があった。困ったものだと思っていたが、ある時Aさんが声をかけられ、優しくこんな不思議な話をされたのだ。


「私は昔から予知夢で、虫の知らせを受けることがある、私となかの悪いCさんだが、もう長くはないだろう、明後日くらいにその日がくる、どうにかその日には、Cさんの大好きな百合の花を飾ってあげてほしい」


 CさんおじいさんではBさんと顔を合わせれば喧嘩ばかり、Aさんははこの話を信じたわけではなかったが、Aさんはいい人だし何となく、そうした方がいい気したので彼の言う通りにした。


 するとその二日後、Cさんは夜中に息をひきとった。家族にも感謝されたし、同僚からは、なぜこんな飾りつけをしたのか、予知能力があるのかと畏敬の念を抱かれたし悪い気分ではなかった。そうした事はBさんがなくなるまで、ずいぶん続いた。そして、そのたびに、毛嫌いしていた人も、そうでない人も、その死期にはちゃんとその人の事を弔うできた人だと思った。


 そしてついにそのBさんが亡くなる前日の事。

「わしも、ついに明日じゃ、明日は平凡な弔いにしてくれ」

 どうしてか?あなたは十分立派な生き方をしてきたのだから盛大に弔わせてくれ、そういうと

「あの話の続きをしよう」

 そういって、自室にAさんを招いて話した。

「その予知夢をみたのは、小学生の頃が最初だった、はじめは父が死んだ、その次が毛嫌いしていた遠い親族、父、嫌っていた友人、ただの虫の知らせだと思っていたし、虫の知らせを見るときには、必ず死ぬ人間が笑っていたから、ワシはそれがただの虫の知らせだと思っていた、昔からワシは神様に願い事をしておった事をおもいだしたのだ、そして、嫌な事があるとあるくちかけた社に、お願いごを手紙にしたためて軒下においていたことを思い出したのだ」

 老人は、ふう、とため息をつく、体を動かすのがつらそうで、ため息をついたり、咳をしたりする。

「その手紙をみつけて、取り出した、そこには、ワシの日記があり、嫌な事があったときには、その人の名前を書いて、その魂をそちらに送ってくださいと書いてあったのじゃ」

「そんな、偶然では?」

「それでも、その手紙を取り上げたあとにはぴたりとやんだ」

「……でも、それとこれとは……」

「すまんなあ、あなたはいい人だが、悪い人もいたし、ここにきてからもこのホームに不満がないわけではなかった、老人というくくりだけで同じ場所に放り込まれ、私はどんどんと弱っていった、それで、家族と一緒に時折、あの社を訪れた、わしが熱心にお参りするので、家族たちはそれを許してくれたが、ワシは……そのたびに、ワシの気に入らない人間の魂が奪われるように手紙を、こっそり軒下にいれていたのだ」

「じゃ、じゃあ……」

「そうだ、Cさんを殺したのも、ほかの気に入らない人間を殺したのも私じゃ、予知に見る人間は、必ず私が死を願った人間だ、今まですまなかったなあ、だが、これで死ねる、これで」

 そして、彼の葬儀はひっそりと執り行われる事になった。Aさんはその葬儀をひっそりと行ったのは、Bさんの願いをかなえるためだけではなかった。同僚でこっそり黙って付き合っていたDさん。彼女もBさんの余地を受け、若くして亡くなったのだ。Aさんや、他の大勢の前でかなり人当りがよく、木の言いに人間だったBさんに、こんな秘密があったなんて。



 ほどなくしてAさんは介護の仕事を離れて、長距離の運転手をするようになったそうだ。なるべく人と関わりたくない。ただ少し嫌われるだけで、ひどい目にあわされることもある。それが自分ではなくとも、ひとく苦しむ事がある。


 AさんとBさんは良好な関係だった。Dさんは確かに、バシバシと思ったことを口にする人だし、時折Bさんの悪口をいう事もあったが、人の悪い所を指摘し改善策をいえる人だった。それより、Aさんは、人の好くいつもニコニコしているBさんが、影では人を恨み、怒りをためていた事を考えると自分もどこか、そうした人の恨みを避けるようにして気丈にふるまって、良い人間を演じていることに耐えられなくなったのだそうだ。

 

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老人の予知夢 グカルチ @yumieimaru

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