第1章 1ー2 日常

「アマンド!起きなさい、アマンド。何時だと思っているの?」

 けたたましいな。何の音だろう。

 アマンドは眠い目をこすりながら

「おはよう……お母さん。」

とつぶやくように言った。アマンドの目にフライパンとすりこぎを持った母親の姿が映った。

「やっと起きた。さあ、起きたのなら早く食べなさい。」

母親はテーブルの上の目玉焼きとハム、パンを指さしながら言った。アマンドはしぶしぶその声に従うようにテーブルにつき食事をし始めた。

「今日は金曜日。私の仕事が終わったら例の場所へ行きましょう。」

「あっそっか〇×▽……」

「きちんと食べてから話しなさい」

「今日は金曜日か。早いな1週間たつのは。」

「そうよ。早いの1日1日は。あっという間。」

「でもすぐに金曜日が来るのは良いね。」

アマンドのこの言葉を聴くと母はとても喜んでいる様子だった。

「あの絵画を観る。これほどまで素敵なことはないから。」

「じゃあ、四の五の言わず食べちゃいなさい。」

アマンドは慌ただしく朝食を済ませると、急いで作業着に着替え、玄関へと向かった。

「行ってきます!お母さん。」

「行ってらっしゃい。アマンド。」

アマンドが家の外に出ると、陽気な声が響いてきた。

「やあ!アマンド!元気かい?」

「やあ~アマンド!元気かい??」

「こんにちは、フリックス、バーロ!」

「今日も仕事かい?大変だな~。」

フリックスとバーロはアマンドの近所に住んでいる住人で、よくアマンドに話しかけてくるのだった。

「そうだね。仕事だよ。」

「しごとか~。俺らはしごとってことをしたことないな」

「しごとってやつは、おいしいのかな?」

「仕事は食べるためにするんだよ。それ以上でも、それ以下でもないよ。」

「違いないなあ。」

「違いねえ~。」

「僕は急ぐから!またねお二人とも!」

アマンドは急いでその場を立ち去った。

 アマンドは炭坑で働いていた。彼の仕事は、使える石炭と使えない石炭を見分けることだ。彼の仕事には定評があった。

「アマンド!この石っころは炭坑で使えるかい?」

けたたましい声が、炭坑中に響き渡る。そのたびにアマンドは、

「そいつは使えるよ!」

「そいつは使えないな!残念ながら」

と答えるんだ。


 仕事を終えるとアマンドは急いで、ネイショナルミュージアム(国立の美術館)へと向かった。

「来たわね。アマンド。」

「遅くなったね。お母さん。」

「さあ、行きましょう。」

アマンドと母親は、美術館へ入ると、スタスタと一目散に、あるコーナーへと向かった。そこには。1枚の大きな絵画が飾られており、そのキャプションには『偉大なる獅子達の行進』とあった。二人は、その絵が大好きであり、いつもここへ来ると眺めているのであった。アマンドはその行進している獅子たちの先頭を行く、ひときわ大きな獅子の眼を観ることがとても好きだった。観る時々によって、その眼の様子が変わって観えたのだ。

「今日は青い眼が光って見える。」

「そう。光って見えるのね。私は。そうね……今日は……。」

その感想を母と言い合うのは閉館時間まで続いた。

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