本番
「もういい、もういい、大体分かったから。」
ほとんど人と見分けがつかないような外見をした妖精Aが、右手をひらひらと振って遺書をひたすら読み上げる妖精Bを制した。妖精AはOTOGIの社長としてテレビ番組で喋ったり雑誌の取材を受けたりするので、親近感を覚えさせるためにも見た目が大事なのだ。一方妖精Bはただの社長の右腕なので、白い楕円形の立体を積み重ねた簡易的な形をしている。そのなめらかな一番上の立体には目を思わせるような黒い丸が横に2つ並んでいる。
「築山のときと同じですね。」
「バカな連中どもだ。ブログが監視されていないとでも思っているんだな。」
貼り付けたような薄笑いを浮かべて、ソファで座った体勢のまま固まっている立石を見下ろした。「残念だがあんたの告発はどこにも公表されない。」シリコン製の顔の拭いきれない不自然さが、生理的な気持ち悪さを漂わせる。
「しかもこいつ、築山は僕らに殺されたとか言ってますよ。」
Bの黒丸が縦にぺしゃんとつぶれる。笑っているつもりなのだろう。
「あんたと同じようにして死んだんだよ勇斗は。」
語りかけるようにしてそう言いながらAはゆっくりと立石の元へ歩を進め、しゃがんで彼の顔をまじまじと見ると、「ふう」と息を漏らした。そのまま彼の輪郭に手が伸び、触れるか触れないかといった優しさで頬を撫でる。
「本当に綺麗な顔だ、理想の…」
うっとりと彼を見つめ続けるAに、Bは呆れた様子で聞いた。
「どうしますか。公表してしまうと2人目の不慮の事故ですが。」
Aは立石から目をそらさず、しかし少しして口だけが大きくつり上がった。
「実験は1回で十分だ。本番を始める。」
告発 萌香 @moka_0826
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