6章 昼想夜夢

第28話 白馬の王子様

 絵本に出てくる白馬の王子様は、私の永遠の憧れ。


 悪者に囚われたお姫様を助けに来てくれる王子様はいつだってキラキラしていて格好良くて、優しくて、いつか、私にもそんな運命の王子様が迎えに来てくれる。


 「運命の王子様」とか「理想の恋」とか、そんなことに心を躍らせるのは小さい子供だけだとかいって、周りの皆は私を笑うけれど、そんなことないよね?


 恋はいつだって突然で、キラキラしていて、女の子を可愛くしてくれる魔法なんだよ!


 高校生になった春。これから始まる出来事にドキドキと胸を躍らせながら登校した。大丈夫。きっと私の高校生活は、とってもキラキラしたものになるはずだから。


    ◇


 今日のラッキーカラーは赤。制服のスカーフと同じ色。占いの運勢は最高。今日は一日いい日だ!


 村崎むらさきほたる。十六歳。高校一年生になって、少し経ちました。クラスで友達もたくさん出来て、楽しい高校生活を送っています。


「おはよー、蛍」


「おはよ~」


「あ、蛍~! これ、見て!」


 教室で友達が見せて来たのはどこかのファッション誌。イケメンなモデルさんが表紙を飾っている。


「めっちゃかっこよくない⁈」


 友達が目をキラキラと輝かせながら私に雑誌を見せてくる。それに対してなんて答えたらいいかわからなくて「う、うん……」と情けない声で返した。かっこいいとは思うんだけど……。


「あ~、ダメダメ。蛍はそういうのに興味ないって」


「え~⁈ だって、蛍、すぐ恋だのなんだのって言うじゃん!」


「だから、違うんだって。蛍は顔がいいとかそう言うのじゃなくってさぁ」


 友達がプリントの裏になにかをサラサラと描き始める。絵が上手いのだ。


「こういうののほうが、好きでしょ?」


 友達が私に見せて来たのは、絵本に出てくる王子様のイラストだった。思わず「うん!」と元気よく答えると、友達がドッと笑い出す。


「マジで⁈」


「ほらね~? 蛍は夢見る女の子なんだって」


「王子様が迎えに来てくれるのを待ってるんだもんね」


「変?」


「全然! 蛍はずっとそのままでいてくれ~」


「純粋無垢で可愛い妹ポジションでいて~」


「蛍は可愛いねぇ」


 そんなことを言いながら友達が私の頭を撫でてくる。確かに平均身長を下回る私はみんなより小っちゃいけれど、だからって子供扱いしないで欲しい。お姫様みたいな長い髪は好きなのだけど、あんまりにも年相応に見られないものだから、思い切って大人っぽくなろうと高校生になってバッサリ髪を切ったのだけど、あまり効果はなかったみたい。


 別に、王子様みたいな恰好をしている人をかっこいいって思うわけじゃないんだよ。雑誌の人だってイケメンだと思うけど、そうじゃなくてさ。こう、ロマンチックな何かを求めちゃうの。


 それこそ、真実の愛で呪いが解けるとか、王子様のキスでお姫様が目を覚ますような、胸がドキドキしちゃうような恋の魔法。


「蛍の好きなタイプは?」


「王子様みたいな人!」


「だよね~」


「うちの蛍は可愛いねぇ」


 王子様みたいな人が好き。でも、それってどんな人? 私のピンチに駆けつけてくれる人。優しい人。かっこいい人! それって、抽象的過ぎるのかな?


「王子様は悪い怪獣に囚われていたお姫様を救い出し、お姫様と王子様は結ばれて、幸せに暮らしたのでした」


 小さい頃に何度も読んでもらった絵本は、悪い怪獣に攫われたお姫様が王子様に救われるお話だった。怪獣に囚われたお姫様は、妖精にもらった綺麗な石をずっと持っていて、その石の光で導かれた王子様に助けられる。いまでも大好きなお話で、本が擦り切れるまで何度も読んだ。


 小さいながらに、いつか、こんな恋をしてみたいって、そう、思った。

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