5章 如法暗夜
第25話 プラネタリウム
春が終わり、やって来た初夏は涼しかった風を掻き消して、頬を撫でる風がじっとりと肌にまとわりつくような熱風へと変わっていく。
もう少しで夏休みがやって来るが、天体研究部の部室内は特に変わりを見せず、新たに部員になった美玲はすぐに樒と打ち解けていた。ヨナとは少し距離を感じるが……。
「部活動発表会、参加しない?」
放課後、いつものように部室に集まっていた俺たちのもとに、久しぶりにやって来た顧問の森下先生が言った。
「部活動発表会……ですか?」
「うん。玉野君は去年も参加したよね?」
「ええ、まあ……」
「新しい部員が入ってきて嬉しいのはもちろんなんだけど、やっぱりね、一年生が入ってこないと結局廃部になっちゃうからねぇ。特別なことはしなくていいし、掲示板に活動レポート貼ってくれるだけでいいからさ」
「はぁ……」
ということで、部屋の中央に椅子を持ってきて輪になり、天体研究部緊急会議が開かれることとなった。
「活動報告って言っても、私たちたいした活動してないよね?」
一番最初に口を開いたのは樒だ。樒の言う通り、部活動とは名ばかりなこの部活は、放課後に集まってやっていることと言えば談笑会だけなのである。
「なにを報告すればいいの?」
「まあ、去年も、天体観測の事後報告みたいな、てきとーなレポート書いて掲示板に貼ってただけだったな」
「天体観測ね……」
「いま、それすらできないよね」
美玲が言う。あの冬の日の夜から空に星は浮かんでいない。天体観測なんてできたものじゃない。
「星消えちゃったもんね……星が消えた理由でもレポートにする?」
「聖星石が砕けて星が消えましたーって? 誰が信じるの?」
樒と美玲が「う~ん」と頭を悩ませている中、じっと黙ったままだったヨナが不意に口を開いた。
「……廃部は嫌ね」
「え?」
「居心地がいいもの。この場所とあなたたち」
ヨナが少し悲しそうにそう言う。その言葉に他の三人は一瞬ポカンとして、樒が笑い出した。
「別にいますぐ廃部になるわけじゃないよ、ヨナ」
「そうならないために頑張って考えてるの……あ!」
美玲が何か思いついたのか、俺の方を見た。
「夜太郎! ちょっと遠出になるけど、三つ先ぐらいの町にプラネタリウムあったよね?」
「ああ、うん。ある」
「みんなでプラネタリウム行こう!」
「ナイス、美玲。たとえ偽物の星でも課外活動としては十分だね」
「よし。部費で出してもらうか」
「この部活部費とかあったんだ……」
「一応、部活動だからな」
「じゃあ、今週の日曜日、天体研究部課外活動プラネタリウムで!」
樒の声に合わせて美玲が「お~!」と拳を突き上げる。俺も一緒に拳を突き上げると、ヨナだけが少し遅れて「お、お~……?」と慣れない様子で合わせてくれた。その様子がおかしくて、俺たちが笑い出すと、ヨナは「なにか変だった?」と本当に不思議そうに首を傾げていた。
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