第24話 名前を呼んで
ハッとして後ろを見る。さきほどまで殺気立っていたヨナですら、美玲の言葉に首を傾げて不思議そうな表情を浮かべていた。
「なんでっ‼」
美玲の声に驚いてビクリと肩を震わせる。美玲を見ると、美玲は聖星石の欠片を握りしめながらボロボロと大粒の涙を流していた。ギョッとする。
「なんで、名前で呼んでくれないのぉっ……‼」
そう言うと、美玲がその場で泣き崩れた。困惑しながら「え、え?」と声にならない声を漏らし、とりあえず慰めないといけない気がして美玲の顔を見ようとしゃがみ込む。
「やだぁ……‼ やだよぉ……‼ 美玲って呼んでよぉ……‼」
「え、えっと……」
「うぇぇん……‼」
小さい子供のように泣きじゃくる美玲を前に、俺はオロオロとすることしかできない。化け物とか、ヨナとかが怖くて泣いているのはわかるが、なんだか美玲が泣いているのはまた理由が違う気がする。嗚咽を漏らしながら、美玲は震える声で言った。
「……ちっちゃい頃みたいに戻りたい……」
「ちっちゃい頃?」
「夜太郎と一緒にいれたときに戻りたいぃ……」
「つまり、夜太郎と仲良くなりたいってこと?」
いつの間にかに後ろに立っていたヨナが俺と美玲を見下ろしながら言った。影も消え、ヨナは呆れたような表情を浮かべている。俺はただ困惑するしかなかった。
「あなた、聖星石の欠片を持っていれば夜太郎と一緒にいられると思ったの?」
「……」
泣きじゃくっていた美玲がキッとヨナを睨む。欠片を握る手が震えていて、まだヨナを怖がっていることは明確だ。あんな脅しをされたら、誰だって怖くなる。
「あきれた。夜太郎と一緒にいたいなら、天体研究部に入ったら?」
「え……」
「私たち、ほとんど毎日あそこにいるんだし。夜太郎もかまわないでしょう?」
「え? あ、う、うん?」
なんだかよくわからないが、ヨナの目線が肯定以外を許さない気がして頷いた。泣いている幼馴染を前に、いいえ、とも言えないし……?
「じゃあ、それを返して。何度も言うけれど、それはあなたが持っていても意味がない。あなた自身が危険なだけよ」
「……わかった……」
美玲がおずおずと俺に欠片を差し出す。それを受け取りヨナを見ると、ヨナが顎を小さく動かした。「呑め」と言われているらしい。仕方なく欠片を口に運んだ。
「え⁈」
「ああ、大丈夫。そういうものだから……」
驚いている美玲をなだめる。幼馴染が石の欠片を呑み込んだら驚くよな。俺だって吞みたくて呑んでるわけじゃないんだけど……。とにかく、俺の身体は光り輝くのを止めた。
「帰りましょう。送るわ」
ヨナが俺たちに背を向けて歩き出す。ふと、服が引っ張られる感覚がして振り返ると、美玲が俺の服を引っ張っていた。うつむいていて顔が見えない。
「美玲?」
「……わ、忘れて……」
「え?」
小さな声に聞き返す。暗がりの中、夜風に吹かれた髪の隙間から一瞬見えた美玲の耳がほんのり赤く見えたのは気のせいだろうか。
「……さっき言ったこと、全部、忘れて……?」
「え、えっと……」
「つ、次は……ちゃんと……言うから……」
夜が更け、風が冷たくなってきた。温かくなってきたとはいえ、夜はまだ少し冷える。ちゃんと……? と不思議に思いながら、薄着の美玲をずっと外に出しておくわけにはいかないと手を差し伸べた。
「……腰、抜けた」
「え」
まだ少し寒い夜の町を、昨夜と同じで美玲を背負って歩いた。ヨナは俺たちの少し前を先導して歩いてくれて、時折振り返っては俺が歩いて来るのを待っていた。
次の日の放課後、ヨナと一緒に部室に行くと、部屋の中で美玲と樒が待っていた。ヨナと一緒に来た俺を見て、美玲は「部活入った」と言って目を逸らした。
「玉野も隅に置けないなぁ」
樒が不敵な笑みを浮かべながら意味深なことを言って、ヨナは平然と俺の横を通り抜けると、いつもと同じようにソファーに腰掛けたのだった。
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