第19話 変化

 春休みの間、夜の町でヨナと欠片を探し、いくつかの欠片を探し出すことに成功した。そのたびに化け物に襲われるため、俺は短い春休みを十分な休息に使うことも出来ず、毎夜、ぐったりとうなだれていた。ヨナは化け物を薙ぎ払い、澄ました顔をしていたが。


「聖星石の欠片って、いったい何個あるんだ……?」


「わからないわ」


 平然とそんなことを言う。


「ただ、すべてそろえば星が戻る、ということに変わりはないわ」


 星が消えた夜の世界はあまりにも暗く、それを見つめるヨナは星の代わりに光り輝くように美しい。短い春休みはあっという間に終わり、新学期がやって来た。


 俺とヨナは同じクラスのままだったが、樒は別のクラスになってしまった。初日からヨナに声をかけられたことで注目を浴びてしまったが、俺はクラス名簿の中に見つけた見たことがある名前が気になっていた。


 神奈木美玲。小学校の頃までは一緒に学校に行っていて仲が良かった近所の女の子だ。幼馴染、と言えるのだろうが、中学に上がってからは一切関わらなかったのでなんとも言えない。中学生になり、思春期がやって来ると、小さい頃に仲が良かった女の子とは疎遠になってしまうものだ。


 高校が同じことすら知らなかったので、名簿で名前を見つけて驚いた。少し気になって姿を探したが、それらしい姿はない。たしか、美玲はとても大人しくて、地味な女の子だった。よく男の子のいじめられては眼鏡を取られ、そのたびに泣いていたから、俺が代わりに眼鏡を取り返していたのを覚えている。嬉しそうに「ありがとう」と笑う美玲の表情も。


 「大きくなったら結婚しよう」なんて幼稚な約束もした気がする。


「美玲」


 聞こえた名前に思わず振り返った。あれだけ探して見つからなかったのに、どこにいたのだろう、と。


「なに?」


 名前を呼んだのはいわゆるクラスカースト上位のギャルで、それに応えたのも派手な見た目をした女子だった。脱色した金色の髪を高い位置でツインテールにして結び、あからさまに校則違反な派手なメイクに、スカートを膝上まで折った、頭の先から爪先まで一切の隙が無い、俺のような男は絶対に声をかけられないような女子だ。


「この動画、マジで可愛くな~い?」


「興味ないんですけど」


「冷たいこと言うなよ、美玲~。せっかく二年も同じクラスになれたんだぜ~?」


「私は不本意なんだよなー」


「ひっでぇー」


 ゲラゲラと品のない笑い声をあげるギャルたちから咄嗟に目を逸らす。あれが、美玲? あんなに泣き虫で、地味な黒髪をお下げにくくったような眼鏡のおぼこい女の子だった美玲が、この数年であそこまで変わってしまうものなのか⁈ いや、女の子の変化は著しいとは言うけれど……。


 住む世界が変わってしまった。そう、切に思う。年月というのは残酷なものだ。これはもう、馴れ馴れしく「美玲」なんて名前で呼んで、声をかけるわけにはいかない。そんなことをしようものなら、あの派手なギャルたちにどんな視線を浴びせられるかわからない。

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