第13話 破魔矢
その時、どこから飛んで来たのか、ヨナが観覧車の前に降り立った。
「⁈」
思わず立ち止まり、俺が急に止まったせいで樒が「わ⁈」と倒れそうになったのを支える。観覧車の前に降り立ったヨナは、化け物が聖星石を奪おうと迫って来ているのを気にも留めず、落ちている聖星石の欠片を拾い上げていた。
「ヨナ‼」
思わず叫ぶ。ヨナは欠片を拾い上げると、観覧車から降りてこようとしている無数の化け物を見上げた。
「邪魔よ」
ヨナのスカートの中からズルリと影が飛び出す。飛び出した影はあっという間に蜘蛛の化け物たちを切り刻み、化け物の身体がザラザラと闇に消えていった。それを呆然と眺めながら気が付いた。
「一匹こっち来てる⁈」
観覧車から降りて来た化け物のうちの一匹が、ヨナの猛攻をかいくぐり、欠片を持っている俺に向かって迫ってきていた。あいつらは聖星石の欠片を狙っているのだから、俺に向かって来るやつがいてもおかしくない。俺の後ろで樒が呆然としている。
「樒‼ 逃げろ‼」
「え……?」
「あいつらが狙ってるの俺だから‼ だから、逃げろ‼」
「で、でも……」
困惑しているのか、樒は動けずにいる。化け物は猛スピードでこちらに迫って来ていて、他の化け物と対峙しているヨナがこちらを見る様子がない。さっき、化け物を撃退してくれたキーホルダーも行方不明だ。
目の前まで迫って来た化け物が大きな口を開ける。呑み込まれると直感しながら、巻き込まれそうになっている樒を突き飛ばした。突き飛ばされた樒が地面に倒れる。
化け物が狙っているのは聖星石の欠片なのだから、樒は大丈夫だろう。俺は食われるだろうが、まあ、ヨナがどうにかしてくれるはずだ。たぶん。
そんなことを考えた瞬間、目の前で化け物が弾け飛んだ。
「離れていいとは言っていなかったはずよ」
弾け飛んだ化け物の後ろからヨナが現れる。目の前の化け物を切り刻んだ影がヨナのスカートの中にズルズルと戻っていった。
「それとも、死にたかったのかしら」
酷く呆れた表情を浮かべるヨナの手には聖星石の欠片が握られており、観覧車から次々と現れていた化け物は跡形もなく消えている。ヨナが一掃したのだろう。
「……あ……」
ようやく、自分が助けられたのだと理解した。
「ありがとう……」
「あなたが食われると私も困るのよ」
「むっ⁈」
聖星石の欠片を口にねじ込まれ、呑み込む。一切の容赦が感じられない。聖星石の欠片を呑み込んだことで俺の身体は発光を止め、欠片を呑み込ませて満足したのか、ヨナは俺の後ろで尻もちをつき、呆然としていた樒に手を差し出した。
「大丈夫?」
樒がハッと我に返り、恐る恐るヨナの手を取る。ヨナは軽々と片手で樒を立ち上がらせた。
「……な、なにが起こったの……?」
樒の口から飛び出したのは、至極まっとうな疑問だと思う。なんと説明するのだろうと待っていると、ヨナは振り返って俺を見た。
「説明して」
「へ?」
「蝶羽に説明してあげて」
そう言うと、俺たちに背を向けて観覧車へと歩いていく。そんなことだろうとは思っていたけど……。
「ええっと……」
訳が分からず困惑している樒に、聖星石のことや闇の化け物のこと、俺が聖星石の欠片を呑み込んでいることなどを説明した。普通なら信じられないような話だが、化け物に襲われている手前、樒は真剣に話を聞いてくれた。
「……私があの石を拾ったから、襲われたんだ……」
「う、うん……」
「ねえ」
大方説明が終わったあたりで、戻って来たヨナが声をかけて来た。説明している間、なにをしていたのだろう。
「これ、夜太郎の?」
ヨナの手には、なくしたと思っていた矢のキーホルダーが握られていた。
「そ、それどこに……⁈」
「観覧車の下に落ちていたわ。あなた……」
キーホルダーを受け取ろうと手を伸ばすと、ヨナが手を引っ込めてしまった。なぜ?
「星守の神子じゃないでしょうね?」
「え?」
「これは、星守の神子の破魔矢よ」
「破魔矢? それは俺が小っちゃい頃におばあちゃんから貰ったお守りだけど……」
そういえばさっき、このキーホルダーは光り輝いて化け物を撃退した。あれはいったい……?
「……俺、星守の神子とかヨナに聞いて初めて知ったんだけど……」
「それなら、おばあさんが星守の神子なんじゃないかしら」
ヨナからキーホルダーを受け取る。祖母が星守の神子? そんな話聞いたこともない。両親に聞けばわかるだろうか。でも、こんなこと話して信じるのか……?
「送っていくわ。蝶羽」
「え?」
唐突に声をかけられた樒が困惑の声を上げる。ヨナは平然と「家はどこ?」と問いかけた。
「もう遅いし、欠片を持っていないとはいえ、化け物がいる夜を一人で歩くのは嫌でしょう?」
「あ、ありがとう……」
「……俺は?」
欠片を持っていて、化け物に襲われかねない俺はどうしたらいいのだろう。
「勝手についてきなさい。死にたくないならね」
「はい……」
樒の手を引いて歩き出したヨナの背中を慌てて追いかける。いつも通りと言えばいつも通りだが、少し怒っている気がしたのは気のせいだっただろうか。
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