第5話 見てはいけないもの
今日の授業の最後のチャイムが鳴って放課後になった。途端に解放感に溢れて賑やかになる教室。本日のお務めは終了である。
これから部活に行く奴らもいるようだが、帰宅部の俺は直帰である。
授業が終わればすぐに学校という名の収容所からおさらばできる。これが帰宅部の特権だぜ!
「というわけで帰ろう」
鞄を持って立ち上がる俺。誰とも話さずクールに去ろうとすると、廊下に出たところで見知った魔法使いと出くわした。
「やっと出てきたわね! 待ってたわ!」
例の魔法使いの女の子だ。彼女は魔法使いを自称しているが本名は知らない。知らないなら聞いてみろって? HAHAHAそんな事をする理由がどこにあるんだい?
「そんなに待たせたか?」
「だいたい10秒ぐらい?」
「ダッシュで来るなよ。息上がってるぞ」
「うるさあい!」
「じゃあ、俺は帰るから。部活頑張れよ」
「あたしも帰宅部!」
適当に挨拶を交わして通り過ぎようとする俺に、しかし彼女は待ったをかけてきた。
「待ちなさい! そうはいかないわ」
そう言って彼女は俺を引っ張って人気のない場所まで連れてきた。何だって言うんだいったい……。まさか俺はここで彼女にこここ告白でもされるというのだろうか?
待てよ落ち着けよ俺。俺が好きなのはおっぱいの大きな包容力のある優しいお姉さんだろう? こんなお子様に告白されるぐらいでうろたえるんじゃあない……
落ち着いてお姉さんを数えるんだ。
ドギマギする俺を見て彼女はにやりと笑った。そして、唇を開いて言うのだ。
「あたしの魔法見せたでしょ?」
「ああ、見たな」
「肯定したわね?」
「ああ、したな」
「それが良くなかったのよ」
「ええ!?」
何だか流れが不穏だ。俺が帰宅部らしくすぐに帰ればよかったと後悔してももう遅い。
彼女は意味深に言った。
「魔法は人に見せてはいけないものだったの」
「最初からあんなに見せようとしてたのに?」
「あたしもうっかりしてたのよ。というわけであなたには消えてもらうわ」
「ええ!? そんな理不尽な!」
酷い話だと抗議しようとした瞬間、彼女が杖で殴り掛かってきた! 俺は咄嗟に避けて彼女を押し倒し……いや、押し倒してどうするんだよ俺!
人気のない場所で見つめあう俺達。彼女は驚いた顔をして固まっている。そんな彼女に覆いかぶさるように俺も固まる。お互い見つめ合って沈黙が流れること数秒……やがてそこを訪れた者が声をかけてきた。
「その勝負我が預かろう」
「お前はバハムート!」
「まさか本当にバハムートだったの!?」
「違う。吾輩は猫である」
そこでそいつはそれを証明するようにニャーと鳴いた。
「なんだ。ただの猫だったのね」
「俺は魔法を目撃したわけじゃなかったんだな……」
突っ込みたい事はあるがここは黙って従っておこう。今は部活の時間なのだから俺達は帰宅部の活動に励んでおけばいいのだ。
というわけで俺達は帰路に就くことにした。校門を歩いてしばらくして分かれ道で立ち止まる。
「じゃあ、あたしはこっちだから」
「ああ。ところでお前の名前は?」
今更ながらに聞いてみる。別に知りたかったわけじゃない。今日一日付きまとわれたのに知らないのもどうかと思っただけだ。
彼女は唇に指をあてて言った。
「魔法使いは名前を明かさないものよ? あなたは?」
「名乗るほどの者じゃないさ」
「そう」
そうして俺達はそれぞれの道を歩き出す。もう二度と会う事はないだろうなと思いながら。
そして、次の日。
「あ」
「あ」
俺達は朝の学校の廊下で再び出会った。まあ、同じ学校に通ってるんだからこういう事もあるよな。
気まずいと思いながらも無視するのもなんなので軽く声をかける。
「よう、魔法使い」
「やあ、名無しのヒーロー」
そうして俺達は柄にもなく挨拶を交わしあうのだった。
魔法使いが現れた けろよん @keroyon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます