第3話 教室で魔法を
廊下を注意されない程度に急いで歩き、教室に着いた俺はダッシュで自分の席にとびついた。何とか間に合った。
ぼっちの俺に声をかけてくるクラスメイトなどいるはずもなく、何事もなく授業が始まり、そして終わった。
「よし、寝よう」
休み時間にやる事は限られている。寝るかトイレに行くか。トイレに行くことはおすすめできない。その間に自分の席を取られるからだ。
その場合俺は戻る場所を失って途方に暮れてしまう。
「というわけで寝よう」
俺の一日はこうやって過ぎていくのだ。こんな毎日でいいのだろうか……最近、ふとそう思うことがあるが、それは俺が青春に目覚めたからじゃない。そう『ぼっちだから』だ!
さて、おやすみと瞼を閉じようとしたその時である。目の前に誰かが立つのが分かった。そして、頭を叩かれた。
「目覚めなさい。目覚めるのです!」
「いてえ!」
顔を上げるとそこには例の魔法使いの女の子が立っていた。俺と目が合うとにっこりとほほ笑んだ。
「魔法の続きを見せてあげる約束でしたよね?」
「お前、今その杖で叩いただろ!」
「魔法よ」
「嘘つけ!」
「魔法(物理)よ」
「今物理って付けたか?」
「何の事だか」
俺は頭を摩りながら言ってやると彼女は呆れたように首を振る。そしてこう言ったのだ。
「何の魔法を見せて欲しい? ファイアボールはもう駄目よ。テレポートももう使ったから駄目」
「そうだな……」
彼女はどうしても俺に魔法を見せたいようだ。ならば俺も付き合おうじゃないか。どうせ他にやる事もないんだし。
俺はクラスメイトで賑わう教室を見て考える。そうだ、あれにしよう。
「だったら俺に友達を作ってくれよ。いや、いっそのこと彼女を作ってくれよ」
「そなたの願いを叶えよう」
「え? 叶えてくれるの? マジで?」
「マジです。魔法は人を幸せにする為にあるのですから」
彼女はそう言うと杖を掲げて集中を始めた。なんて頼りになる奴なんだ! 俺は魔法使いを誤解していたのかもしれない。
彼女は本当に素晴らしい魔法使いだったのだ。
「ありがとう、魔法使いちゃん!」
待つこと数分、唸っていた彼女が杖を下した。これで俺に彼女ができたのだろうか? 気になった事をさっそく聞いてみる。
「どう? 俺に彼女できそう?」
「無理でした……」
「そうか……」
まあ、そうなる事は分かっていたさ。少し落胆はしてしまうが。
「友達の方もやってみたのですが……」
「ん?」
「神の力を超える魔法はあたしの魔法レベルではちょっと」
「俺の願いそこまで!?」
俺は驚いた。どうやら俺は自分が思っている以上に高等な魔法を彼女にお願いしていたようだ。
彼女は苦渋の顔で悔しそうに言った。
「こうなったら禁忌の魔法を調べてあなたに友達を」
「そこまでしなくていいって!」
物騒な友達を呼ばれても困ってしまう。彼女は魔法を成功できなかった事に本気で落胆しているようで。
肩を落としてしょんぼりとして言った。
「今日はお詫びにパンを買ってきますので、それでまた次の機会に」
「あ……ああ」
もう一度別の魔法を使うような残り時間はない。時計の針は容赦なく休み時間の終わりに向かって迫っている。
彼女は教室を出ていく。短い休み時間では追いかける事も出来ず、俺はその後ろ姿を見送ることしかできなかった。
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