第2話 校門前で会話
それから数十分後。走る俺の視界に見慣れた校門が見えてきた。
どうやら急ぎすぎたようだ。時間まで余裕があったのでここからは歩いていこう。
そう思って近づいていくと校門前で見慣れた奴が待っていた。
「待っていましたよ、君」
「お前はさっきの魔法使い! 中学校はあっちだぞ」
「同じ高校生!」
「そんな設定もあったなあ」
俺はぼんやりと学校の傍に立つ山を見つめる。あそこを通って直進ルートで近道してきたんだろうか。
運動能力が並しかない俺には無理だが、猿のように身軽な運動能力があればあの山を突っ切って先回りするのも可能かもしれない。
考えていると女の子がフフンと笑って話しかけてきた。
「あたしがどうやって先回りしたのか気になるようね」
「あの山を通ってきたんだろ?」
「魔法でテレポートしたのよ!」
「あの山を通ってきたんだろ?」
「あたしは魔法使いだからね」
「体力があって羨ましいね。俺には真似できないよ」
「魔法だって言ってんでしょ!」
女の子は顔を真っ赤にして怒りで地団駄を踏んだ。
「ああ、分かったって」
俺は肩を竦めて言う。本当に朝からうるさい奴だぜ。学校まで来てよく元気でいられるものだ。
これから始まるのは夕方まで続く授業という名の牢獄だぜ。意気消沈してトボトボと校門をくぐるのが普通じゃないか? 楽しいって信じられない奴らもいるようだが。
彼女はまだ何かやるつもりなんだろうか……まあいいさ、付き合ってやろうじゃないか。まだ予鈴まで時間あるし。
俺は女の子に話しかけた。
「じゃあ、ファイアボール見せてくれよ。魔法使いなら初級の魔法だろ?」
「え、ええ。いいわ、見せてあげる」
女の子は戸惑いつつも杖を構え、魔力を集中させ始めた。おお、これは! もしかしてもしかするのか?
俺は期待に胸を膨らませながらファイアボールが現れるのを待った。次の瞬間――
『ウ~ウ~ウ~!!』
けたたましいサイレン音を鳴らしながら赤い消防車が校門前を通り過ぎていった。
「……」
「……」
俺達は唖然としながら息をのむ。女の子は詠唱を止めて消防車が去った方向を振り返り、俺は震える指先をそいつに向けた。
「お前、まさか……」
「ち、違うわよ? まだ詠唱に慣れていなくて……どこか間違ったかなあ」
「うわ、まじか。こいつ、やりやがった……」
「ち、違う! あたしじゃなああい! 無実だあああ!」
その時、予鈴が鳴った。俺たちはこんなことしてる場合じゃなかったのを思い出す。
「とにかく! 次にやるときはバケツに水を汲んで用意するんだぞ!」
「う、うん! そうよね、分かった!」
そして、俺達は慌てて校舎へと走り、下駄箱へ駆け込み、廊下を進んでそれぞれの教室へ向かう。
「これで終わったと思わないで! すぐに続きを見せてあげるからね!」
女の子が後ろで叫んでいるのが聞こえたが、今は聞こえない事にした。
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