魔法使いが現れた

けろよん

第1話 朝の出会い

 俺はどこにでもいる平凡な高校生。

 今日も朝から学校行くのだるいなと思いながら道を歩いていた。


「くそ、学校遠いな。こんな時にどこでもドアがあって一瞬にして学校に着ければいいのに」


 そう思った時、俺の背後から声が聞こえた。振り返るとそこには一人の美少女が立っているではないか!


「今、あなた魔法を求めましたね!」

「誰だ!?」


 失礼、美少女かと思ったがただの可愛い女の子だった。背丈は低くこの暑いのになぜか魔法使いの恰好をして手には杖を持っている。

 ハロウィンでもないのにそんな季節外れの仮装少女がぐいぐい迫ってきたらただの怪しい人にしか思えない。


「ねえ、今魔法求めましたよね?」


 俺が理解していないと思ったのかもう一度言ってぐいぐいと迫ってくる彼女。走って逃げる元気もなくだるかったので俺は根負けして話に付き合ってやる事にした。


「違うよ。魔法じゃなくてどこでもドアが欲しいと思ったんだ」

「もう~、そんなのテレポートできればどっちでも同じでしょ」

「ちげーよ。魔法とどこでもドアはちげーよ」


 俺も暑さで気が立っていたんだろう。ついどうでもいい事で張り合ってしまった。

 俺の話を聞くと女の子は顔を赤くして怒りだした。


「もううううううう! いいじゃない!  魔法でいいじゃない! それにどこでもドアって何よ! そんなのこの世にあるわけないじゃない!」

「言ったな。ドラ何とかさんに謝れ。それを言ったら魔法だって……」


 言いかけて俺は気が付いた。それにしてもこの女の子の恰好……まるで本物の魔法使いのような。まさか!


「お前、本当に魔法使いなのか!?」

「そうよ。やっと気が付いたようね。どこにでもいる平凡な女子高校生とは仮の姿。あたしの正体は」

「え? 高校生? 小学生じゃなくて?」

「高校生! 同じ学校の制服着てるでしょ!」

「ああ、確かに」


 背丈が小さくて言動も幼いから子供かと思ったよ。だったら話に付き合ってやる義理もなかったかもと思っても後の祭り。

 すでに関わってしまった俺はまじまじと見る。

 確かに彼女が魔法使いのマントの下に着ているのは俺と同じ学校の制服だった。信じられん。こんな奴と偏差値同じなのか、俺。

 まあ、俺だって成績は並ではあるんだが。よう、ノーマル仲間。彼女はそこでコホンと咳払いをして気を取り直すようにしてから続けた。


「あたしは世界に数人しかいないレアな魔法使いなのよ!」

「世界に数人? どこ調べなんだそれ?」

「あたしが数人しか見たことがないから数人なのよ!」

「それは町に数人というのでは」


 まあ、いつまでも無駄話をしていてもしょうがない。

 確かに彼女の恰好は魔法使いっぽいが普通の女の子にしか見えない。とても凄い魔法が使えるような奴には見えないのだ。

 そんな俺の心の中を読んだのか彼女の表情は不満からどんどん怒りに変わっていき、遂には叫んだ。


「む~、どうやらあたしが魔法使いだっていうのを疑っているようね」

「いや~、疑うとかそういうレベルの話では。今日は暑いからね」

「暑さのせいみたいに言うな! そこまで疑うなら見せてあげる! 今からあたしの凄い魔法を見せてやるんだから!」


 そう言って彼女は俺の目の前で右手の人差し指をピンと立てた。そしてそのまま前に突き出すとこう言ったのだ。


「さあ、この指に注目するのです!」

「敬語?」


 まあ、気分を出したかったのだろう。それぐらいは理解してやって俺は言われた通り、彼女の指を見た。

 白く細い指には何もついてはいないように見えた。しかし彼女は得意そうな顔でこう言ったのだ。


「今、あたしの指の先には何もありませんよね?」

「まあ、確かに」

「しかし、次の瞬間、指を回すとそこには大好物のキャンディが現れるのです!」

「おお、手品か」


 彼女の言う通り現れたので俺は拍手を送ってやる。取り柄があるってのはいい事だ。俺には無いからな。

 褒めてやったというのになぜか彼女は飴玉を握りつぶして怒った。


「手品じゃありません! 魔法よ!」

「おお、本当だ! 魔法だ! 君は凄い魔法使いになれるよ。それじゃ」


 そろそろ時間がやばくなってきた。学校へ行くのは面倒だが俺は別に遅刻したいわけではないのだ。

 さっさと踵を返して走り出す。


「待って! 魔法で行かないの!?」


 俺の背後で彼女は憤慨した様子で叫んでいたが……もう話には十分付き合ってやっただろう?

 俺はもう振り返らず学校へ向けて走って行くのだった。

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