第三幕 殺人鬼の証明 ①
奇妙な光景だった。
校舎二階の男子トイレ前廊下に多数の生徒が詰め寄せている。
事情を知らない野次馬も集まり更に数を多くしていた。数週間前閑古鳥が鳴いていた校舎内とは思えない光景だ。
だが
目の前には青色生徒会会長
勝ち誇ったような笑みを浮かべて——
「会長、お待たせして申し訳ありません!」
屈強な青色の男が群衆を掻き分けて歩いてくる。
頬に青あざを作り、額が切れて血を流しているが彼の腕は鍋島村雲を後ろ手に拘束していた。更にその後ろの男に
——やはり駄目だったか。
紗綺は唇を噛み締める。
青色生徒会への抵抗は潰えた。
最大限の抵抗を試みたが《
舞鳳鷺の後ろには青色の外套を纏った面々が控えていた。そして紗綺の背後にも、紗綺の両手を拘束する形で青色がいる。
それでも紗綺が舞鳳鷺を睨む視線に一切の怯みはない。
竜巻はまだ舌を回して罵声や悪態を吐いていたが、青色の手からは逃れられない様子だった。
「赤色の残党、拘束完了しました。これで全員です」
「ご苦労様」
舞鳳鷺が鷹揚に言って青色たちを振り仰いだ。
「では——袋小路に飛び込んだ《鼠》を捕えましょうか」
「はっ」
「くれぐれも用心怠らないように。追い詰められた鼠は猫をも噛みますからね」
頷いて青色たちがトイレの前に集まった。
なかの状況は分からない。だが逃げ込んだ
「くぉらああっ! 何をしとるか、お前らああっ!」
突如、校舎を震わさんばかりの怒号が響き渡った。
途端に生徒の間に明らかな動揺のさざ波が生じた。
この学園でも指折りの戦闘教官の彼は、一般生徒のみならず青色の生徒たちさえ震え上がらせることができる。彼の指導教育を受けなかった者はほぼ皆無と言っていい。いくら《
鬼頭のただでさえ赤銅色の顔が血管が浮かび上がるほど紅潮している。それこそ鬼の形相だ。ミミズクの羽角のような髪まで逆立っているかのようだった。
他の生徒には目もをくれず一直線に舞鳳鷺に直進している。
慌てて舞鳳鷺の取り巻きのひとりが進み出た。
「き、鬼頭先生、これは青色生徒会の正式な権限……」
「やかましい、引っ込んでろ!」
「い、いや我々は……」
「ぁあっ? 聞こえんかったか?」
ぎろりと両目が少年を捉えた。
少年が外套以上に真っ青な顔をして黙る。
他の生徒たちも助け舟も出せずにたじろいでいた。
「これはこれは……朝からご健勝で何よりですわ、鬼頭教官?」
しかし、そんななかで舞鳳鷺だけが変わらず悠然とした態度で進み出た。
彼の指導教育を受けなかった者はほとんど皆無——
そう、彼女はその《例外》だ。
尤も——
彼女の場合はそんなことも関係なしに、こんな態度を取れるのかもしれない。普通の神経ではできないことだ。
「それで、何か御用かしら?」
「生徒を勝手に連行するなど許さん。いますぐ解散しろ」
「おやおやおや。我々には殺人バット捜査に関する全面的な権限が付与されていることをご存じない?」
「
「ずいぶん目の
青色をはじめ赤色たちも固唾を呑んで見守るなか、舞鳳鷺は悠々と唇を歪めたまま首を振る。「でしたらどうなさるおつもりで? 力ずくでも止める——とでも仰るつもりかしら?」
舞鳳鷺が取り巻きに目配せをする。
生徒たちから青い炎が立ち上がった。
気後れはあっても舞鳳鷺の指示があれば戦う気だ。
そしてそうなれば——いかに屈強な鬼頭といえど勝ち目はない。
それと承知しつつ鬼頭はなお舞鳳鷺を見据えたまま怯まなかった。
「やってみろ。使徒の名を出せば誰でも
「き、鬼頭君!」
そのとき廊下の向こうから裏返った声とともに学園長の
太った体を揺らし、額に玉の汗を浮かべている。
既に事態は聞いているのだろう。青ざめた顔で鬼頭のほうへ走り寄った。
「学園長。こいつらを好きにさせてよいのか」
「落ち着いてくれ。あくまで取り調べ、一時的な拘束だよ」
「そんな口実、我々の目を離れてしまえば……」
「頼むよ鬼頭君、ここはおとなしく聞いてくれ。な?」
雑喉は鬼頭の肩を掴んで何とか抑えようとした。
鬼頭の唇が噛み締められる。
舞鳳鷺は顎を上げ、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「……満足か、天代弥栄美恵神楽」
紗綺はおもむろに口を開いた。
舞鳳鷺の目がこっちを向いた。
「いま、何と?」
「聞こえなかったか? 学園を搔き乱し、
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