chapter7 シナリオ「反逆の騎士団」
パキンと折れたのは――騎士団の剣。勇者様が創った【聖剣】だった。
▶聖剣の耐久度が、限界値を越えました。
「は?
「当たり前でしょう。貴方達に渡したのは、姫の下位互換です。量産型武器が、レアリティークラフトと、どうしてタメを張れると思ったのですか」
そうアオイ様は背を向け、作業を続ける。馬車の改造を続ける。角ばった車体は、丸まったフォルムへ。見たこともない部品が組み合わさって、それが心臓部へ――。
「魔法だ! 魔法を撃て! 聖剣の機能をフル活用しろっ!」
刀身が真っ赤に熱を宿す。聖剣は、個人の魔法特性を反映するという。魔法適性は並以下という評価でも、貴族出身の騎士は、もともと魔力値が高い。聖剣は、魔法特性を底上げするという性能。それ聖剣があってこそ、死霊王を3ヶ月で、討伐という成果をもたらした。
資料を読み漁った今も、到底信じ難い。
騎士がこうも容易に
厩舎の壁を抉り、炎上する。
「狙え、狙え! 撃て! 撃て! 撃――」
「アイリス、魔力を放出して」
騎士団長の声を掻き消す、澄んだアオイ様の声が私の鼓膜に響いた。でも、私に魔力を放出することは――
▶魔力の循環を確認しました。
かちゃりと、鍔が鳴る。白百合の刻印が、煌めいた。
明らかに、魔力の反応だ。
知らなかった。
私の魔力って、こんな色だったんだ。
息を呑む。
真っ白で。
他に混じるのを許さない。
アオイ様から、拝受したこの白百合の剣は、あの聖剣すら切り捨てた。迷うことなんか、何もない。
――放出できない魔力。さぞかし、濁って醜いだろう。
父王の言葉が、今でも耳の奥底にこびりついている。
貴族出身の騎士達も大抵、似たようなことを言う。
そして、婚約者は何も言わない。
「アイリス姫の魔力は、やっぱり綺麗だね」
あぁ、このタイミングで、貴方はそんなことを言うの、本当にズルい。
(だったら――)
私は、剣を振る。
剣先から、青白い光を迸らせて。聖剣が作り出した魔力という魔力を、奪い去っていく。
「は――?」
騎士団長が、目をパチクリさせた。
私だって、驚きすぎて声が出ない。
▶
「囲め、囲め! アイリス姫を取り囲――」
「残念でしたね、私達もいます」
「私に剣を向けるということは、魔法国家リエルラへのメッセージと受け取りますよ」
「姫様には、指一本触れさせませんからっ!」
小太刀をもつ、サザンカ。錫杖のローズはさておき、鍬をもつラベンダーは無理がありすぎる。
「コーディング」
そうアオイ様が呟いた。
▶それぞれの
情報量が多すぎて、理解が追いつかない。
と、ラベンダーが鍬を振り上げるところだった。
「ラベンダー、無理しないで!」
慌てて、彼女の元に駆けようにも間に合わない。
甲冑をその身に包んだ騎士が、鍬の一撃で動じるはずがない。受け止めた隙に、その大剣で切り捨てようとするのが、見え見えで――。
「……へ?」
ぺろん。
鍬が、見事に鎧を剥いて。
醜い男の逸物まで丸見えになる。
「きゃーっ!」
どうして男の方が悲鳴をあげるのか。耐えきれない私は、この軟弱騎士の兜越し、蹴りを決めてしまう。きっと脳震蕩を起こしていそうだが、知ったことじゃない。
見れば、アオイ様が、魔法薬の瓶を取り出していた。
▶マスターの魔力が間もなく底をつきます。
「韋駄天」
私は呟く。騎士団で習得する技能の一つ。無駄の無い動作で、最速で距離を詰める。魔力を上乗せすることで、相乗効果でさらに加速する。私は、魔力を使えなかったから、あくまで足運びだけで、騎士団の面子と稽古をしてきたワケだが――。
「へ?」
アオイ様が目を白黒させてくれるのが嬉しい。何度目だろう、アオイ様の唇を私が奪う。
私の白い魔力が、彼の唇をなぞる。
染みこんでいく。
肌、皮膚、感触。
五感の全てを通して。
光が、アオイ様を抱きしめた。
「あ、アイリス姫! こ、この非常時に、な、何を――」
アオイ様は、顔を真っ赤にして狼狽してばかりで。クスリと思わず、笑みが漏れてしまう。アオイ様、正直、可愛いです。思わず、本音が漏れかけて自制する。
「魔法薬に浮気しようとするからです。そんなに私より、魔法薬が良いんですか?」
「ちが、違う! それはアイリス姫が――」
「なら良いですよね?」
ニッコリ笑って、もう一度、アオイ様の唇を奪う。あんまり呑気にしていると、ローズにまた怒られそうだ。方向転換をして、騎士団の方へ――。
かちゃかちゃ、甲冑が打ち鳴らす音がした。
(……援軍?!)
この狭い、厩舎のなかを甲冑の騎士がなだれ込んでくる。
ぐっ、と白百合の剣を握り直す。少し振っただけで、魔力が百合の花を描く。
▶残り時間、0:53
無心に、アオイ様が馬車に、力を注ぎ続けていた。
こうしている今も、文字の羅列が、馬車の形を変え続ける。
私は剣を構えた。
旦那様が望むのなら、私は剣を振るう。
しゅっ。
剣が空気を切り裂く。
それが、私のアオイ様に捧げられる、ただ一つの正解だ――。
■■■
「姫、助太刀しますぞ!」
「おぅっ!」
聞き覚えのある声に、私は目を大きく見開く。
騎士達が、まるで私の壁に――盾になろうと言わんばかり、立ち塞がる。
「貴様ら、何のつもりだっ」
団長が吠えるが、彼らは鼻で笑う。
「何のつもりも何も。我ら、平騎士隊は姫に忠誠を誓うのみ!」
あ――。どう言ったら良いのか。
まるで、言葉にならない。
彼らは、平民出身の騎士。俗に平騎士と言われるもの達だった。任務で、共にするのは、いつも彼らで。
油断すると、視界が滲みそうで。
慌てて、ドレスの袖で目尻を拭う。
「団長、あなたこそ第一王女様に剣を向けるとは、正気か?」
「これは王命である!」
「それなら、指示書を示されよ」
「ぐっ――」
出せるはずがなかった。騎士団の動きがあまりにも早すぎた。文官の採択を得るには、あまりに行動が迅速だった。あくまで騎士団の――団長の独断であることは間違いない。
「貴様ら、私の指示に逆らうというのか。抗命罪に――」
「一般市民に、抗命罪が適用するとは思わなかったぜ」
「は?」
団長も、私も目を丸くする。
「先程、文官に退団願いを申請し、受理された。俺達は、姫様への謁見を希望しただけの、一般市民だぜ」
「お前ら――」
ぐぬぬと、団長が歯軋りをする。彼らの言うことはあまりに詭弁だが、この状況下では騎士団に対して、何よりの武器となるのは間違いない。
「姫さんの所で、騎士として雇ってくれよな」
ニッと、一人が笑む――その瞬間だった。
まるで、大規模魔法が炸裂するような、音を弾けさせて。
鉄の馬車が、うなり声を上げたのだった。
▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥ ▧ ▦ ▤ ▥
▶シナリオ「騎士団の反逆」の達成条件
▶白百合の剣を、アイリス姫の贈与。
▶バトル中、アイリス姫が「韋駄天」を使用
▶弱虫ラベンダーが、騎士に立ち向かう
▶バトル中、2回のキス
▶騎士の逸物に「小さいのね」と言わない
▶マスターが戦闘に参加せず、軍用SRVの開発に五分間注力。
(すでに事前コーディング済みが条件です)
▶軍用SRVを起動。
▶上記、全条件が該当した場合、シナリオが達成となります。
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