学校2


 二学期が始まってから一週間が経過した。

 相変わらず二匹のハムスター達の周りには人が集まってくる。特にスタ吉は、お尻に星の模様があるのが珍しいということで、休み時間に他のクラスの生徒が見に来るほど人気を博していた。


 ただ、陽太はなるべくハムスターには近づかないようにしていた。触れることまで禁止されていたわけではないが、万が一にでもハムスターの毛でもつけて帰ってしまったら、母の信頼を失うことになるからである。


 そんな中、陽太が日直を担当する日がやってきた。


 ――さすがに日直の仕事をサボるわけにはいかないよね。


 陽太は心の中で自分に言い訳しながらも、内心はこのときをとても楽しみにしていた。ハムスターに近づく免罪符をもらったようなものだからだ。

 ケージは一週間に一回の頻度で清掃することになっていたが、今日は該当日ではなかった。そのため、陽太がおこなうのは、放課後にエサと水を補充するという簡単な作業だけである。

 とはいえ、動物と接したことのない陽太にとってはドキドキの初体験であることに違いはない。授業中も、そのことばかり考えて上の空になっていたのだろう。国語の時間に先生に教科書を音読するように言われたが、どこを読めばいいのかわからずに恥をかいてしまった。


 長い授業が終わり、待ちかねた放課後になると、陽太は早速ハムスター達の元へと向かう。そこには数人の女子がいたが「どいてどいて。ハムスターの世話は日直の仕事なんだから、関係ない人は邪魔だからどっか行って」と言って、彼女達を追いやった。

 ひとりになったところで、ケージの中をのぞき込んでみる。ハム夫は隅のほうでおがくずをくっつけながら眠っているようだったが、スタ吉は元気に回し車の上を走っていた。二匹をクラスで飼い始めてから一週間しか経っていないが、ハム夫のほうはおとなしく、いつも端っこで丸まっているという印象だった。

 家でハムスターを飼っているクラスメイトによると、彼らは基本的には夜行性なので日中に活発に行動することは少ないらしい。つまりはハム夫のほうが一般的で、スタ吉のほうが珍しいということになる。ただ、小学生にとっては、なにもしない子よりも、動いている子を見ているほうが楽しいのは間違いなかった。そういった点も、ハム夫よりスタ吉のほうが人気が高い理由なのだろう。


 陽太も当然のことながらスタ吉のほうばかり見ていた。星形の模様があるお尻を揺らしながら一心に走り続ける姿は、どうしたって目を奪われてしまう。

 だが見ているだけでは仕事にならない。陽太は、ケージの横にくっついている給水ボトルと、からっぽになっているエサ箱を取り外すと、中身をたっぷりと補充した。

 すると、スタ吉は走るのをやめ、補充したばかりの水を飲み始めたではないか。ちろちろと舌を動かし、管の中の金属製のボールを器用に押し上げてボトルの中の水を飲むスタ吉を見て、陽太は得も言われぬほどの満足感を覚えていた。


 母に感づかれてしまうかもしれないから触れないでおこうと思っていたが、自然とケージの中へと手が伸びてしまう。そして、スタ吉の頭を人差し指でおそるおそるなでていた。

 水を飲んでいるのを中断させてしまったので嫌がられるかと思ったが、スタ吉はすんなりと陽太の愛撫を受け入れてくれた。笑っているかのように目を細めて気持ちよさそうにしている姿は、むしろなでられるのを待っているかのようにも感じられた。

 ふわふわな触感を指先で楽しみながら、陽太はスタ吉の可愛らしさを堪能するのだった。

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