第2話 強引で、僕の心が読める一人の女の子

 夢を見ている。

深く底の見えない海の中に沈んでいく夢だ。

 自分という人格が海の奥深くへと沈んで蓋をされる感覚。

 光が差し込んでいた海面から離れ、光が届かない暗闇の場所へと

   深く深くずっと沈んでいく。

 手を伸ばす

忘たくない…忘たくない…忘れたくない‼︎

気持ちが強くなっていくのがわかる。

 彼女に出会ったから?また話そうって言われたから?

理由はわからない。ただ僕は深く沈んでいく中で手を伸ばし些細な抵抗をする。

  しかし、手を伸ばしても意味が無かった。気がつけば僕は手を下ろしていた。



そんな時だった。

 「ねぇ!何で沈んでるの?」

声が聞こえた。

 明るくて、キラキラした彼女の声だ。

 真っ暗な空間に薄らと光が差し込む。

「……」

声が上手く発せない…伝えたいのに、伝えられない想いが胸の中でチクチクと刺さり

何とも言えない感覚が全身を襲った。

 「手を伸ばして!」

彼女の声だ。

きっとこれも嘘だ、僕なんかの人間に手を差し伸べる人間なんていない。

「早く!手を!」

 彼女の顔は見えなかったでも、、、

声はとても真っ直ぐだった。

 僕は、彼女の声に感化され手を伸ばした

すると彼女は笑った気がした。

     

 突如あたりに光が差し込む。

奥へ奥へと光は進んで周囲を照らす。

やがて光は強くなり…………




「心‼︎」

気がつけばベットから体を起こしていた。

 「変な夢だった。」

そう、変な夢だった。

「…」

机に置かれた日記帳を手に取る。

 そこには、昨日の僕が書いた出来事?が綴られていた。


「 加藤 心という女性に出会った。昔一緒に遊んだ事があると言ったが、僕は覚えていない。ただ、また明日も話そうと言われた。

だから明日の僕へどうか忘ないでほしい。今日起きた出来事は忘れてはならないと直感が騒いでいる。 」

 



「加藤 心…」

 昔どこかであったような気がした。



 ふと気になった僕は、ペラペラと前のページをめくり過去に起きた出来事と、今日の出来事が消えてしまう事を理解した。

しかし、学校の行き方、学校での授業の受け方など、過去の僕が今日の僕へ紡いできたものが日記に全て綴られていた。


 一番最初のページには、



  

  1日を色濃く楽しく過ごそうぜ‼︎


と書かれていた。

1日で消えてしまうでも、卑屈になってはいけないと気持ちが前向きになった気がした。


 日記を見ていると、この病気の正体が書かれていた。

  『無記憶症候群』

 この病気にかかった人は、記憶が消えてしまうというもの。

1年で記憶が消えたりする者や、早くて1週間など人によって消える日数が違うらしい。

 そして僕の1日は最も重いと言われている。


治療が出来ない病気で、薬もなく、更には発症する条件までもが分からないという未知の病気だ。

 しかし、全ての記憶が消えてしまうという訳ではなく、自分の名前や、親、家、脳裏にこびりついた強い記憶は残ると書いてある。


「一生このままって事か…」

  パタン

 僕は全てを察し日記帳を閉じ学校へと行く支度をし始めた。




幸い日記に書いてあった為迷子にならず学校へ到着することができた。

 学校へ到着した僕は、日記書かれていた通りにメモを取り過ごしていた。


学校も終わり帰る時に

「和希!一緒に帰ろ?」

一瞬戸惑ったが、この人が加藤 心だなと確信した。

「いいよ。」

「ほら、早く早く!」

「あっ、ちょっ」

 僕の手を強引に繋ぎ歩き始めた。

この人強引だな!?

こんなの書いてなかったぞ?

  一応書いておこう…



二人並んで歩いて帰っていた。

「明日から夏休みだね。」

「そうなのか?」

「あれ…話聞いてないの?不真面目だなぁー」

「し、仕方ないだろ、話まで聞く暇がないんだから。」

「そっか。そうだよね」


明日から夏休みとは、全く話を聞いてなかった。

 夏休みって事は、学校もない1日を過ごすのか。

明日の僕は何を思い、何をするのだろうか…

 気になる自分がいた。今日の僕は学校がある。だが、明日の僕は何も無い日を過ごすことになる。

 それでは、1日を色濃く楽しく過ごせなくなってしまうのではないかと…

ふと心配になった。

 

「あ、あのさ心…夏休みって用事とかないのか?」

 気がつけば勝手に口が開いていた。

「うん。ないかなぁ〜友達とかにも誘われてないね」

 彼女は嬉し顔をしていたような気がする…


僕は息を大きく吸い覚悟を決める。

「じ、じゃあさ…明日も明後日も会ったりして、遊んだりして、ぼ、僕と一緒に…夏休みを過ごしませんか…」

  顔が熱くなって彼女の顔を直視できない状態だ…こんな告白同然な誘い…緊張しない方が難しい。

フフッと彼女は笑った。

「いいよ。私も“最後”の夏は和希と過ごしたいって思ってたし。それに好きだから。」

「えぇ?」

 

今好きって言った?僕の事が好き?

いやいや何を変に妄想してるんだ僕は…これはそのーあれだ!

友達として好きって事なのだろうきっと…

うん絶対にそう!てかそれしか考えられない


「そ、そっかなら良かった…」

僕は平静を偽り自分の気持ちを誤魔化した。

「さっきから顔赤いけど、何か変な妄想でもした?」

「!?いやいや…ないないない。そんなの一ミリも…」

「その割には慌ててるけど?」

どうやら彼女には、僕の考えていることが読めるらしい…厄介だ。



家へと帰り…日記を書いていた。

日記を書き終わり、ベットに横たわり…

 少し強引で、僕の心が読める一人の女の子をずっと覚えて行けたら良いなと心の中で、そっと囁き、今日という日にお別れをした。

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消えゆく僕は君を必ず見つけ出す ruy_sino @ruy_sino

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