消えゆく僕は君を必ず見つけ出す

ruy_sino

第1話 記憶のない少年

中井和希(なかい かずき)16歳 高校1年生だ

 僕はある病気を発症している。

   1日で記憶が全て消える

そのまんまの意味だ、昨日話した内容も、友人の顔、名前。それら全てが明日になれば綺麗さっぱり消える。

 まぁこんな事を言った所で、皆は信じないだろう。


 僕にとって1日は、ただの1日じゃない

明日への自分へ少しでも紡ぐための1日だ

 きっと他の人なら、友達と馬鹿やって、笑ったりして何気ない日常を過ごすのだろう。

 だが、僕は1日1日に全神経を捧げ、過ごしている。


そんな事だから勉強は出来ないし友人関係もボロボロだ。クラスでは、常に1人で過ごしている。

   いわば隠キャという奴だ。

 クラスメイトや先生に自分の病気を話した事はない、言ったところで信じてもらえないからだ。

 

僕がきっと今ここで話した内容も明日になれば綺麗さっぱり消える。


 キーンコーン カーンコーン

3限目の授業の開始を告げるチャイムが鳴る

 授業中の僕は、メモを取ることに全力を注ぐ。

感じた事、分かった事それら全てを事細かくノートに書いていく。

全ては自分の為にやっているが、皮肉な事に

メモをとって綺麗にまとめているためノート点は高く評価してもらっている。

 そのため、成績は赤点とは言わないギリギリのラインを保っている。


「この方程式は…」

先生が説明するが、基本話は聞かない。

 ノートを書く事で手一杯でそこまで手が回らないからだ。だから話は聞かずにノートを書くことに集中する。


これを毎日、毎時間繰り返す。

普通の人なら途中で嫌になる作業だと思う。

 でも、僕からしたらこうして毎日繰り返し出来ることに感謝している。

 



そうして過ごしていくと帰りの時間へとなっていた。

SHも全て終わり帰りの支度をすまし、帰ろうとした時だった。


 「中井君ってこのクラス?」

扉の前で一人の少女が声を出した。

「中井はこのクラスだけど何か用なのか?」

「ちょっと話してみたくて」

その瞬間男女共クラスメイトがにざわざわと騒ぎ出した。

「何であんな奴が?学年1モテる人と?」

「加藤さんと話できるとか羨ましいぃぃぃ」

「落ち着けお前…」

「何彼氏?」

「あんな根暗彼氏とか…見る目ないね。」


全てこちらに聞こえる声で話してくる…

「中井君ちょっと来て」

手招きする彼女を見た僕は席を立ち彼女の方へと歩き出した。


「急に何の用ですか?」

「そんな固くならなくていいよ!同い年だし君と少し話がしたくてさ!

でもここで話すにはちょっと騒がしいね。」

 彼女にそう言われ少し肩の力を抜き周囲を見る。

 クラスメイトがこちらの方をじっと見つめていた。

少しため息を吐き

「確かにそうですね。」

「今帰る所だった?」

「まぁ」

「だったらさ、カバン持ってついてきて欲しいだけど…大丈夫そう?」

「いいですけど、僕なんかといたら変な噂つきますよ。」

「そんなの無視すれば良いから大丈夫!じゃあ行こ?」

 強引に僕の手を握り歩き始めた。

 

この人メンタル強ッ!しかも強引‼︎

僕は終始戸惑いながら彼女の後ろを歩いていた。


学校から離れた河川敷に着くと彼女は

「ここならいっか。」

突如座り始めた。

「ほら君も座って。」

「は、はぁ…」

戸惑いながらも座り彼女の顔を見る。

 顔を見ると男子達が羨ましがる理由がわかった気がした。


顔が小さく、二重で目もちょうど良い大きさで、可愛らしい顔をしている。


ってなんか見惚れて…いやいや…話がしたいって言ってたけど一体なんだ?


「それで話がしたいって言ってたけど…」

「そうそう!中井和希君だよね。」

「は、はい。貴方は…」

「あ、私は、加藤心。って言っても明日になったら忘てるかな?」

「⁉︎」

どうして明日になったら忘てると分かったんだ?

「どうして?知ってるんです?…」

「うーんと、昔よく遊んでて、その時教えてもらったんだけど、流石に覚えてないかー」


その瞬間僕の脳裏に小さな女の子と一緒に遊んでいる記憶が流れ始めた。しかし映像全体に白い霧がかかって、よく見えないし気持ち悪い感じだ。


「…み…こ…れ…」

「……よ……は……16……」

 記憶の奥底で途切れ途切れに言葉聞こえ何を言ってるのかわからない。

 

「ごめん…覚えてない。」

「いいの、全然謝らなくて。ダメ元で行ってみただけだから」

そう言う彼女の顔は切ない表情をしていた。


そして互いに気まずい時間が流れる…

 何を言っても思い出せないのだから、昔話など会話にならない。


どうしたものかと悩んでいる時だった

「あ、あのね…」

先に話したのは彼女の方だった。

「中学別の所に行ったって聞いて、ちょっと残念だったんだけど、高校の名簿見た時びっくりして。話しかけようと思ったんだけど、なんか変に緊張しちゃって中々話しかけれなかったんだよね。」

「そうだったのか。」

「だからね‼︎…ゴッホ…」

彼女が激しく咳をし始めてしまった。

「どこかおかしいのか?」

「…いや…大丈夫…いつもの…ゴッホゴッホ」

「やっぱり大丈夫じゃないってこれ」

少し落ち着いたのか、彼女は深く息を吸った。

「ごめんね…情けないところ見せて、でもほんと大丈夫‼︎いつものことだし!」

「普段が気になるんだけどそれ…」

「と、ともかく!こうしてやっと話せたわけだから、明日も話しかけに来るから!覚えてるかわからないけど」


 笑いながら答える彼女の顔は眩しくキラキラと輝いて見えた。


「わかった…僕も忘ないようにする。だから明日も話しかけてほしい。」

「!」

目をキラキラと輝かせながら彼女は僕の顔をマジマジと見つめていた。

「だから…よろしく…加藤さん」

「加藤じゃなくて、心で呼んでよ!私も和希って呼ぶからさ」

  

笑いながら言う彼女に僕は、気がつけば視線を奪われていた


そうして、僕たちは解散しそれぞれ家へと帰路を辿った。




晩ご飯を食べ終えた僕は、自室で今日の出来事を日記帳に書いていた。

「加藤心か…確かに言われてみれば、初めてじゃない感覚だったな。」


 そうして、日記を書き終え時刻は23時。

僕は明日への自分へ紡ぎ

『今日起きた出来事を忘ないように』

と心の中で祈りながらゆっくりと目を閉じ、

 今日という日に別れを告げた。

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