清算
上手く釣られた!
ダスプレトサウルスは人間と同じくらいの速さで走れる。スタミナがあるから長距離走ならダスプレトサウルスのほうが上だけど、手負いだからわたしが農場に辿り着くまでに追いつくことはないと思う。
必死に必死に走る。おびき寄せといて馬鹿な話だとは思うが、ちょっと危ないかも。
ダスプレトサウルスが100メートル後ろまで迫っている。躓けば後はない。
と同時に、セントロサウルスの群れも近づいてきた。ダスプレトサウルスの気配に気づき、臨戦態勢。角竜の刺々しい顔がずらりと横一列に並んでいる。興奮している様子だ。
ダスプレトサウルスもセントロサウルスの気迫に押され、少しペースを落とした。わたしを捕まえたいだろうけど、これだけの数のセントロサウルスを相手できないのだ。
ダスプレトサウルスが完全に立ち止まり、逡巡しているが、わたしはセントロサウルスに突っ込んでいく。
拳銃弾が届く距離までセントロサウルスたちに近づいたところで、立ち止まる。
あの子たちはわたしが見えているだろうけど、ダスプレトサウルスを警戒しているようで、まったく突進してこない。
今わたしは、わたしを殺せる恐竜に挟まれていて危険な立ち位置にいる。でもこれでいい。
静かな時間が流れる。ダスプレトサウルスは防衛陣地を築いてしまったセントロサウルスを前に、わたしに近づけずにいるし、セントロサウルスも防衛線を崩したくない。
突進してこないと意味がないけど、手がない訳ではない。
大剣を右手に預けて、左手で拳銃をセントロサウルスの群れに向ける。狙撃ではないから、多少照準が定まってなくてもいい。
荒野に響く破裂音と共に、地響きが起きる。
興奮していたセントロサウルスたちは、どこに撃たれたかも分からない銃声に怒り狂った。迷わずわたしに突進してきた。
何十頭とその子たちが突進してくるのを、躱しながら切りつけていく。目の前まで来たら、少し横によけ、前脚の付け根を叩き切るのだ。
肩が痛むから、左腕を使って下から切り上げる動きをメインにして、右肩を庇う。
そうこうしているうちに、わたしの周りにセントロサウルスが何頭と倒れていた。
仲間の死体には抵抗があるのか、ほかの子たちもここを避けるようになった。
ダスプレトサウルスを流し目に確認すると、セントロサウルスを相手に奮闘していた。フリルに喰らいついたりしているが、傷だらけだ。特に脇腹に角が刺さったのか、そこからの出血が酷いように見える。
セントロサウルスに突進されないか注意しつつ、ダスプレトサウルスの様子を伺っていたが、動きが悪い。もう致命的に見える。
群れの中心を見やれば、危険と判断した子たちがどんどん離れていく。上手く読みが当たった。
理想的な餌場でも、捕食者が出没するようなところには長居したくない。雌を中心に子どもたちを連れて移動を始めた。
汚い、悲鳴にも似た咆哮が響く。決着が付いたようだ。巨体が倒れる鈍い音と、群れがそそくさと撤退する地響き。
ダスプレトサウルスを無力化したと分かったこの子たちは、群れに置いていかれないように駆け足で去っていった。
頬についた鉄臭い液を手で拭った。
ダスプレトサウルスに歩み寄るけど、彼は力なく横たわっている。もうのたうち回ることもない。
「あなた、わたしのところのハンターを怪我させたわね? 悪い子」
クレイモアの剣先を、ダスプレトサウルスの喉元に突きつける。
当然、怒りはある。
でも、ゼエゼエと苦しむその血生臭い息は、見ていられなかった。
「もう、楽になるといいわ。また、ヴァルハラで会いましょう」
肩が痛むのを無視して、大剣を振り上げる。
躊躇すれば、この子は痛みを感じるだろう。そんなことはさせない。
一思いに、叩き切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます