重大事案

「おいただし! アンバーはどこにいる!」

「組合本部のケージの中に――」

「そんな狭いところに入れたのか!?」


 あそこはそんなに狭くないと思うんだけどなあ。いつも放し飼いだから、慣れていないかもだけど。


 鈴木君に頼んで装甲車で迎えに来てもらい、仲良くキャビンに押し込められている。


 ホルツ君は相当に青ざめている。最低限の返事しかしなかった。

 怒鳴ってやりたいけど、今じゃない。全部落ち着いた頃に、ゆっくり叱ろう。弾切れしていたし、相当怖かっただろう。


 バッカー君は、しばらく現場に出られそうにないけど、それでも(わたしの目測だけど)全治2週間くらい。応急処置で止血している。


 オストロム君はと言えば、鈴木君と何か口喧嘩をできるくらいには元気だけど、利き手の右手首を捻挫した。武器もないし、戦力外通告。


 ほかにも何人かいるけど、もうダスプレトサウルス相手にこんなメンバーでは立ち向かわない。


「ダスプレトサウルスの様子はどう?」


 ハッチから外を覗いているオストロム君に聞いてみる。彼は一度身をかがめて、単眼鏡を車内から取り出す。


「今、1.5キロくらい後ろだ。まだこっちに向かってくるぞ。しぶといな」


 ほんと。

 もちろん本気を出せばもう振り切っている。だけど、装甲車が途中でエンストしないように、慎重に運転してもらっている。ダスプレトサウルスを振り切ればいいと指示を出している。


 なんでこうもトラブルが続くのか。

 このピラーニャだって買い替え時。わたしが潰したのは承知だけど、ジープも壊れたし、どこかから貰わないと。


 セントロサウルスの群れだって解決はしていないし、ダスプレトサウルスはわたしたちを追ってじわじわ集落に近づいている。


 こうも悩みの種が多いと――。



 待って!!


「鈴木君、車を止めて!」


 慣性の法則に従って、キャビンの中が大きく揺らされる。


「アイリーンが変なことを言うからエンストしたじゃないか!」

「ごめん」


 謝りつつオストロム君が上体を出しているハッチからわたしも上体を出す。


 確かにダスプレトサウルスは遠くにいる。少しよたよたしているけど、まだわたしたちを獲物として見ているのだろう。

 右のほうを見ると、平原をうごめくセントロサウルスの群れが見える。


「鈴木君、今わたしたちどこくらいにいる? ウィリアムソン農場からどれくらい?」

「ここから1キロくらいで農場です」


 ならばあのセントロサウルスの群れは、大豆を食い荒らしていた子たちに更に合流した子たちだ。もう畑も酷いことになっているだろう。


 でもわたしの読み通りに反応してくれれば……。



「みんなは待機!」


 ピラーニャから飛び出し、キャビンに積んでくれていたクレイモアを取り出す。

 この大剣を振るうのも、何年ぶりだろう。

 ずっと事務所の壁に掛けていたけど、記念品ではない、武器だ。わたしの相棒だったんだから、使ってやらない手はない。



 日が落ちつつあり、辺りは燃えるように真っ赤。そろそろ夜行性の恐竜も動き出すだろう。



「おい! お前一人では倒せんぞ!?」

「一人に見える?」


 オストロム君たちが呼び止めようと、わたしはダスプレトサウルスに向かっていく。


「一緒に来いってか?」

「待機って言わなかった?」


 クレイモアを担いで、単身大型肉食恐竜のもとに歩いていくけど、勝算があれば怖いことなし。


 腰のホルスターのリボルバーにも、あと2発残っている。



 ダスプレトサウルスが、一人向かってくる獲物わたしに気がついたのだろう、歩くペースを上げて咆哮した。


 久しぶりにたぎるわね。


「来い!」

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