目覚め

 少女は桶の湯をまだ潔白な両手で静かにすくうと、自らの顔を優しくゆっくりと濡らした。

 水を怖がった目蓋が再び開かれると、黄金の瞳の持ち主は鏡に映る己の貌を見て静かに微笑んだ。

 その些細な所作さえもがあまりにも静謐で魅惑的だった。もし、この儀に立ち会う誰かがいたならば、その者はきっと黙して少女の虜となるのだろう。

 

 ――世界よ、彼女の覚醒を祝い給え。

 

 占い屋さんの女の子をじきに卒業し、救世主となる彼女と21名のアルカナによる巡礼の旅が幕を開ける。

 

 ――世界よ、彼女の決断に従い給え。


 三層の国境を貫く閃光が、大圧潰の調整が、彼らとの邂逅が、別れが、紛れもなく正しい救済の順序に他ならないと……かつての少女が証明してくれたのだから。

 

 ――世界よ、どうか彼女を……。

 

 だからもう、上手くやってくれと願うしかないのだ。


 ――どうか、讐いる相手を見誤らないように救ってあげてください……。

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