第30話 相思相愛?
たった今、理想の男性を見つけてしまった。厳ついゴリラのような顔立ちがとても好みよ。お父様もどちらかと言えばゴリラ寄りだし、似たようなタイプがいて本当に嬉しい。今までなぜ気がつかなかったのかしら? ただ体つきはお父様には遠く及ばない。それなりに鍛えてはいるようで、もやしのような細い身体ではないけれど、もう少しだけ筋肉が欲しいところだ。
でも、とても私を優しい瞳で見つめてくれる。なんというか、運命みたいなものを感じてしまうわ。私は思わず手を伸ばし、優しくゴリラ顔の頬を撫でた。
「貴男はどなたですか? できたら私と結婚していただけませんこと? あ、大丈夫ですわ。旦那様とは『白い結婚』ですからね。揉める材料はなにひとつございません。でも、なぜ貴方は旦那様の席にいらっしゃるの?」
軽率にも私の口が勝手に動いていた。旦那様、ごめんなさい。やっぱり、私はイケメンは苦手なの。お父様に似たお顔が好きなのですわ。
☆彡 ★彡
(オーガスタム視点)
なぜか、愛しのエメラルドが私の頬をそっと撫でた。
なぜだ? 今までこのようなスキンシップはなかった。結婚してからすでに2年の歳月が経ち、今では夜会や舞踏会にお茶会などは一緒に出席しているが、身体を触ることができるのはダンスの時だけだ。
カレーが口の横に付いていても、見とれるほど美しいエメラルドに、戸惑いながらも微笑みかけた。しかし、次の瞬間に頬をピンクに染めて言った妻の言葉に耳を疑った。
「貴男はどなたですか? できたら私と結婚していただけませんこと? あ、大丈夫ですわ。旦那様とは『白い結婚』ですからね。揉める材料はなにひとつございません」
「医者だ! 医者を呼べ! エメラルドが大変だぁーー!」
私は声の限りに叫び、カールもアーバンもエメラルドの言葉に驚愕していた。
「なんてこった! 記憶喪失ですか? 奥様、このアーバンはわかりますか?」
「えぇ、料理長でしょう? 今日のカレーも最高よ!」
「おっ、奥様。では、私はわかりますか?」
「うん、執事のカールよね。お昼を食べるようになったのはとても良いことよ。今度は3時のおやつも食べるようにしましょうね!」
「奥様、私とこいつはわかりますか?」
「あぁ、タヌキとキツネよ。醤油職人の新しい作業服を作ってあげるから楽しみにしていてね」
次々と質問がなされた結果、私以外はちゃんとわかっているらしい。
なぜだ? エリアス侯爵家お抱えの医者が言うには、原因不明とのことだった。
☆彡 ★彡
急遽、アドリオン男爵家に義両親をお迎えするための馬車を向かわせた。エメラルドはエリアス侯爵家にたくさんの魔石を持ち込み、便利で画期的なものを開発していた。そのひとつに魔石を使った蹄鉄がある。これにより馬の蹄の摩耗を防ぎ、走る際の衝撃も軽減できた。しかも、魔石の効果で通常の10倍の距離を、わずかな労力で走ることができる。そのため、わずか数時間後にはアドリオン男爵夫妻は私の目のまえにいた。
アドリオン男爵領で有名だという錬金術師ラディスラスという老人と、高名な医者や祈祷師、植物や薬草の専門家である草木師なども一緒だった。さすがに大金持ちのアドリオン男爵家だ。娘の一大事に思いつく限りの人材を引き連れて来てくださったのだ。
「これは病気ではないです。もっと、人為的なものだと思います。おそらく、錬金術師による秘薬を飲まされた可能性が高いですね」
錬金術師ラディスラスは、それぞれの専門家の意見を総合し、そのように結論づけた。しかし、私も使用人もエメラルドにそのような物を飲ませるわけがない。
「いったい誰の仕業なのだろう? とにかく、エメラルドには私が別人に見えるのですね?」
「そのようですね。どうやら、エリアス侯爵夫人にはエリアス侯爵閣下がゴリラ顔・・・・・・げふんげふん、ではなくて野性的なお顔に見えているようです。そして、ここが大事なのですが、エリアス侯爵夫人にとってはお父様でいらっしゃるアドリオン男爵様が、理想の男性らしいのです」
私は義父であるアドリオン男爵をじっと観察した。なるほど、紛れもないゴリラ顔! ということは・・・・・・これは僥倖だ!
「なんてことだ。その秘薬を飲ませた者にお礼を言いたい。つまり、今の私はエメラルドの理想の男性というわけだな? だったらこのままで良い。一生そのように見えていてほしい」
「私どもの娘を愛していらっしゃるのですね」
アドリオン男爵夫妻が満足そうに顔をほころばせた。私は迷いもなく頷いた。初対面の際にはとんでもないことをエメラルドに言ってしまったが、彼女と一緒にいると楽しくて自然と頬が緩むことを話した。
使用人達に気さくに話しかける人柄が素晴らしい。多くの知識と才能があって、珍しくも美味しい料理を考え出すことも天才としか思えない。それを美味しそうに頬張るところもたまらなく可愛い。エメラルドの良いところを数えだすと、きりがないことに気づく。
すっかり、私はこの面白い妻に夢中なんだ。
これは間違いなく恋。妻に本気で恋することができるなんて私は最高に運が良い。
ほとんど、のろけ話に近いことを延々と義両親にしゃべってしまった。はっ、恥ずかしい・・・・・・
「しっかりと頑張ってエメラルドの心をつかみ、一日も早く可愛い孫の顔を見せてください」
ますます、にこにこと笑みを深めるアドリオン男爵に励まされた。
「はい!」
☆彡 ★彡
「ゴリちゃん。あーんして。お肉も、お魚も、お野菜も、たぁーくさん、食べてね。それから、もう少し筋肉をつけると、もっと素敵よ」
隣に座ったエメラルドがぴったりと体を寄せながら、優雅な仕草でフォークに刺さった肉を私の唇に近づけた。彼女は優しい微笑みを浮かべている。私はその一口の肉を味わいながら、妻の愛と思いやりに感動していた。
あれから、私がオーガスタムだということを説明し、エメラルドが秘薬を飲まされたのだという推察も話した。
「なんて、素敵なのでしょう。旦那様がこのように見えることは、私にとっては最高のご褒美ですわ」
エメラルドも私と同じで、この状況を喜んで受け入れるつもりのようだ。それからの食事時の私は、いつもこのようにエメラルドにベタベタに甘やかされている。
どうやら、私の顔がゴリラ顔に見えている間は、エメラルドの心は私のものだ。だから、いっぱい愛を伝えて私のことを、もっともっと好きになってもらおう! 私の目標は愛する妻に愛されること。この面白くて賢くて美しい妻を、私は決して離さないよ!
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ここでいったん完結となります。こちらは「嫁コン」に参加させていただいておりますので、字数制限がありまして💦
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
☆彡 ★彡様も、少しでもいいな、と思ってくださったら、よろしくお願いします🙇♀️
「君を愛することはない」と言われた私ですが、嫁いできた私に旦那様の愛は必要ありません! 青空一夏 @sachimaru
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