第4章 宵闇の図書館の秘密
第28話 美味しいものは幸せを感じさせます
アモルを強引に器に移しました。文句を言う人には少しお仕置きをしても……良いですよね?
自身で一番の悪役顔で言ったのですが、なぜか引かれました。おかしいですね。冗談には冗談で返すのが流儀というものだと聞いたのですが、違うのでしょうか?
もう一つの可能性としては、冗談だと思われてないということですね。そんな怖い人がいるのですか? 私がそんな人だと思われたことに、恐怖を感じます。
「起きてから一時間ほど経っただけですが、色々あって疲れましたね。十分に休んでください」
誤魔化すために今日の出来事に触れましたが、本当に疲れましたよ。みんなは精神的な意味でしょうけれど、私だけは体力的な意味も含まれます。
体力がないと言いましたよね! 体力を酷使するクエストは嫌です。あまり負荷のない程度で、体力を使うのは良いのですけれどね。
「今日は休暇としましょう」
「やったぁ! 僕も休んで良いよね?」
「貴方には働いてもらいますよ」
「えぇ! そんなぁ」
アモルには私の教育を施します。私達の記憶を暇だからという理由で喪失させていたのです。
私の教育では治らない可能性が高く、雑用係としての仕事を行うということで落ち着きました。泣きそうになっているアモルのことは無視しましょう。
「お腹が空きましたので、なにか食べたいですね。作る時間はなかったですよね? 食べるものはありますか?」
「すぐに見つかると思っていましたので、朝食をご用意しております」
「そんなに僕って見つかりやすかったかなぁ?」
普通は簡単に見つからないと思いますよ。私がいなかったとしても、見つかっていた可能性が高いですけれどね。私の味方は強いですから!
「悪いんだけどさぁ、僕が働かなくても良いようにしてくれない?」
「働くことは大切ですので、進言はしませんよ」
「そんなぁ!」
文句を言う資格のないことをした自覚がないようですね。早めに教育を施すとしましょう。
悔しそうな表情をしながら、カエルムに引きずられる様子は哀れですね。
引きずられる程度では許されないことをしましたから、カエルムが許すまではその扱いが続くでしょう。
「あの方のことは放っておきましょう。今日の朝食ですが、カルパッチョとバゲットを用意しています。カルパッチョは生魚とお肉の二種類を用意していますので、どちらでも食べられますよ。ヴィシソワーズもありますので、持っていきますね」
「美味しそうです。楽しみに待っていますね」
「では、失礼いたします」
部屋に帰るために歩いていると、地下からでしょうか? 慌ただしい声が聞こえてきました。
ホーラが食事を運んできてくれているので、我慢して通り過ぎましたけれど、いったいなんだったのでしょう? 他にも人ではない者がいるようですね。
「そういえば、ディーネは留守番できなかったのですね。今度からは連れていくことにしましょう」
「本当に連れてってくれるの?」
ディーネがいると思っていなかったので、とても驚きました。ディーネの言葉に頷くと、ディーネの雰囲気が一気に明るくなります。
そんなに留守番が嫌だったのですね。
「ディーネも一緒に朝食を食べますか?」
「わたしも一緒に食べて良いの?」
「もちろん良いですよ。食べ物を食べられないというわけでは、ありませんよね?」
「食べなくても生きれるから、食べないことが多いけど……食べられるよ?」
そうですか。食べる必要がなかったとしても、美味しい食べ物を食べると幸せになります。
その幸せを味わってもらいたいですから、これからは一緒に食べることにしましょう。
食べ物の有難さについて考えていると、いつの間にか部屋に着いていました。
「ノウィル様、お待ちしておりました。ウンディーネ様と一緒に来たのですか」
「はい。ディーネの食事も準備してもらえますか?」
ホーラに狼狽えるような視線を向けられました。どういう意味の視線なのでしょう?
視線の先を見ると、私ではなくディーネに向かっていますね。もしかして、ディーネはホーラに食事を勧められても、食べなかったのでしょうか?
「ノウィル様の思った通りでございます。ウンディーネ様はお食事がお嫌いなようです」
「そうでしたか。勧めてしまって申し訳ありません」
「良いんだよ! わたしはノウィーお姉ちゃんと一緒に、食事を食べたみたいと思ったんだ。だから、謝らないで?」
慌てて弁解するディーネは、不謹慎ながら可愛いと思ってしまいました。
ホーラはそんなディーネの様子を面白がっているようです。
ホーラの面白がっている視線に気付いたディーネが、睨むように鋭い視線を向けていることが印象的でした。ディーネの可愛くない表情は初めてですから。
「ディーネも怖い表情をするのですね」
「えっ、あっ」
ディーネはこの世の終わりという表情をしています。私の言動で一喜一憂する姿はとても可愛いです。
それにしても、どこに絶望する要素があったのでしょうか? わかりませんが、安心させるために頭を撫でます。
「大丈夫ですよ。そんな怖い表情もディーネの一部なのでしょう? なにを見ても嫌いませんから、心配しなくて良いですよ」
「本当に……どんなわたしでも? わたしのこと嫌わないの?」
「本当ですよ。朝食を食べましょう? 美味しいものを食べると嫌なことも、忘れることができますからね」
それは違うという表情がホーラに表れていますが、私は美味しいものを食べて嫌な出来事を忘れたことがあります。本当のことなのですよ?
「うん。大好きだよ、ノウィーお姉ちゃん!」
そう言ってディーネは抱きついてきました。ディーネにもトラウマとなる出来事があったのでしょうか?
絶対に幸せにしてあげましょう。私が幸せにしてもらったように………。
「ちなみにディーネは、美味しいと思った食べ物がありますか?」
「魚を食べたことがあるよ。眷属から届けられたんだぁ」
「そうなのですね。まずは魚のカルパッチョを食べましょう」
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