第23話 フェニックスの受難

「ノウィル様のために地上の情報を集めなければなりません。フェニックス、お願いできますか」


「えぇっ、久しぶりに呼び出された用がそれだけなのかい?」


「はい。そうですが」


 あらまぁ、首を傾げて。なにが不満なのかわからないようだね。ちなみに私はフェニックスと呼ばれる幻獣だ。


 炎を操ると言われているね。その通りなのだが、少し違う。操るのではなく、炎を生み出すことができるんだ。


 四大精霊のサラマンダーは炎を操ることしかできないから、私のほうが上位の存在だと言われることもある。


 サラマンダーの炎を操る力は私よりも強く、全く規模が違うのだがね。


「わかったよ。私も見ていたからね、お前さんの主のことは気になっていた。情報の収集が終わったら、主さんに会わせてもらうよ」


「わかりました」


 今はホーラだったかい? ホーラの返事を聞いてから、すぐに飛び立ったよ。私は地上に行けるが、ホーラには翼がないからね。


 翼がほしいと前に言っていたから、そのうち飛ぶことのできる魔術を考えるのだろう。


 ホーラに勝てる唯一のところなのだから、あまり早く完成させないでほしいところだよ。


「あぁ、久しぶりの地上だねぇ。私の知らない場所が多いぞ? 数千年も経てば、変わるというものかね」


「おーい、そこの色っぽいお姉さん! 俺と楽しいことしない?」


 真昼間から、ずいぶんなお誘いだねぇ。私の美貌が衰えることはないからね。永遠の二十歳ってやつだ。


 私ら幻獣は長い時間を生きてるからか、みんな人型になれるんだよ。私を誘っても良いことはないが、幻獣の人型は美しいから発情するのも納得だ。


「お前さんでは無理だよ。私に耐えられない」


「ええっ、お姉さんこそ俺に耐えられないと思うんだけど?」


「そういう意味じゃないよ。黒焦げになっても良いかいと聞いているんだ」


 私に害意を向ける者は例外なく黒焦げになってしまうんだ。まぁ、こやつさんが私に向けてるのは害意じゃないがね。


 そういう思いも黒焦げになる対象だ。私が本当に愛している奴だったら、別なんだけどね。


「黒焦げ? そんな脅しは通用しないよ、っと。ギャアァー!」


「だから言っただろう?」


 私の手に触ったから、手が火傷してるよ。可哀想にねぇ。自業自得とも言えなくもないがね。


 私に冷たくされている男を見物してた人々も、このおかしな状況に気付きだしたようだ。この街にはもういられないね。


「私の相手は一人だけって決まってるんだよ。お前さんには生理的嫌悪を感じる。これに懲りたら女の子をひっかけないことだね」


「わかったっ、わかったから! 誰かこの手を直してくれっ!」


 おやまぁ、痛みに弱い子だね。そういえば、誰かが言っていたような? 人を傷つけることに長けている奴は、逆に傷つけられるのになれてないと。


 そうか、こやつさんは女の敵かいな。もう少し懲らしめてやろう。


「なにをするつもりだ? 嫌だ、やめろっ! ギャァアー!」


 聞くに堪えない醜い悲鳴だねぇ。顔に手を当ててやったから、無駄に格好良い顔にひっかかる女の子も減るだろう。


 ふふっ、これで女の子が傷つかない。久しぶりに、良いことをしたなぁ。さて、地上のことを調べるかね。


 ついでにホーラの主さんのことも調べようか。ホーラの主さんがそこから来たのかは別として、あの場所に繋がる転移魔方陣があるだろうからね。


「ふぅ、とりあえず違う場所に行こうかね。ここだと、視線が煩わしい」


 姿を変えるために路地裏に回り込むと、さっきの火傷した男が追いかけてきたよ。


 どういうつもりなのかね。私に報復するのは無駄だと悟っているだろうに。それとも、悟れないほど馬鹿だったのかい?


「死ねや!」


 後者だったみたいだねぇ。悟れないほど馬鹿だったようだ。小さいナイフを私に向けて刺そうとしているみたいだね。


 そんな遅い動きじゃ、私を刺せないよ。そんな小さいナイフだったら、すぐに再生するしねぇ。


「まぁ、面倒だから気絶しときな」


 首辺りに手刀を当てる。思いっきり振りかぶって手刀を首に落とすと、なぜか首か切断されるんだよねぇ。


 手に血が付くし、嫌だと思わないかい? だから、当てるだけにしておくんだ。首に火傷をするからか、大人しく気絶してくれるからね。


「はぁ、情報収集できてないじゃないか。次は海沿いの街に行くかね」


 私の災難はまだまだ続くみたいだ。海ではクラーケンに絡まれて、次に森に行ったらベヒモスに戦いを申し込まれたよ。


 なんでかね。情報収集ぐらい何度も経験してるはずだよ。ホーラの主さんと早く話したいし、早く終わらせたいんだけどね。もう少し終わらなさそうだ。

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