第8話 スキルを使ってみましょう

 温室は庭園の隣でした。全く気づきませんでしたよ。庭園と同じように外に出ているように見えますが、繋ぎ目が一切ないガラス張りの部屋です。


 どうやって作ったのでしょう。魔法で作ったのでしょうか? それは後で考えましょう。今はセフィロトの樹のことを考えなくては。


「主様。これがセフィロトの樹なのです」


 セフィロトの樹は温室の中心に位置しています。温室の天井を覆うほど幹を伸ばし、葉を生やしている光景は壮観です。


 太陽の光も隙間から射すので、セフィロトの樹が輝いているように見えますね。なにも変なところはないのですが、本当に封印されているのでしょうか。


「実がなっていないのです! 主様の話が現実味を帯びてきたのです」


 セフィロトの樹の実を食べると永遠の命が手に入れられると言われていますが、ここでもそうなのでしょうか。


 とはいえ、実がなっていないことが重大なのはよくわかりました。


「セフィロトの実、すっごく美味しいんですよっ。ご主人様も食べてみてほしいんですっ」


 あっ、美味しいだけでしたか。ウェスペルもカエルムも蕩けるような笑みを浮かべているので、美味しいのでしょう。


 ノクスの苦々しい顔を見ると、美味しくないのではと疑いたくなりますが。


「美味しすぎるから、争奪戦になるんだよな。いっつも負ける」


 そういうことだったのですね。食べたいのに食べることができないという悔しい思いを思い出して、苦々しい顔になっていたのでしょう。


 もしかしたら、ノクスがこの中で一番弱いのでしょうか。ウェスペルやカエルムのほうが弱そうに見えますが、そこは私の身長と年齢が合っていないのと同じですね。


「とりあえず、アルカナを使ってみるのです。主様、お願いするのです」


「【アルカナ】」


 〈呼ぶ番人を選択してください。【愚者:アレフ】【魔術師:ベート】【女教皇:ギーメル】【女帝:ダレット】【皇帝:ヘー】【教皇:ヴァヴ】【恋人:ザイン】【戦車:ヘット】【力:テット】【隠者:ヨッド】【運命の輪:カフ】【正義:ラメド】【吊るされた男:メム】【死神:ヌン】【節制:サメフ】【悪魔:アイン】【塔:ペー】【星:ツァディー】【月:コフ】【太陽:レーシュ】【審判:シン】【世界:タヴ】〉


 二十二人もいるのですから、覚えるだけでも時間がかかりそうなぐらい多いです。


 私は永久記憶のおかげで覚えていることができますが、もし覚えることができなかったら世界が滅びることになるのでしょうか? 冗談では済まされませんね。


「全ての番人をを呼び出したいと思います」


 〈魔力が一定の量に達していません〉


 そうですか。でしたら、呼び出す番人は運命の輪の番人と世界の番人のどちらかですね。星の番人でもいいかも知れません。


 運命の輪は幸運の到来などという意味があり、世界は永遠不滅などの意味ですね。星は絶望からの再生などの意味だったはずです。ですので、どれかを選べば良いと思うのですよね。


「運命の輪の番人、世界の番人、星の番人の誰かを呼び出そうと思うのですが、皆さんはどう思いますか?」


「世界の番人は呼び出さないほうがいい。反転してたら、それこそ世界が崩壊する。星の番人は絶望があるからやめたほうがいいな。運命の輪の番人は反転してても、大丈夫じゃないか? 一か八かだろうけどな」


「反転とはなんでしょう?」


 タロットでいう逆位置のことでしょうか。運命の輪は解放などの少し良い要素がありますが、世界は衰退などという悪い要素しかありません。


 ノクスが言っていた星の絶望はタロットの逆位置のときの意味です。やはり、タロットの逆位置が反転なのでしょう。


「反転はねっ。悪意を受け入れすぎることによって、悪に染まった番人のことだよっ。番人が反転しちゃうと、世界の理が変わるから要注意っ。死神の番人みたいな元から悪意に染まった番人は、好意を受け入れすぎることによって反転するのっ。死神の番人が反転するのは良いことだから、そんなに気にしなくても大丈夫っ」


「ここ百年で悪意が増えたのです。番人が反転してる可能性が高いのです。もしかしたら、悪意を受け入れないために、セフィロトの樹の守護神様が封印を施したのかもしれないのです」


「セフィロトの樹は番人が受け入れた悪意を浄化する役目を持つからな」


 ふむ。番人はセフィロトの樹の番人ではなく、世界の理の番人ということですか。


 そして、セフィロトの樹を守護するのはセフィラということでしょうか。聞いてみましょう。


「セフィロトの樹の守護神様はセフィラと呼ばれているのではありませんか?」


「なんで知ってるのっ? もしかして、ご主人様の世界にもいるの?」


「いるというよりも、いたのほうが正しいでしょうか。とはいえ、いたかどうかも怪しいのですが」


「どういうことっ?」


「伝承という形で語り継がれているというだけでして、神様の声が聞こえると言ったら異端者として爪弾きにされる可能性のほうが高いです」


 ウェスペルは視線を落として、カエルムはウェスペルを心配そうに見つめています。


 異端者という言葉にびくりと反応したので、なにかあったのでしょうね。可愛いウェスペルは笑っているほうが似合うので、詮索などという余計なことはしません。


「では、運命の輪の番人を呼び出したいと思います」


 〈【運命の輪:カフ】が選択されました。召喚に数十秒かかります。しばらくお待ちください〉


「少し時間がかかるようです。聞いておきたいことがあるのですが、良いでしょうか?」


「うんっ。大丈夫だよっ」


「セフィラは十柱でしょうか?」


 神様ですから〝人〟ではなく〝柱〟ですよね。ウェスペルは笑っているので、もう大丈夫でしょうか。ゆっくりとウェスペルのことも知っていきたいですね。


「そうなのです。セフィラは十柱なのです」


「守護天使もいるよっ。それぞれにねっ」


「そうなのですね」


 ほとんど同じということですね。私の世界のセフィラにも守護天使はいますから。


 運営の中に私のように知っている人がいたため、こういったクエストがあるのでしょう。


 〈【運命の輪:カフ】が召喚されました〉


 〈エクストラクエスト〝カフと契約しよう〟が発生しました。契約されなかった場合、世界から運命が消滅します〉


 ここで契約師の出番というわけですね。運命が消滅とはどういうことでしょうか。気になりますが、消滅させないようにしなければいけません。


 それに、カフと契約すれば運命の消滅がどういうことかもわかるでしょうし。カフ様との契約クエスト、スタートですね!

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