第5話 妖精との契約と新しいジョブ

「ノウィル様、お部屋に到着いたしました。妖精は契約をしていない状態ですと、主人に仕えることができません。ですので、名前をお付けください」


 〈契約魔術を取得しました。取得条件は誰かに契約魔術の存在を教えてもらうことです。契約魔術に妖精契約の項目が増えました。妖精と契約することができます。サブ職業に契約師が追加されました。契約魔術が契約師に統合されました〉


 ふむ。職業は正式な職業といわゆる副業みたいなものがあるということですね。契約師はどの場面でも使えそうです。


 ふと思ったのですが、魔術ということは古代魔術の一種ということでしょうか。ホーラに教えてもらいましょう。


 〈ワールドアナウンスです。プレイヤー名ノウィルにより、契約師が解放されました。そのため、プレイヤーは契約師を選ぶことができるようになりました〉


 もうアナウンスは放っておきましょう。私のすることなすこと全てを筒抜けにしているようで、正直なんというか気持ち悪いです。


 それは置いておくとして、侍女妖精は二人で、双子のようにそっくりです。


 髪は腰ほどの長さになります。オレンジ色で右側の一束が青色の少女と、青色で左側の一束がオレンジ色の少女です。


 ホーラと同じメイド服を着ていますね。執事妖精は一人でして、これぞ執事という服を着ています。


 髪は長髪で首のところで纏められています。漆黒の髪の所々に金色が入っています。


「貴方はラテン語で夕方を表すウェスペルです。そして貴方は空を表すカエルムです。どうでしょう?」


 オレンジ色で右側の一束が青色の髪の少女と青色で左側の一束がオレンジ色の髪の少女に聞きます。


 ラテン語はもう使われていないどころか、ほとんど知られていません。ですが、私は個人的に言葉の響きが好きです。


「ウェスペルの名、頂戴いたします。誠心誠意お仕えする所存でございます」


「カエルムの名、頂戴いたします。誠心誠意お仕えする所存でございます」


 同時に同じ言葉を言いましたね。さすが双子! ところで、妖精に双子という概念はあるのでしょうか。


 もし双子が生まれるのならば、感情が二つに分かれたということですよね。


 ウェスペルとカエルムを生み出した侍女の方はよほど強い思いを持っていたのですね。


「最後に貴方は夜を表すノクスです。気に入らないようでしたら、教えてください」


「いいえ。ノクスの名、承ります。なにかあればいつでもお申し付けください」


「ノウィル様。古代魔術と魔法の違いについてお教えしますので、昼食が終わった後に第一図書室へ来るようお願い申し上げます。場所がわからない場合はノクスに聞いてください。それでは、私はこれにて失礼させていただきます」


 ホーラが行ってしまいました。寂しい。でもウェスペルもカエルムもノクスもいるもん。


 寂しくなんてないんだもん! ちょっとふざけました。蝋燭が白い目で見ている気がします。


 やはり蝋燭にも自我がありそうですね。そして私の考えていることは筒抜けと。


 蝋燭に筒抜けなのはまだ許せるのですけれどね。よくわからないアナウンスに筒抜けなのはちょっと遠慮したいところです。


「ご主人様、部屋はどうでしょうかっ! ホーラ様がいたので、慣れない敬語を使ってたんですっ。無理そうなので、ご主人様に敬語なしで喋ってもいいかだけ聞きたかったんですっ」


「私は別にかまいません。私は普通でこういった喋り方なので、私のことは気にしないでくださいね」


「はいっ。わかりましたっ」


 無理に強要するのも可哀想ですしね。ちなみに今喋っていたのはウェスペルです。


 落ち着いた感じだと思っていましたが、はしゃぐ様子はとても可愛いですよね。


「主様、私もよろしくなのです。敬語は難しいのです。無理だと思っていたのです」


 可愛いです。カエルムが可愛い。〝のです〟ってなんですか? 可愛すぎます!


 ただでさえお人形みたいに整った容姿をしているというのに、独特な言葉も相まって可愛いです。ノクスはどうでしょう。


「そんな期待した目で見られてもなにもありませんよ。ただ少し敬語を外すぐらいですからね、俺は」


 一人称が〝俺〟。初めてです。忘れているかもしれませんが、弟のウィレンは〝僕〟なのですよ。


 図書室に籠りっきりの生活だったので、ほとんど人と話したことがありません。


 そういえば、私は人見知りというわけではなかったのですね。人と過ごすことで初めてわかることもたくさんあります。


「〝俺〟って言っただけで喜ぶとかどんな生活してたんだ? 閉鎖的な場所で暮らしてたっていうわりには、社交性がある。貴族ってのはどうだ? 貴族って一人称がだいたい〝私〟だろ? そうか、貴族なのか」


「私は貴族じゃないですよ」


「じゃあ、なんだ?」


 ノクスの言葉遣いが崩れてきています。そんなに私は不可思議な存在でしたか? よっぽどノクスのほうが不可思議だと思いますが。


「本が好きなので図書館に籠っていただけです。いわゆる引き籠りですね。とはいえ、学業については飛び級で大学を卒業していますので、引き籠りではなくニートですね」


「わからない言葉ばっかりだったが、親のすねかじりってとこか?」


「一応、稼いではいますよ。一生暮らせる分は稼いだので、あとはゆっくり自分の趣味を存分にというところでしょうか。親は研究馬鹿ですので、私に任せるといった感じで毎月度が過ぎるお小遣いはもらえますが」


「意味がわからないのです。主様、お金持ちなのです?」


 カエルムが会話に入ってきました。きょとんとした様子がとても可愛いです。ウェスペルも同じようにきょとんとしています。さすが双子ですね。


「そうですね、お金持ちですね。私はお金持ちという結論で終わりましょうか」


「そうだな。いつまで経っても終わらなさそうだし」


 ノクスの言う通りこのままでは、いつまで経っても終わらなさそうですね。


 実は自分で稼いだ分はほとんど手を付けていません。なぜなら両親はお小遣いを使わないと増額してきますので。


 思わず遠い目をしてしまうのも仕方ないと思いますよ。増額はなぜか一億単位なので。


「それはそうと、これからよろしくな。もう言葉はこのままでいくわ。それにしても、なんか主は不思議だよな。俺達の前に急にやってきたのに馴染むとことか」


「そうですか? ところで私はどのような存在として認識されているのでしょう」


「ああ、それ気になる? うーん、簡単に言えば神様の使徒かな。神様の加護を受けることによって、別次元からこの世界にやってくることができた。そう認識してる」


「神様って運営のことでしょうか?」


「運営ってなんだ?」


 本当は駄目なのかもしれませんが、他のプレイヤーに関わるつもりはありませんし。


 いいですよね? 本当のことを教えても。アカウントを消されると困りますが………それはそのときにでも考えましょう。

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