第17話 幸せ

 力の入れすぎで腕が疲れてきたので、さすがに耳を塞ぐのをやめた。足音が聞こえたので「Kが、来る!」と思ったのか、私は急いで顔をトイレの水溜りに浸けて、怯えながら待っていた。終わった…と思ったその時だった。











「A、もう大丈夫だ。出ておいで」











先生の声が聞こえた。私は恐る恐るトイレから顔を覗かせた。その視線の先には、先生の姿があった。私の事に気づいた先生は両手を広げてこう言った。










「もう大丈夫だ、おいで」







    




私は少し躊躇した。制服も顔も水で濡れているし、何よりすぐ近くで他の生徒と先生が整列しているというのに…。でも私は駆け出していった。だって…











先生の側に居たい


  













そんな感情が何よりも勝ったのだ。そして私は先生に抱きついた。先生の大きくて、温かい腕に包まれていた。嬉しさが込み上げてきて、涙が溢れた。先生は何も言うことはなかった。でも私はそれで良かった。

この時、この瞬間、私は始めて知った。







 

   














 






これが『幸せ』だと。
























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