第21話 今夜は鍋パーティと勝負下着

 井村屋先輩の気持ちは嬉しい。

 だが、俺には瑠海がいる。

 ここはやんわり断ろう。


「ご、ごめんなさい。ちょっと無理です……」

「やっぱりかー」

「え?」

「ううん、なんでもないの。今はこれでいいや」


 連絡先を交換して満足したのか、井村屋先輩は背を向け去っていく。

 これで良かったらしい。

 俺としても助かったかな。



 学校を出て少し歩くと車が止まった。

 窓から顔を出して俺の名を叫ぶ女性……って、この声はまさか。



「隼く~ん!」

「る、瑠海! なんでここに!」

「ちょうど仕事が終わったとこ。さあ、車に乗って」



 なんというグッドタイミングだ。助かった。

 ありがたく車に乗らせてもらった。

 助手席に座ると、瑠海が首をかしげていた。


「ど、どうした?」

「ねえ、隼くん。なんかいつもと匂いが違うよね」


 俺の匂いを犬のようにクンクンと嗅ぐ瑠海。……やっべ、井村屋先輩の匂いがついちゃったか。結構近い距離で話していたからなぁ。

 ここは……誤魔化すしかない。


「あー…科学の実験で制服についたのかなー」


 結構苦しい言い訳だったが、瑠海は納得していた。



「そっか~! そうだったんだね!」



 それでいいのかよっ!

 なんだか申し訳ないが、井村屋先輩のことは伏せておきたい。告白されたとか言ったら、瑠海は泣き出してショックを受けるに違いない。



「そ、そうなんだよ。さ、さあ……帰ろう」

「そうだね。うん」



 器用にハンドルをさばき、車を走らせる瑠海。十分も経たず到着した。

 後部座席にはたくさんの買い物袋。


「買い物してきたんだ」

「今夜は鍋にしようかなって。だから、たくさん買い込んだの」

「そりゃいいな!」

「でしょ~。しゃぶしゃぶしようね」


 可愛い口調で楽しそうに微笑む瑠海は、まるで子供のようで純粋だった。な、なんて可愛いんだ。思わず抱きしめたくなった。


 けれど、それよりも瑠海が買い物袋を重たそうに持ち上げていた。こっちが先だな。


「瑠海、俺が持つよ」

「ありがとう、隼くん」


 二袋もあるなんて、かなり買い込んだようだな。

 アパートまで運んで、ようやく帰宅。


 買い物袋をダイニングのテーブルに置いた。ズシッと重厚感のある音が響く。中身は野菜やお肉など鍋料理の具材がたくさんだ。


 それに、ブラジャーとパンツ……うぉ!?!?


「こ、これは……」

「あああああああああ! そ、それ私の!!」


 赤面しながらも瑠海は、下着を俺から奪い取った。……そ、そうか。あれは瑠海の下着か。


「今のは……鍋にいれるのか?」

「そ、そんなわけないでしょ! 新品で買った下着なの。はしたなくて、ごめんね……」


 それにしてはド派手だったけど。いわゆる勝負下着ってヤツではなかろうか。……って、えぇ!? まさか、俺の為に……?


「瑠海……えっと」

「…………そ、その。隼くんが喜ぶかなって」


 その言葉に俺は喜んだ。

 嬉しすぎるって!


 瑠海は俺にとって妹でもあり、恋人でもある。だからお互いを求めることもあった。けど、基本的には俺から手は出さなかった。あの最初の頃以外は。

 最近では瑠海から俺を求めてくるようになっていた。


 そうか、その為にとは……!


「夜が楽しみだ」

「……うん。今夜はいっぱいしようね」

「……お、おう」


 最初に出会って経験した以来振りか。しかも今回はあの時は状況が違う。当時は、千城を懲らしめるために瑠海を寝取ったつもりだった。だが、今では相思相愛の仲。幸せいっぱいだ。


 可愛い義理の妹が俺のこと好きすぎるくらいに。

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