第20話 とある先輩さん

 いつもの生活を続け――翌日。

 久しぶりに学校へ行かねばならない。

 学生服に着替え、俺は仕度を済ませた。


「そろそろ出るね、瑠海」

「うん、気を付けてね。私もこれから出勤する」


 瑠海は瑠海で仕事がある。どうやら通販関係の職場らしい。

 玄関で別れ、俺は学校へ向かった。


 しばらく瑠海と会えないと思うと辛いが、今は我慢だ。



 学校へ徒歩で向かい、十五分後には到着。

 前は朱音と登校したものだが今はひとりぼっち。

 仕方ないよな……。



 少し寂しさを覚えつつも俺は教室へ。

 季節は秋……高校二年の生活もあと半年か。はやく卒業して瑠海と一緒に暮らしたい。


 淡々と授業を受け続け――昼休みを迎えた。



 廊下へ向かい、瑠海にでも連絡を取ろうと人気のない場所を目指した。が、誰かが俺の名を呼んだ。


「大島 隼くんですよね」

「……? はい、それは俺の名前ですけど」

「やっぱりね。わたしは三年のむらむら ひょうというの」


 なんだか変わった名前だなと俺は思った。

 けれど、なんというか……ギャルっぽくて可愛い。制服越しでも分かる巨乳だ。こんな先輩さんから声を掛けられる覚えはないんだがな。



「井村屋先輩、俺になにか用ですか?」

「そうなの。ちょっと話を聞いて欲しいんだ」

「……話、ですか。分かりました」


 いったい、なんの話だろう。

 気になって聞くことにした。


 ひとまず学校の屋上へ向かった。屋上は人気がなく、俺と先輩さんだけだ。


「まず、千城のことなんだけど」

「……!? か、千城って、千城先輩ですか!?」

「ごめん、驚いたよね。そうなんだ、彼とわたしは付き合っていたの」


「なっ……!」


 そうだったのか。この井村屋先輩と千城はそういう関係だったのか。だが、千城は朱音と関係を持ってしまった。

 となると、今のこの人と千城の関係もかなり悪いはずだ。



「当事者だから分かると思うけど、大島くんの妹さんと大変なことになっていたみたいね」

「はい……事件が起きましたからね」

「それを聞いてわたしは千城と別れたの」


 寂しそうに声を漏らす井村屋先輩。千城のことが好きだったんだろうな。けど、千城は一昨日に『退学』してしまった。早くも仕事に就き、ひとりでやっていく決意を固めたらしい。


「なるほど、井村屋先輩のことは分かりました。お互い大変でしたね……」

「そうなんだよね。いろいろありすぎた……だからね、ちょっと寂しくてね」

「寂しい、ですか」

「そうなの。ねえ、大島くん……よかったら、これからも話してくれる?」

「それはもちろん、構いませんよ」

「ありがとう。これからもよろしくね!」


 井村屋先輩は少し元気になったのか、微笑んでいた。おぉ、なんて可愛い。

 俺もなんだか元気を貰った気分だ。

 午後の授業もがんばれそうだ。


 昼休憩が終わる直後、井村屋先輩は連絡先を交換しようと提案してきた。俺は嬉しくて交換をこころよく承諾した。……って、まてよ。これは浮気では……ないよな?

 ま、まあ……学校の先輩というだけの話。それだけなんだ。なにを気にする必要があるんだ。



 ――しかし、その放課後。



 俺はそのまま帰ろうとしたが、井村屋先輩が廊下で待っていた。


「井村屋先輩」

「大島くんを待っていたの」

「俺をですか?」

「……ちょっとこっち来て」


 腕を引っ張られ、俺は断ることもできず、ついていくことに。

 人のいない廊下の隅に連れて来られた。


「どうしたんです?」

「ねえ、大島くん。付き合っている人とかいるの?」

「……えっ」

「よかったらさ、わたしと……どうかな」


 な、なんだこの告白みたいな雰囲気。いや、すでにされちゃったのかコレは。井村屋先輩が俺に告白!?

 どうしてこうなった……?

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