特別編

第16話 通り魔殺人事件

 銀色のナイフが俺の頬をかすめた。

 刃は皮膚をわずかに裂き、血を垂れ流した。ぽたりと雫となって地面に落ちる血の粒。

 俺は瑠海を守るために盾になっていた。


「瑠海!!」

「隼くん……血が!」

「そんなことよりも通り魔だ!」


 ここ最近物騒なニュースが連日報道されていた。


 通り魔殺人事件だ。


 犯人は人気のない道を選び、少人数を標的にしてナイフで刺し殺しているのだという。しかも、若い女性を狙って。だから俺は瑠海を守るようにして歩いていた。


 まさか狙われるなんて思いもしなかったけれど。



「……クク、ククク。ようやく巡り合えたな」



 パーカーのフードを深く被る男らしき通り魔。不気味に笑い、血のついたナイフを向けてくる。



「だ、誰だお前……」


「お前を見つけるまでに三人も殺しちまった。重症も三人だ。俺はもう引き返せないところまで来てしまった……。だが、後悔はない」


「な、なに……?」

「この顔を覚えているか、大島 隼!」



 通り魔の男はフートを脱ぐ……すると。


 それが水田だと分かった。



 マジかよ!!



 水田 陸。

 瑠海の元恋人だ。でも、彼は瑠海を捨てた……。そして自分自身も捨てられた憐れな男だ。以前は俺と瑠海の仲を見せつけてやって敗走していった。


 だが、今は“通り魔”ってワケかよ。



「陸くん……ウソだよね……。あなたが通り魔?」



 瑠海も信じられないと言葉を漏らす。

 そうだろうな、元恋人が犯罪者だなんて思いたくはない。俺だって、まさかこの人がこんな凶悪犯罪を犯しているとか予想外だった。


 きっと俺と瑠海に恨みを持っての犯行だろうけど、筋違いだ。



「瑠海……! お前を殺して俺も死ぬ」

「そんな、やめて!」

「もう遅い。俺は罪を犯し過ぎた。どうせ死刑だ! なら、お前達を道連れにしてやる!」


 再びナイフを握って向かってくる水田。このままでは俺も瑠海も殺される。


 けどな、俺はもう以前の俺ではない。


 大好きな瑠海の為に必死に体を鍛え上げた。


 毎日、腹筋や背筋、腕立てを100回……走り込みも一時間、更に格闘術も学んだ。たった一ヶ月だが、それでも常人よりは強くなった。


「瑠海! 俺から離れるな」

「うん、隼くん!」


 叫んで突っ込んでくる水田。ナイフの先が俺の胸の辺りに迫ってくるが――回避。うまくかわして、そのまま水田の右腕にチョップを入れた。



「ウラアアアアアア!!」

「があああぁぁッ!?」



 カランと地面に落ちる凶器。

 俺はそのまま水田の胸倉を掴み、一本背負いした。



「くらえええええええええええええええ!」

「な!? な!? うあああああああああああああああああああああああ!!!」



 水田はそのままひっくり返り、体を地面に打ちつけた。失神し、白目をむいて泡を吹いていた。



「……ふぅ」

「す、すご! 隼くん、すごい! いつの間にそんな技を覚えたの!?」


「通信教育の空手が役に立った。それに最近は鍛えまくっていたからね」



 直後、たくさんのパトカーが駆けつけてきた。誰か通報してくれたらしい。

 水田は緊急逮捕され、連行。

 俺は負傷していたこともあり、救急車で運ばれることに。瑠海は事情聴取の対応に追われることに。あとで病院に駆けつけてくれることになった。


 なんであれ、瑠海を守れて良かった。



 次の日、水田のことは大々的に報道された。通り魔殺人の犯人が逮捕されたと。しかも、高校生が体を張って恋人を守り、逮捕に至ったとまで書かれていた。


 これ、俺のことか。

 名前こそ出ていないが、ニュースに載ってしまった。

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